経営者になるという事
目が見えない事。
それが、かえって、自分の感覚を研ぎ染ませている。
昔は、感じなかった人の気持ちがより、繊細に伝わってくる。
音も、そうだ。
細かくさざめく音の中も、気になる人の息遣いがわかる。
今の自分は・・。
澪は、一人、部屋にいた。
「生きなきゃ、ダメだ」
絶望と闇に包まれた時。
彼が囁いた。
「一緒に逝く」
澪にとって、彼が全てだった。
このまま、彼と一緒に生きていく。
今日の幸せが明日も、続くと思っていた。
何、不自由ない生活が、約束されていた。
「だめ!死なないで」
自分の右膝にあった彼の手の感覚。
次第に冷たくなっていく。
「澪・・・生きて」
彼が何処にいるのか、わからない
全身の感覚を鋭く尖らせ、彼の命の炎が消え掛かっている事を知った。
絶望。
「蓮斗!」
彼の声が聞きたい。
「どこにいるの?蓮斗!」
手探りで、辺りに触れる。
「澪・・」
突然、闇夜に浮かぶ、エメラルドの光。
「何があっても・・・生きて」
触れた蓮斗の手。
それは、冷たく。
最後には、力を失った。
あの日。
全てが変わった。
何でも、自分で、自由にできた。
どこまでも、一人で、出かける事ができた。
今は、人の手を借りないと、何もできない。
自分の運命に逆らいたい。
あの日に、自分は、死んでしまった。
蓮斗との未来も全て。
それなら、自分で、できる事を始めよう。
そう、思って、今まで来た。
両親の気持ちもわかる。
自分を心配して、結婚相手まで、決めたたのだろう。
だが。
違う。
あの日があの事があったから、決める事ができた。
「ママ・・・。パパにどうしても、伝えたい事があるの」
澪は、携帯を取っていた。
「高岡さんとは、結婚しないし、会社も継がない。自分で、やりたい事があるの」
電話の向こうの父親は、慌てていた。
「結婚はできないから、会社はいらない。でも、自分で、ここまで、大きくしたサロンは、続ける」
胸の中で、小さく燻っていた炎が、赤く、燃え上がっていた。
「自分で、責任を持つから、最後まで、やらせてほしいの」
視力を失った自分にしかできない事。
以前から、構想していた事があった。
澪は、父親に、自分が以前から、構想していた内容を伝えた。
「そんな事を考えていたのか・・」
視力を失った娘の考えに、澪の父親は、舌を巻いた。
「やってみるといい」
「えぇ・・でも、結婚はしないから」
澪は、言い切った。
こんな自分が、普通に結婚できるとは、思っていなかった。
だけど、同じ、視力を失った人達に、何かができると言うキッカケを作りたかった。
「そこは、まだ、決めなくていいじゃないか」
父親は、そう言って、携帯を切った。
高岡の仕事に対する能力は、知っている。
だからと言って、結婚するのは、別。
澪は、悩みながら、海の携帯をかけるか、悩んでいた。
彼とは、付き合っている訳ではない。
かといって、友達という訳でもない。
だから、今回のロケの事も、シーイが来ない事を、知る術もなかった。
頻繁に話す事もないのだ。
番号の交換は、したものの、メールもラインも交わしていなかった。
「いま・・何しているの?」
音声で、ラインを送ってみた。




