追いかけるのは、父の背中
「君を見ていると、昔、知り合った人を思い出してね」
高速道路を運転しながら、榊さんは言った。
オーケストラの審査員として、同席していたが、わざと、僕を落したと彼は、後から言った。
「集団の中に埋もれる気か?」
榊さんは、僕の個性を表現した方がいいと言った。
あまり、よく知らない人に、僕の事を話すのは、どうかと思ったが、YouTubeであったゴタゴタの事を話してみた。
「え?君だったの。」
シーイの事は、知っているようだった。
「君自身が、楽器のようだね」
少し、笑った。
僕に父親がいたら、それよか、少し年上なんだろうか。
彼は、よく笑う。
「食べる事が好きなんだけどね」
音楽の聴けるレストランを目指していると言う。
「もう一人、声を掛けている人がいるんだよ」
「バイオリニストですか?」
「いや・・・バイオリニストは、君だ。ピアニストを考えていてね」
「ピアニストなら、今までも、たくさん、いましたよね」
「う・・ん。僕が、求めているのは、枠にはまらないタイプ」
「はまらないタイプ?」
「普通の事を、普通に弾ける子は、いらないんだ。少し、型破りな子がいい。君みたいな」
「僕?ですか」
「歌も歌えるなら、ピアノに合わせて、歌ってもらうのも、いいな。」
榊さんは、発想が止まらないらしく、色々、夢を語って聞かせてくれた。
高速道路の途中のサービスエリアでも、話し出したら、止まらない。
「屋外のレストランだよ。外だからな。周りの自然に、音が吸収される。負けない自信あるか?」
「負けないって・・」
「楽しみだ」
そう言って、榊さんは、アイスコーヒーを一気に、流し込む。
「機会があったら、シーイとしての、声を聞かせてくれ」
「いえいえ、お恥ずかし限りです」
僕は、手を振った。
「ふとさ・・・」
榊さんは、僕の顔を見て、言葉を濁した。
「君を見ていると、誰かを思い出すんだよね」
「僕?」
「うんうん・・・いいんだ。気にしないでくれ。日本人だったか、怪しいんだけどね。滞在していた海外だから・・韓国人か、中国人か、覚えていないし」
「思い出せませんか?」
「どうだったかな・・・何回か、会って話しただけで、あまり、覚えていないんだ」
「そうですか」
僕に似ている人が、僕の家族の誰かとは、限らない。似ている人は、大勢いる。もしかしてと、思ったが、期待する事は、やめた。
「もう少しで、僕のレストランに着くよ」
そこは、関東から、近いキャンプ場だった。ペットブームに乗って、犬連れのお客をターゲットにした、キャンプ場やコテージがたくさんある。そこには、アウトドアブランドのショップもたくさんある。
榊さんの乗った車は、その後、すぐ、キャンプ場に入って行った。受付を済ませると、その隣のカフェで、僕らの到着を待っている人達がいた。
「こんにちは」
一際、目を引いたのは、サラサラの長い髪を背中に垂らした紅ドレスの女性だった。
キャンプ場に、そぐわない姿は、いかにも、ピアニストと言った感じだった。
「彼女が?」
「そうだよ。こんな所に、普通、ドレスで来るか?って、感じだけどね」
女性は、僕と榊さんを交互に見ると、少し、眉間に皺を寄せて言った。
「また、そんな意地悪を言う・・」
そして、最後に付け足した。
「パパは、意地悪よね」
榊さんの娘さんだった。




