君の元へ行く為に
花子が、連絡をくれていた。
距離のある関係。
僕は、澪との関係に変化のあった日から、花子とは、距離を置いていた。
「冷たいのね」
花子は、そう言った。
寧大とすれ違っている事を花子には、伝えられなかった。
それは。
きっと、花子と寧大との間には、何かあった。
何となく、3人でいる時の、空気で感じていた。
寧大は、僕に遠慮し、花子は、寧大に遠慮する。
大昔は、そうじゃなかったのに。
問い詰める事もしなかった。
僕も寧大も学生の時は、花子が好きだった。
いつも、キラキラしていて、眩しい。
僕らの視線の先に、必ず、花子がいた。
「3人で、飲みに行こう」
花子が、よく誘った。
家柄もよく、才能もある花子に憧れる男性は、多かった。
寧大も、花子が好きなんだろうと思っていた。
が、ある日、花子から、告白を受けたのは、僕だった。
その日から、何となく、花子が押し切る形で、僕らは、付き合い始め、寧大と僕の間で、花子の事を話すのは、タブーになっていった。
「もう、どこにも入らないの?」
花子は、僕が、どこかに、属してバイオリンを演奏する事を望んでいた。
「考えたけど」
僕は、自分の思いを告げる事にした。
「バイオリンが好きだから、どこで、演奏しても、変わらないと思う。」
「どういう事?」
僕は、花子の部屋に居た。
「家業を手伝いながら、自分のペースで、活動を続けていくよ。シーイのけんは、寧大に任せた。僕として、活動する」
「自分のペースって?バイオリニストとしてじゃ・・・」
「人に伝えたいと思えば、今の時代、いろんな方法があるだろう。縛られる事ないし・・僕に声をかけてくれる人もいた」
「それって、レストランのオーナーじゃ・・」
「演奏を聴いてもらえるなら、満足だよ」
「私は・・・」
花子は、僕の背中に抱きついてきた。
「わかってるでしょう?海。私の家族が、どういう家族なのか」
僕は、優しく花子の手を、振り解いた。
「花子は、僕に、どうなって欲しいの?」
「一緒に演奏したい」
花子は、僕に、自分と同じオーケストラに属して、活躍してほしい。そして、家族に認めて欲しいのだ。
「何も無くなったら、花子は、僕と一緒にいられるの?」
「何もなくなってしまうの?」
「例えばの話だよ。バイオリンで、食べれなくなったらって事。」
僕を見上げる花子の目が大きくなった。
「それでも、私は、海が好き。海は、そうじゃないの?」
「考えたら・・・僕らは」
お互いに好きなのか、どうか、話し合って来た事がない。
花子に、押し切られる形で、今日まで、来ていた。
「海、どうしたの?他に気になる人でも出来たの?」
胸が、どきんとした。
「いつも、海は、私の所にすぐ来てくれた。私の家族に、認めてもらおうと、たくさんのテストを受けてくれてたんじゃないの」
「花子。認めてもらう為、じゃないんだ。本当にバイオリンが好きだから」
「私の事は、もう、好きじゃないの?」
花子の言葉に、僕は、答えられなかった。
「ごめん・・・」
僕が、そう言うと、花子は、僕の手を取り、自分の胸に手を押し付けた。
「海。私達、一緒になるって、約束だったよね」
「花子。今は、バイオリンとシーイの事以外、考えられなんだ」
僕は、押し付けられた手を引いた。
「本当・・・ごめん。花子」
「海・・・」
僕は、花子の部屋から、出て行った。
花子を本当に好きだったのか。ただ、寧大に負けたくない一心だったのか。
今は、わからない。
ただ。はっきりしているのは、もう、別の人が心に住んでいると言う事。
澪の事が、気になり始めていた。
何もない、僕の側にいてくれる人。




