僕らは、きっと、どこかで繋がっている。
思わず、触れてしまった僕は、慌てて、顔を離そうとした。
「!」
澪の、細い指が、僕の頬を支え、そこから、深く、僕らは、唇を重ねた。
何なんだろう。
ずっと、前から、知っていた気がする。
僕の手から、弓が離れ落ちそうになり、慌てて引き上げる。
その気配に、気づいた澪が、突然、笑い出す。
つられて、僕も。
彼女の名前も知ったばかりなのに。
「ごめん」
何故か、その場を取り繕う様に、僕は、誤った。
「ごめん?謝るような事をしたの」
「いや・・・そうじゃなくて」
澪は、僕の前髪を掻き上げた。
「こんな風に、実際、触れる事ができるなんて、思わなかった」
「いつも、君は、よく知らない人に、こんな事をするの?」
「よく、知らない人だった?」
澪は、首を重ねた。
「不思議よね。シーイの事は、何でも、知っている気がしたの。顔も知らないのに」
「顔は、出していないよ。」
「出していても、私は、見えない」
その事が、不幸でないかのように、笑う。
「シーイには、是非、うちの企画に乗って欲しいの。あなたの声が必要」
「寧大。あのマネージャーは、なんて?」
「不服だったのかな。シーイというブランドを作るのかと思った」
「シーイというブランドと僕は、別だから」
「そう思います」
澪は、膝にアポロンの顎を乗せた。
長く垂れた耳を撫であげている。
「本気で、考えてくれますか?歌詞を新たに考えてくれてもいい。作曲家は、こちらで探すから」
「う・・・ん。寧大とは、決別してって事?」
「私達が、欲しいのは、シーイの声ではなくて、あなたの声なの。」
「それは、嬉しいよ。だけど」
僕を支えてくれたのが、寧大と言う事は、変わらない。
「寧大と。相談させて」
彼に、祝福される形で、別に行動したい。
「彼が、シーイを離すなんて、考えられないけど・・」
そう言いながら、澪の手は、僕のバイオリンに触れていた。
「バイオリンの腕も、なかなかでしょ?どこかに、属しているの?」
YouTubeで、「弾いてみた」シリーズを挙げているのは、誰もが、知る事だ。
「どうかな。まだ、決まった訳ではないよ」
「と言う事は、決まってしまうかも・・・なのね」
僕は、そっとバイオリンを肩に、乗せてみた。
「もし、良かったら、一曲、どう?」
「お財布、持ってきていないけど・・」
「つけておきますよ」
僕は、あの時の課題曲を弾く事にした。
彼女の前なら、きっと、うまく、弾けそうな気がしたから。
その頃、寧大は、面倒な事に、巻き込まれつつあった。




