心の琴線に触れるという事
目の見えない彼女は、驚く程、僕を知っていた。
何か一つを失った代わりに、多くを得たのだろうか?
彼女は、僕の知っている誰よりも、僕を知っている。
そんな気がした。
感覚が繊細で、鋭く、僕より、音楽の才能があると思う。
僕らは、他愛のない話をたくさんした。
彼女が、事故で、目が見えなくなった事を初めて知った。
その衝撃。
僕にとっては、打撃だった。
これ以上、彼女の心に入れないと思った。
彼女を庇って、亡くなった彼の存在を初めて知った。
なんて、事だろう。
彼は、亡くなる事で、彼女の永遠の最愛の人になった。
軽い彼女の一面の裏で、底のない悲しみが広がっている様に感じた。
その後、他愛もない、飼い犬の話。
と言っても、彼女の場合は、盲導犬だから、サポート犬なんだけど、
同じゴールデンと言う事で、話が合った。
正確には、彼女のアポロは、ラブとゴールデンのハーフらしいけど、
仕事の時以外は、お茶目で、彼女は、どちらかと言うと伴侶犬の役割が多いと言った。
不思議だけど。
感性が似ていると思った。
彼女と話をしていると、僕の心の中を手に取るように、読み取っていく。
彼女の名前は、澪と言った。
大きな会社のお嬢様だった。
そんな事は、関係なく、彼女は、無邪気で、素朴な人だと思った。
こんな彼女が、身近にいたなんて。
「やっぱり、寧大の考えは、よくないと思う」
たくさんのシーイを集める話に、彼女は、反対していた。
「全く、違うもの。生で、聞いてみるとわかる。それは、私だけではないわ」
「君は、どうして、そう言えるの?」
「言っていなかった?」
彼女は、笑った。
「音・・・。そうね。人の声。が見えるの」
「見えるって?」
「目が見えないのは、後天的な事よ。前は、目が見えていたから、色は、わかるの。」
彼女が、言いたい事がわかった。
「色で、見えるの。色の層が・・・。まるで、虹の様に見えるのよ」
「だから・・」
シーイの声が、偽物だって、すぐ、わかったんだ。
「人の声が、色で、見えるの?」
「えぇ・・・あなたの声とシーイの声が、同じだって、わかるの」
僕は、彼女の顔を見た。
双眸は、遠くを見つめている。
瞳の中に、僕の顔が映っている。
「僕の声は、何色?」
「そうね・・・一色で、ないから、例えるのは、難しいけど」
彼女は、嬉しそうに笑う。
「例えて、言うなら、若葉色系の色鉛筆を並べて見た色・・・」
僕は思わず、彼女に、触れてしまった。
「え?」
彼女が、小さな声を挙げた。
僕は、思わず、唇を重ねてしまった。




