彼の声が聞きたい。
「シーイじゃないわ」
凛とした澪の一言が、会議室に響き渡った。
「え?どう聞いても、シーイだろう」
高岡が、顔を上げる。
「えぇ・・・もちろんです」
寧大は、動揺を隠せないようだ。
「そうですよ。先輩、どうして、急にそんな」
澪は、光を失った双眸を寧大に向けた。
「確かに、似ているけど、全く違う。声も声の質も・・・。この子。女の子ね」
寧大は、眉を少し動かした。
「何を根拠に・・」
高岡は、早く、企画を進めたいのか、シーイが別人である事を認めようとしなかった。
「根拠?どうして、シーイは、直接、打ち合わせに来られないのかしら?」
「それは、スケジュールの都合が付かなくて」
「だったら、こちらから、逢いに行く事は、できるわよ」
「そうですね」
寧大は、項垂れた。
「偽者を連れて来て、バレないと思ったの?」
「いえ・・・実は、彼女もシーイでして」
「彼女?」
「シーイと同じ声質の、若い子を集めてまして・・・あちこちで、活動しようかと思っていた所です」
「シーイと同じ声?」
何故か、澪は、ムキになっていた。
「全然!全く違う。あの声は、誰にも、真似る事は、できない。あなた、私達を馬鹿にしているの?」
寧大は、気付いていた。シーイの声が、真似できない事を。だが、彼の偽物騒動の時に、逆手に取る事で、何か、できないかと考えていたのだ。
「シーイの声がわかるんですね」
澪に、反撃だ。
「実際、逢った事があるんですか?」
あるわ。と答えたかった。あの満月の夜。公園で、出逢ったのは、シーイだ。
「逢わなくても、わかるわ」
「シーイの本当のファンが居て、僕は、嬉しいです。だけど、どうですか?シーイ1人だけではなく、同じ、声を持つ者をコーラスで使うって言うのは」
「面白い」
高岡は、膝を叩いた。
「話題作りになるよ。シーイの偽物騒動があった位だし。本物と偽物のコラボなんて」
「ちょっと、高岡先輩」
風吹の声が怒っていた。
「本物のファンに殺されますよ。大体、シーイでって、お話ししているのに、偽者を連れてくるなんて、失礼じゃないですか?」
「いや・・・本人も、承知していて」
「シーイも」
澪の声は、気落ちしていた。
「彼も、この企画に、自分じゃない、他の人が関わる事を承知しているんですか?」
「はい・・」
澪は、思わず、テーブルの上の企画書を両手で、叩いていた。
「シーイである事が条件です。そうでなけれな、白紙です」
「澪!他の企業でも、狙っているらしいぞ。いいのか?」
「だったら、尚更よ。本人を連れて来て。話は、それからよ」
思いの外、興奮していた。後で、顔が真っ赤になる程、恥ずかしかったが、それほど、彼に逢いたかった。
あの声を、生で、聞きたい。
純粋に澪は、そう思っていた。




