僕とシーイの別れ
「偽者騒動の時に、色々、考えて見たんだ」
突然、見せられたもう一人の、僕の存在に、寧大は、言い訳した。
「シーイ=海ではなくて」
何を言い出すんだと思った。
「シーイと言う器があって、演者が居るって、考え方もありだなと思ったんだ」
それは、僕以外にも、シーイが居るって事?僕は、あからさまに、不機嫌な態度をとった。
「株式会社、シーイと言うか・・・」
シーイが会社
になるのかい?
「何人かのシーイが居て、同時にあちこちで、活動する」
「そんなに、僕と同じ奴がいるのか?」
「突撃、ライブでは、バイオリン奏者が、何人か出ただろう?」
「あぁ・・・出たね」
僕は、アイスコーヒーの氷をストローで突き回した。
「同時に、いろんな所で、活動できる。ライブだって、同時に、できるわけだ。」
「僕って、そんなに、どこにでも、ある声だった?バイオリンなら、ともかく。この声は、オリジナルだと思っていたんだけどな」
「偶然なんだけど。海にそっくりな声が送られてきた。それを聞いた時に、シーイを何人か作り上げるのも、面白いって思ったんだ」
「それが、あいつか」
「まぁね」
僕が、思い切り、氷を弾く物だから、グラスから、氷が飛び出し、テーブルの上に転がり出た。
「シーイだけが、独り歩きしそうだな」
僕が、望むのは、そんな事ではない。楽しく、寧大と組んで、音楽ができればいい。
寧大は、少し、違かったようだ。
「あのシーイを連れてきたのは、訳があるんだろう?」
「そうなんだ。海。オーケストラのテストがあったろう?」
「あぁ・・あるね」
僕は、不機嫌だった。シーイである事。何にも、縛られず彼でいる事が、本当の僕だったから。それを、他の人間が演じるなんて、認めたくない。
「テスト。優先しろよ。もう、時間がないんだろう?いつだ?」
「来週。火曜日」
「火曜日か・・」
寧大は、少し、遠い目をして。
「テスト。優先しろよ。シーイの名前を借りる」
「借りるって?」
「シーイに仕事が来たんだ。どうしても、逢いたいって。リハーサルとか、あいつを使うから、本番だけ、来いよ」
シーイの仕事の話なんて、聞いていないし、これで、生活するなんて、僕は、考えていない。
「どういう話だ。シーイの仕事って?」
「反対すると、思っていたよ。」
寧大は笑った。
「だから。肝心な時だけ、来てくれエバいい。オーケストラ。頑張れよ。花子も待っているんだろう?」
「花子?が、何か、言ったのか?」
「まぁ、そのうち、ゆっくり話すよ」
寧大は、立ち上がった。
「シーイの件は、任せてくれないか?俺は、大きくジャンプしたいんだ」
「寧大・・」
寧大は、僕より、音楽が好きだ。YouTubeに誘ってくれたのも、彼だし、突撃ライブも彼のアイディアだった。半分は、彼が、シーイを作ったのだ。
「そっか・・わかった」
僕は、そっけなく返事をして、立ち上がった。きっと、寧大は、言った事は、やり通す奴だ。シーイを作り上げていくだろう。
「バイオリン。頑張るよ。ありがとな」
僕のシーイが離れて行ってしまう。




