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逢える事の迷い

澪は、悩んでいた。

ずっと。

今日、CMの打ち合わせに同席する事になった。

「シーイに逢える」

本当だったら、トキメキが最高潮で、食事が喉に通らなくなる位なのに。

迷っていた。

あの夜の事。

きっと、逢えたのは、偶然。シーイに違いない。

生活圏が同じと言うのは、嬉しかった。

また、逢えるかもしれない。

が・・・。ここで、踏み止まりたい。

光を失った自分に寄り添う様に居る彼。

「誰なの?」

闇の中で、声が響く。

「不思議な声を持つ人なの」

「よく、聞いているYouTubeの彼だろう」

「どんな姿をしている人なの?」

「わかる訳ない。意地悪言わないで」

「どうだよね。君は、見えないんだ。どんな人かもしれないのに、好きになれるの?」

「好きなのかは、わからない。だけど、彼の声に癒されるのは、確かなの」

「そうだね。僕は、君を癒す事すら、できない」

「そんな・・・」

澪を苦しめる彼の声。

「惹かれては、いけないの?」

あの日に亡くなった彼の残像が、澪を苦しめている。

彼の妹さえ、澪が自由になる事を望んでは、いない。

「先輩。絶対、紹介してください」

声を掛けて来たのは、会社の広報室の風吹だった。

「私も、ファンなんです。顔出しNGで、出てるけど、絶対、イケメンですよ」

「そうかな・・・ハハハ」

シーイがCMの挿入歌を歌うのは、企業秘密なのに、結構、漏れているようだ。

「一体、何処まで、知っているの?」

「内緒の筈なんですけど。偽物騒動で、話題になったから、広まっていて」

「あまり、大きくすると、他に取られちゃうから。気をつけて」

「はいはい。成功を祈っていますよ」

何となく、会社の中が落ち着かない。同行しているアポロンも何度も、匂いを確認している。

「本当に、シーイは来るのかしら」

約束の時間に、シーイは、会社の広報室に現れるのだろうか。

誰にも、悟られず、現れる事は、可能なのか。

ドアが開き、ふと、コロンの香りが鼻腔をくすぐった。

「もう少しで、来ると思うよ」

高岡だった。

「意外な起用だったけど、うまく、いくといいね」

部屋の中に、高岡と2人きりになった。風吹を帰した事を後悔した。

「新しい事業の基盤をしっかりして、将来を安定した物にするのは、僕らに必要だからね」

「その事なんだけど」

「大丈夫。僕は、君の目の事は、気にしないから」

「そうじゃなくて」

迫る気配に澪は、慌てて立ち上がった。

「すみません。見えました」

再度、ドアが開き、風吹が、顔を覗かせた。

「部屋を変えてほしいそうです」

「部屋を?」

高岡は、怪訝な声をあげた。

「代理人の方だけで・・・シーイは、ズームで参加するそうです」

「ズームで?」

「はい・・・なので。お部屋が変更になります」

澪が、首を傾けると風吹が、すぐ、傍に立った。部屋に誘導すると言うのだ。

「すみません・・・2人きりにしてしまって」

「本当。気を付けて」

そう小さく呟くと、2人は、部屋を後にした。

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