音は、同じ色を放って
僕が、寧大に呼び出されたのは、いつもの駅前だった。
「逢わせたい人がいる」
「逢わせたい?」
「だから、なるべく、目立たない格好。そう、いつも、家に居る時みたいに。ジャージ着て。」
寧大は、僕を、街路樹の影に押し込むと、通りの向こうに、何か、合図を送っていた。
「なになに?」
「まぁまぁ」
寧大は、悪戯っぽい瞳をサングラスで隠し、マスクを鼻の上に上げると、突然、駆け出した。ゴープロを片手に。
「えぇ?」
いつもは、僕が、現れるべき、駅の中から、一人の線の細い子が、飛び出して来た。
学生なのか、まだ、あどけな雰囲気が漂う。
僕と同じ、ジャージの上下に、目深に、フードを被り、寧大に向かって行く。
「何、考えてんだ」
多分。その子は、歌を歌って、居るんだろう。
周りの行き交う人達が、不思議そうな視線を送る中で、臆する事なく、歌を口ずさむ。
「この歌って・・・」
僕と寧大の作った歌だ。
寧大は、その子を追いかけ、ゴープロで、撮影する。
「何を考えてんだ?」
街中で、しかも、人の多い時間に、その子に歌わせ、撮影する。
バイオリンこそ、ないけれど。これは、いつもの突撃ライブでは?
「しかも・・・あの子」
多分。まだ、大人になりかけの子。
僕が、街路樹の陰で、見ている事を知っている寧大は、意識しながら撮影を続けている。一通り、撮影が終わると、2人は、自然に離れ、その子は、駅の中へと、吸い込まれるように消えていった。
「どうだ?見るか?」
少し、興奮気味に、寧大が戻ってきた。
「どういう事?」
訳のわからない事に付き合わされて、僕は、少し、不機嫌だった。
「気付いただろう?」
「何?僕とあの子の服装が、かぶった事?」
「意外と、本人は、自分の声がわからないんだな」
寧大は、そう言うと、
「後で、家に来いよ。編集したのを見せてやる」
僕を自宅へと、呼びつけた。
その日は、家業の手伝いを少し。父親の顔色を伺いながら、こなし、寧大の家に向かった。
「練習してるの?」
花子からの確認の電話も適当に返事し、寧大が、何をしたのか、確認したくて、約束の時間前に、着いていた。
「凄いの見つけたんだ」
ドアを開けると、寧大は、僕の背中を押し込んだ。
「この声を聞いてみろよ」
先程の、寧大が撮影した子の歌声を聞かされた。
「しっかりと、その目で、確認しただろう?」
「それで?」
なんて事ない、女の子の声だ。何処にでもある。そんなに、上手いとも思えない。
「似てるだろう?てか、そのものだ」
「誰に?」
寧大は、僕の質問に答える事なく、古い画像を引っ張り出してきた。
大分、昔。僕が、初めて駅前で、寧大に歌わされた時の映像だった。
「聞いてみろよ」
「聞いてるよ」
その声は・・・。
「な。そっくりだろう?」
一体、何年前だっただろう。寧大に、頼まれて、ふざけて歌った。あの日の画像。僕の声と、その子の声は、全く、同じに聞こえていた。
「シーイになるぞ」
寧大は言った。
「シーイが、二人になるんだ」
寧大。君は、何を考えているんだ?




