忘れかけていたのは、人を想う気持ち
あの夜の事は、夢だと想う事にした。
家を飛び出した公園で、想いもかけずに耳にした声。
一度、逢いたいと思っていたシーイ。
生で、聴く歌声は、澪の視界の中に、鮮やかな新緑の世界を見せつけた。
「もう一度、逢いたい。」
「触れたい」
「そばに行きたい」
様々な思いが、駆け巡ったが、結局、自分の中に広がる深い沼に静馬てしまった。
「自分だけが、先に進めるなんて、できない」
闇に閉じ込められたのは、あの人の人生を奪ったから。
そんなふうに、思っているなんて、誰も、思っていないだろう。
「お兄ちゃんの事は、忘れないで」
彼の妹の言葉が、深く、のしかかっていた。
「忘れない」
澪は、約束した。
影を落とす彼の面影。自分を縛り付ける重い鎖。
シーイの歌声が、そんな現実を忘れさせる。
YouTubeに、シーイの姿を探す事を止めて、暫くすると、また、父親に呼び出された。
「また、結婚の話?」
嫌がる澪に母親は、首を振った。
「キツく言っておいたから、しばらくは、ないわよ。面白い話よ。新しい事業の話」
母親は、乗り気だっt。
「サロンのCMをあちこちのSNSで、紹介するのに、YouTubeで、話題になっているシーイを使おうかって、話が出ているの。」
「え?誰から、聞いたの?シーイの話を」
「駅前で、聞いたのね。彼の演奏を。。気になって、調べたら、YouTubeを見つけたって。高岡君が言ったのかな?」
「あぁ・・・高岡君」
高岡と聞いて、少しだけ、気分が悪くなった。
でも、親がシーイを知っているなんて、嬉しくなった。
「いい機会だから、パパとしっかり、話をしてみたら?」
母親なりに、澪と父親の関係の修復を考えただけに過ぎなかった。サロンの宣伝に載せる、ほんの数秒の歌声は、誰でも良かったのだ。
高岡は、澪の行動をよく見ていた。
彼女が、何に興味を持ち、どう過ごしているのか、具に見ている。
「それは、それで、怖くもあるけど」
澪が、関心を持つ事で、生き生きと過ごせるなら、それでいい。
澪が、関心を寄せるシーイについて、母親自身も、興味を持ち始めていた。




