偽物は、本物になれるのか
寧大の嫉妬が、表面にでる事はなかった。
自分と別れた花子が、海と付き合う事に、嫉妬する事はなかった。
が、才能に嫉妬する事は、正直あった。
「嫉妬なのか、尊敬なのか、わからないけど」
寧大は、笑った。比べる事が間違いだと思った。
自分は、バイオリンを引いた事はない。海自身、下手だと言うが、その加減は、わからない。
「そこそこ、上手いと思う」
後で、寧大は、インタビューで答えている。
「俺達、互いの得意な分野は、被らない様にしている」
そう思っている。
「作曲は、任せておけ」
結構、自分は、いけていると思い込んでいる。
「歌詞作りは、苦手だけど。歌詞は、菓子屋に任せて・・・」
後になるが、寒い冗談を言ってた。海の実家が、菓子屋だなんて、公表できないのに。
シーイの偽者騒動が、寧大を悩ませていた。いたって、本人は、呑気であったが、自分の偽者まで、出てくる始末で、その出来具合は、酷い物だった。本物の、自分達の評判まで、落としかねない。
「シーイ以上の声を持つ奴が出てこないから、何とか、本物のメンツを保つ事ができていたけど、焦ったよ。あいつが、現れて」
寧大は、言う。
「突然、自分の歌声を送ってきたんだ」
初めて、その声を聞いた時、寧大のギターを持つ手が、震えた。
「これは、海なのか?」
何度も、聞き直した。何度聞いても、海の声だ。
名も名乗らず、寧大に歌声を送りつけた奴は、真夢と名乗った。
「これは、一度、会ってみたいと思ったんだ」
寧大は、海に言う。
「お前も、会うべきだと思って」
事後報告だった。海に黙って、会いに行った寧大は、余程、気に入ったのだろう。海にも、会って欲しいと連れて来たのだ。
「驚くなよ」
寧大は、約束したカフェに、連れてきていた。
「何だよ。コーラス部でも、作るのかよ」
渋々、カフェに来た海に、寧大は、興奮気味だった。
「いいか・・・彼女は」
「彼女?」
海の顔が引き攣った。寧大が、開いたカフェの扉に向かって、手を振っている。
「はぁぁ?」
こちらに、向かって、真っ直ぐ、歩いてきているのは、
「真夢さんだ」
寧大達から見たら、まだ、幼さの残る高校生。しかも、女子高生だった。
「嘘だろう?」
同じ声質を持つ。女子高生の登場に、海は、目を開いたまま、動けなくなっていた。




