才能に、気づかない。
花子は、焦っていた。
海が、本気で、入団テストを考えてくれない。
非現実の夢に浸っているようだ。
「才能のある彼と付き合っている」
花子は、周りに、自慢していた。
昔は、そうじゃなかった。
海の才能は、誰もが、認めていた。
付き合っている事が自慢だった。
誰もが、羨む。
だけど、繊細な表現のできる彼だからこそ、曲に呑まれてしまう。
表現にハマりすぎる。
特に、ダークな表現は、ダメだ。彼の個性が死ぬ。かといって、表現する物を選ぶ事はできない。
「練習して」
何度も、海に確認した。
オーケストラの団員でいる事。
それが、条件だった。
彼の考えている事がわからない。
非現実な世界で、生きている。その中で、表現される彼の姿は、全く、別物だった。
「別人みたい」
自分の見てきたのは、同じ海だったのか。
「寧大が、彼を変えた」
寧大とは、同じ大学。切っても切れない関係だった。
「絶対、俺たちの事は言うなよ」
寧大に、強く口止めされてた。
「言わないわよ。私達が、高校の時に付き合っていたなんて」
花子と寧大は、高校生の時に、ほんの僅かな期間、付き合っていた。
「だから、あまり、海を壊さないでくれる?」
「壊すなんて、人聞きが悪いな」
寧大が、海の才能を壊している様にしか、見えなかった。
「俺は、海の才能を、自然なままに、育てているだけ。決まった枠に押し込めるな」
花子によって、寧大が、海を弄んでいるように見える。
「私への当てつけ?」
自分が、寧大を棄てた事への当てつけとも、思える。
「自惚れるなよ。お前なんかより、海の方が、魅力的だ」
「同じ言葉を返すわ。」
花子は、言葉を呑んだ。これ以上、刺激をして、海に何かが、あったら困る。
「テストは、受ける様に言って」
「あぁ。テストは、受けさせるさ。ただ・・・あいつにあった、曲を弾かせる」
「ちょっと、そんな事をしたら、落ちるじゃない!」
「表現する技術を見るんだろう?あいつらしさが、表現できないなら、入団できなくていい」
「それでは、私が、困るの」
「誰の為のテストなんだ?君のそういう所が、ダメなんだ」
「あなたに言われたくない」
結局、すぐ、喧嘩になってしまう。もう、とうの昔に終わった関係だ。
寧大は、目を閉じた。
海の表現する才能。きっと、自分も叶わない。
少しだけ、海の才能を妬んでしまった。




