光と影のバイオリニスト
結局、蒼のバイオリンが手元に、戻る事はなく、ライブは予定通りに終わった。
フラメンコを間に、挟んで、蒼の奏でるバイオリンの音色に、大勢の観客が沸いていた。
だが、その前に、ライブ会場の入り口で、バイオリンを弾いていたマスクと帽子の青年の噂がネットを賑わせていた。
「メディアから姿を消したシーイでは?」
「シーイが、バイオリンを弾いているのを見た事がある。似ている」
「彼は、今、どこにいるの?」
「一般人になるから、そっとしてほしいって、聞いてた」
多くの声が出ていた。
あの会場の中と外で、同じバイオリンケースを持つ青年が2人いた。
「パパ、しっかりして」
榊は、しばらく、安静にするようにと医師に言われていた。
長年の不摂生が祟ったのだろう。
心不全と言われた。
不規則な瀬活と酒が原因だった。
萌も、榊と別に暮らしてから、久しい。
自分の父親が健康を害してまで、自分の夢を追いかける姿が、心配でならなかった。
「パパ、自分で言ってた癖に忘れたのかしら。夢を追いすぎて、一番大事な家族を壊してしまった先輩がいるって。自分も、そうじゃない」
病室の廊下で、萌は、呟いた。
「今日は、面会はできませんよ」
中から、看護師が声をかけた。
「もう、今日は、帰ってください」
人ごみで、倒れて救急車に乗った萌は、帰る足がない。
仕方なく、地下鉄に乗る事にした。
「あの時、パパは、何て、言おうとしたのかしら?」
海の持っていたバイオリン。
榊は、それが、誰の物か、知っていた。
「パパにわかるなら、私も、わかるのかしら」
榊の知っている人の中に、共通する人がいるのだ。
バイオリニストは、数える位しか、知らない。
萌は、地下鉄に乗る為、駅の構内を降りてった。
ライブが終わった時間らしく、いつもより、人が多い。
「蒼も、バイオリンがいつもと、違うのに、素敵だったわね」
地下鉄を待つ、女性達の話し声が飛び込んできた。
「どこかで、取り違えたって言ってたわね」
「自分のバイオリンでなくても、腕がいいと、音もいいのね」
その一言が、萌の耳に届いた。
「あの・・・それって本当なんですか?」
会話をしていた女性達は、突然、話しかける萌に、驚いて、後ずさった。
「え・・と。本当ですけど」
「バイオリンが、変わっていたんですね」
「えぇ・・・」
二人は、顔を見合わせた。
「あ・・・ありがとうございます」
萌は、確認する間を惜しんで、すぐ、海に連絡をとる事にした。




