空中戦 7
1958年 ドイツ第三帝国 バイエルン州 ミュンヘン市街
オットー・カリウスが率いるミュンヘン防衛部隊司令部では、近づいてくるSS軍への迎撃を準備していた。
「状況報告を!」
カリウスが大声で幕僚たちに確認をとると、慌てて参謀の一人が近寄ってくる。
「事態は深刻であります、カリウス将軍。敵軍は、既にミュンヘンより30キロ手前まで進軍しており、先鋒部隊だけで1万近くを有しているとのことです」
「航空兵力は?」
「現在、命令を受けてこちらに向かっているとのことです」
「私の機甲大隊を準備しろ。自ら前線で指揮を執る」
「そのようなことをしてはなりません。あなたは、大隊の長では無く、これら全部隊を指揮される指揮官なのですよ」
「しかし、先鋒隊だけでこの規模なのだぞ。私が前線に言って鼓舞しなければならないだろう!」
カリウスの出撃を止めようとする幕僚達に一喝して外に出ていった彼は、自身が扱ってきたⅥ号戦車「ティーガー」に乗り込むと、大声で命令を下した。
「全車両、俺について来い!国防軍の電撃戦を親衛隊の屑どもに見せつけてやるぞ」
彼の号令に従って、エンジンの唸り声を響かせる戦車隊の列が、敵陣へとひた走っていく。
ミュンヘンでの攻防が始まりつつある頃、ルセフ・ヒトラーの名にて交渉事をしていた大尉達は、ウィーンの時同様に、親衛隊中佐のギュンタース達と共に、市街へ向かう道中を走っていた。
「文屋の奴は、一体どこに行ったんだ?」
「彼は、このあたりのことを知っているみたいでしたし。もしかしたら、安全な場所に避難しているのかもしれませんね」
「だといいがね」
大尉がそう言って装甲車にある覗き窓から外の状況を確認する。
市街にいる者たちは、各々が逃げることに必死になっていた。
手に持てる荷物を抱えたり、トラックに近所の子供たちをまとめて乗せると、そのまま避難するように走らせていた。
「こんなに混乱している中で、人探しをするなんて無謀なことをしなきゃならないとはな。ほんと、ついていないよ」
大尉は、外の現状を見ながらぼやくように、不安を口にする。
「そうでもないみたいよ。見て」
全国指導員がそう言って指さした先には、外の様子を確認する為からか、記者がタバコをふかして見守っていた。
「案外、見えるところにいるもんですね」
「気にしていた俺の気持ちを返してくれよ・・・・」
愚痴を吐きながら、記者のもとに向かうことにした二人に気づいた記者は、彼らに手を挙げて答えた。
「お二方とも。ご無事でしたか」
「一体ここで何をしているんですか?やることがあると言っていなくなってから」
「私なりにやることがあったのでね。まぁ、ここじゃなんなんで、下に行きましょう」
記者は、下に降りる階段を指さした。
「ギュンタースさんを外で待たせることになるのは、流石にまずい。親衛隊の装甲車が止まっていれば、嫌でも目立ってしまうからな」
後から来た大尉が、記者の申し出を無理であると言って、ギュンタースが待つ装甲車に乗せようとしていた。
「さすがに、ここで説明することが難しいですよ。なんせ、動かせないものもあるので・・・・」
「動かせないもの?」
二人が記者のセリフに疑問を持っていると、催促をしにギュンタースが近づいてきた。
「一体何をしているんだ?あんたも連れて行くように命令されているんだ。早く乗ってくれ」
「すまないが中佐殿。しばらく彼らを借りていきたいのだが、よろしいかな?」
「何をおっしゃりますか。あなた方を市外に送り届けるのが任務なのですよ」
「まぁ、そこを一つ頼むよ。中佐殿」
「少しの間だけですよ。場合によっては、あなた方を放置していきますからね」
「構いませんよ。その際は、自分たちの足で脱出するので」
「少しだけですよ」
記者の根気強い説得に折れたギュンタースは、部下たちとともに、裏路地に装甲車を隠すして待機してくれた。
「では、時間も作ってくれたので、下にてお話しましょう」
記者の手招きに応じるように全国指導員が下りていくと、大尉も頭を掻きながら下に降りていく。
「一体、何を見せようっていうんだ?」
「私が、今回の作戦に選ばれた理由ですよ」
記者がそう言って下に降りていくと、ただの飲み屋だと思っていた場所に驚かされた。
そこには、最新のマイクや音響設備、 防音用のシートが敷設されており、まるで放送スタジオのようであった。
「おい。お前って」
「大尉達にはいつか明かそうと思っていました。私は、アドルフ閣下が突撃隊にいた頃に作られた、政治宣伝グループ『グスタフ』のメンバーであります」
記者がそう言いながら、自らの襟首に「グスタフ」の組織章たるハーケンクロイツの下にスピーカーが描かれたバッジをくっつける。
「私は、アドルフ・ヒトラーより命じられて、ルセフ・ヒトラーの政界支援と今後の活動に障害となる組織の非難を命令されておりました。生憎、親衛隊等の妨害により、本来の活動とは違うことをしていましたが」
記者が自身の任務を説明しているのを聞いていた二人は、驚きを隠せなかった
噂でしか聞いたことがないヨーゼフ・ゲッベルス以外の宣伝機関「グスタフ」。
元は、オーストリアにあった右翼系地方紙が、ヒトラーに感銘を受けて作った組織らしく。
ゲッベルスが宣伝大臣として就任した後でも、オーストリアとドイツ南部にて宣伝活動をしていた。
現在の職員の人数は200名ほどであるが、非占領地での活動も行える有力組織であった。
「君がグスタフに所属している記者だったとはな。いくら全国紙とはいえ、一記者が総統閣下から直接出された特殊任務に選ばれるか?と思っていたが」
大尉が驚いていると、横にいる全国指導員の興味は、横に座っている人物に目が行っていた。
そこには、ウィーンで協力してくれた浮浪者「アルバン」達一同と黒いスーツに身を通した男性が座っていた。
「あなたは、アメリカの」
「初めまして。私は、コール・D・ハルと申します」
記者が招待したアメリカ人である、コール・D・ハルは、一体何を彼に話すのか?




