空中戦 6
1958年 ドイツ第三帝国 バイエルン州 ミュンヘン
ミュンヘン市街が、SSの襲撃情報により慌ただしくなっいた頃、一人別行動をとっていた記者は、郊外にある一軒の古びた印刷小屋に入っていった。
「いらっしゃい。おや?久しぶりに会いますな」
外の喧騒をよそに、一人新聞を広げて机に脚を乗せたままで記者の到来を歓迎した。
「お久しぶりですな、編集長。今日は、お願いしたいことがありまして」
「そうか。しかし、また騒がしいころに来ましたな」
編集長は、新聞を畳みながら足を下すと、そのまま記者のもとへと歩いて行くと、彼の求めに応じるように手紙を手渡した。
「・・・・成程ね。こいつは、確かに特ダネだ。しかし、こいつが事実である保証はあるのかね?」
「ありませんよ。でも、不満を持った民衆や被れてない政治家は、いい材料にするのでは?」
記者の一言にほくそ笑みながら、編集長が奥にある輪転機のスイッチを落とす。
「今から編集して刷り直したら、明日の朝に間に合いそうだな」
「やってくれるんですね」
「紙代は、後で請求するよ」
「クライアントが倍にして払ってくれますよ」
記者は、そう言って印刷小屋を跡にすると、その足で近くにある飲み屋へと向かった。
中に入ると、逃げ支度をしていた店主が記者に気づいて不満気な顔で見つめる。
「いらっしゃいって言いたいところだけど、少し取り込み中なので、日を改めていただきたいんですがね」
「構わんよ。いつも取りに来ていたものを、貰いに来ただけなんだから」
記者は、そう言って店の奥に歩いていくと、L字ソファーが置かれているテーブルの後ろに体を持っていった。
「あった、あった」
記者が、嬉しそうな口調でソファーの後ろから取り出したのは、小さな木箱であった。
「おいおい。今からそれを使うのかい?勘弁してくれよ」
「ミュンヘンじゃこの店くらいしか置いてないからね。すまないが、ケーブルをアンテナハブに差し込んでくれるか」
「ったく」
荷造りを諦めた店主は、記者からケーブルを受け取ると、階段を上がって行った。
「さてと、しっかり動いてくれよ」
記者が、箱を開けて何かを組み立て始めて準備をしていた頃。
親衛隊本部にたどり着いたヴィルヘルム・クーべ達は、ミュンヘン近郊の地図を広げているギュンタースらの親衛隊士官が慌てて準備をしていた。
「中佐!状況報告を」
「はい。現在、SS部隊の先鋒がミュンヘンより35キロの位置まで前進しております。軍団章を見る限り『ダス・ライヒ』、『ホルンツ・ヴェッセル』と思われ、先のフランス作戦に参加した第17SS軍団と思われます」
「『ブルターニュの悪魔』か。厄介な部隊を送り込んできたものだ」
今から3年前。
フランス北西部にあるブルターニュ半島において、フランス救済派による大規模反乱「ブルターニュ内戦」が発生。
現地に駐屯していた国防軍部隊や親衛隊治安部では対応できないほどに広がってしまうほどになってしまった為に、本国やヴィシーフランスに造園を要請するに至ったのである。
そこに参戦することになったのが第17SS軍団である。
彼らは、ハインリヒ・ヒムラーの名を受けて、ブルターニュの内覧治安つに参戦し、圧倒的かつ作業的な鎮圧を実施した。
そんな中でも、ロワール川にあった都市「ナント」において行われた鎮圧作戦である。
当時、ナントにて活動していたレジスタンス軍は、数百人規模であったものの、地形を生かした果敢な抵抗を行っていた。
事態を知った第17SS軍団は、直ちにこの都市への攻撃をするべく部隊を派遣し、大規模な市街戦に突入。
前記の通り、フランスレジスタンスの果敢な市街戦術により、突入部隊にも甚大な被害をもたらしてしまった。
しかし、苛烈な抵抗に怒りを覚えた軍団長であるオットー・クム親衛隊中将は、都市への”破壊的”攻撃を命令した。
命令を受けた第36SS武装擲弾兵師団は、直ちに麾下の舞台に突入を実施。
現代戦では考えられないほどの残虐行為が起こったのである。
路地にいた者たちは、男女関係なく機関銃の雨により薙ぎ払われ、家々に立て籠る者たちへは、火炎放射や榴弾砲にて事に当たった。
教会の前には、打倒された遺体が山のように積み上げられ、そのままガソリンを使って焼かれていった。
捕虜となったものは、一人てしていなかった。
彼らの残虐行為は、戦場から遠く離れたアドルフ・ヒトラーの耳にも入った。
大戦後に悪化していた経済と治安の立て直しに奔走していたヒトラーにとって、彼らが行った行為は、決して許せるものではなかった。
ヒトラーは、この武装親衛隊が行った行為を長たるヒムラーへ叱責と、第17SS軍団の解体を命令した。
しかし、ヒムラーがこの要請を受けることはなく。第17SS軍団は、ブルターニュでの戦闘において目まぐるしい活躍をするのであった。
クムは、最精鋭部隊の称号の長という名誉と柏葉付き鉄十字章を付与されたものの、部隊は解散させられてしまっていた。
「今回の作戦の為に再編成されたのでしょう。斥候に出したものの報告では、身に着けている装備や車両は、最新のものだったようです」
「精鋭部隊らしい装備だな。戦車などはどうだね?」
「斥候からの報告では、装甲車両のみです。ティーゲルもパンツァーも見ていないそうです」
「そうか」
クーベがギュンタースに報告すると、ギュンタースらに分かりやすく青い布を腕に巻いていかした。
「私の指揮下にある、全部隊に通達しろ!ミュンヘン及び南部独立地域の防衛に、最大限の協力をしろとな」
「了解しました」
クーベの号令に従ってギュンタースら親衛隊幹部が一通信機器にて各地の同胞たちへと連絡を取り始めた。
「親衛隊大将。俺にも何かできることはないかな」
大尉が後ろから声をかけるとクーベは、にこやかな笑みで彼へと向き直った。
「お二人の仕事は、ここまでです。ここからは、ミュンヘンにいる我らの仕事になります」
「しかし」
「君。ここにいる二人とその連れを見つけて、ミュンヘンより送り出すのだ」
「承知しました」




