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ヒトラーが告げる  作者: 猫提督
空中戦
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空中戦 3

1958年 ドイツ第三帝国 バイエルン州 ミュンヘン 親衛隊本部


 旧バイエルン王国時代に造られたニンフェンブルク宮殿は、バロック様式を使った建物であり、バイエルン王室が愛用した宮殿であった。

 現在では、ドイツ親衛隊バイエルン支部の本営が置かれていた。

 「さぁ、入ってくれ。ここならしばらく安心ですよ。皆様」

 ギュンタースがそう言って中を案内するも、三人の警戒が解けるわけではなかった。

 なにせ、親衛隊の本部に案内されたのだ。ヒムラーの手先があちらこちらにいる場所なのだから。

 「おい!”長官”はどこにいる?ギュンタースが探していたと伝えてくれないか」

 ギュンタースは、事務仕事を行っていた隊員に長官への使いを頼むと、三人を奥の応接室まで案内した。

 「大丈夫だよ。三人をベルリンに送るなんてことはしないからな」

 ギュンタースが笑いながら冗談じみた口調で答えるも、三人の警戒顔を緩めることはなかった。

 多少信用していたギュンタースにバイエルンとはいえど親衛隊の詰めている建物に連れてこられたのだ。何があるかわからないのである。

 緊張感を持った応接室の三人の元に、一人の男性がゆっくりと入ってきた。

 その男の顔を見た三人は、驚愕した顔で彼の方を見た。

 「諸君。無事にベルリンから出ていったようだな。若君は、息災であるか?」

 その声の主こそ、先のウィーン総統府長官であったヴィルヘルム・クーベであった。

 「クーベ長官!ご無事であったのですか」

 全国指導員が、驚いた表情で立ち上がると、彼がにこやかな顔で反対側のソファーに腰を下ろした。

 「君たちがウィーンを去ってから数カ月の間に、こちら側もいろいろ動いてな。その話もしなければならないが、まずはルセフ閣下のことについて聞きたい」

 クーベは、給仕担当の兵士にコーヒーを用意するように命ずると、三人が今までどうしていたかについて語り始めた。

 三人が語った内容はクーベの予想していた以上に強大な組織が関与している事に顔をこわばらせていた。

 「・・・・まさか、『総統の子供たち』と呼ばている得体のしれない組織が関与しているとはな。噂程度は知っていたが、まさか実在するとはな」

 「クーベ閣下が思っている以上にルセフ閣下の立場は危うい状態となっております。私たちが今回動いたのは、そうならない為に動いているのであります」

 全国指導員がクーベに説明すると、彼が深いため息を吐きながらソファーにもたれかかった。

 「成る程のう。ヘス副総統もベルリンで動いているのであろうが、とてもヒムラー達を止められそうにはないからな」

 「このままでは、ルセフ閣下の御身が危うくなるだけでなく、総統閣下の後継者としての地位を失ってしまいます」

 「確かにな。しかし、今の状況でヒムラーを抑える事は出来ないだろう。ここに君たちが来たのは、それの改善するためであろうが、その策とは一体何だね?」

 クーベが葉巻を手に取って全国指導員に問うと、彼女がクーベの葉巻ケースを手に取って答えた。

 「こいつを使って、味方を増やそうと思っています」

 彼女の答えを理解できなかったクーベは、しばらく沈黙した。

 「失礼しました、クーベ様。私どもは、前総統が残した『禁煙政策』を利用しようと考えているのであります」

 全国指導員の横に座っていた記者が、彼女が伝えたい事をクーベに説明した。

 「そういう事か。わかったぞ」

 二人の説明に、にこやかな顔をしたクーベは、納得したかのようベルでギュンタースを呼び出した。

 「閣下。何の御用でありましょうか?」

 「ギュンタース。内務大臣殿への謁見を要請してほしい。大事な話があることも伝えるのだ」

 「承知しました」

 クーベの命令を聞いたギュンタースは、素早く外に出ていった。

 親衛隊側がそのように手配をしてくれている頃、記者が二人向き直って口を開いた。

 「内務大臣への説得は、お二方にお任せしたく思います。私は、少し別行動をしたく思いましてね」

 「なんだ?別行動って」

 「大丈夫なの?一人は、危ないわよ」

 記者からの申し出に対して、大尉と全国指導員は、不安を訴えてる。

 「安心してください。決して不利には働かないと思うので」

 記者が、安心するように二人を説得するも、まだ彼らを納得する要素が無かった。

 「なあ、二人とも。彼の仕事は、ジャーナリストだ。その職業をフル活用するには、一人の方が出来ることもあるというものであろう。試しに任せてみようじゃないか」

 二人の説得に苦労しているのを見かねたクーベが、記者のフォローに入ってくれた。

 「君たちは、私と共に内務大臣の所にて、考えている事を伝えるといい」

 クーベの申し出を大尉と全国指導員は、首を縦に振って賛成の意思を示した。

 「ところで、ヴィルヘルム閣下は、どうやってウィーンを脱出されたんですか」

 今まで沈黙していた大尉が、おもむろにクーベにウィーンからの逃走方法を聞いた。

 「確かに、あの時のウィーンから脱出するのは難しい状況であった。だが、私の地位と人脈を使うことで、その難題を解決することが出来たのだ」

 クーベが、自信満々に答えるも、納得のいかない大尉の目が鋭く睨みつける。

 「ヴィルヘルム閣下。あんたは、他国の工作員と協力関係にあるんじゃないのかい?」

 「大尉!そのんなことを閣下に言うなんて。ここまでの協力をしてくれる人にかける言葉じゃないでしょうが」

 大尉の政治的に無礼な質問に全国指導員が、憤慨した声で叱責する。

 「君は、何か勘違いしているかもしれないが。俺は、ヴィルヘルム閣下のコネクションを信用してその質問をしているんだぞ」

 全国指導員の方を向き直ると、大尉が、自身の問いかけの真意を伝えれる。

 「もしも、ヴィルヘルム閣下が外国機関と繋がりがあるのであれば、今後の政治的・内訌的行動の選択種を増やすことが出来る。アメリカやイギリスであるなら、動かしやすいからな」

 血塗られた十年において、一番の被害を受けたイギリスは、何とかドイツの弱点を探そうとしており、アドルフ政権時代には、「闇夜のカラス事件」や「ブルターニュ独立運動」を起こして、政府の混乱を煽っていた。

 アメリカの方は、ヨーロッパの争いに参加を拒否したことで、血塗られた十年で唯一被害を受けなかった国であったが、政治的に孤立と世界恐慌の後遺症から立て直す衝撃性を持った事変をヨーロッパで起こそうと画策していた。

 これらの二国に加えて、大日本帝国やソビエトロシア、イタリア王国といったそのほか主要国もドイツを狙って、怪しげな動きをしていたが、上記二国のほどではなかった。

 大尉が思っていたのは、クーベが繋がりのある工作員から、その国を巻き込んで、親衛隊や抵抗勢力の防波堤として活用しようと考えていたのであった。

 「どうでしょうか?ヴィルヘルム閣下」

 「君には、かなわんな」

 大尉の押しに降参したような仕草をしてから、足を組みなおして話し出す。

 「私は、CIAの工作員とのコネクションを持っている。だが、帝国を利渡すためではないぞ」

 「わかっています。有力者が、他国の諜報員を抱えるのは、よくあることですからね。彼らは、身分かバレていることに気付いているでしょうか」

 クーベの回答に大尉の方は納得していたが、全国指導員の方は、不満だったようである。

 彼女は、クーベの出身母体である親衛隊の狂気じみた清廉性から、そのような繋がりは無いものと思っていたために、彼の告白を受け入れるのに時間がかかっていた。

 「詳しい計画は、後日にしましょう。当人がいない時にやることではないので」

 大尉は、何かに気付いたかのように、クーベに後程話させてもらうような話し方をしていた。

 彼らは、このミュウンヘンにおいて、いかなる味方を確保できるのか?

 

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