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ヒトラーが告げる  作者: 猫提督
「磔の男」作戦
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「磔の男」作戦 2

1958年 ドイツ第三帝国 ベルリン




 総統官邸から総統命令書を受け取った三人は、とりあえず命令書の確認をしようと大尉が配属されている中隊宿舎に向かっていた。


 彼の所属連隊は、ベルリン近郊にある軽歩兵隊であったが、ソビエトとの戦いにおいて果敢に戦っており、特に激戦地であった「キエフの戦い」においては、自軍の3倍もいる赤軍を相手に大立ち回りを演じて、増援が来るまでの間を持ちこたえさせた事から「キエフの悪魔」とソビエト側におそれられた部隊である。


 彼自身もこの連隊で鍛えられており、指揮下にいる中隊員もほとんどが戦いで一緒だった者たちである。


 大尉の帰還を見つけた給仕を務める二等兵が走って近づいてくる。


 「大尉殿。おかえりなさいませ」


 青い目に金髪の青年兵は、笑顔で大尉に敬礼をしながら出迎える。


 もう少し筋肉をつけて身長が伸びれば、ハインリッヒ・ヒムラーが提唱する「真なるアーリア人」に当てはまり、真っ先に親衛隊へと配属を進められるだろう。


 「ああ。これから、私の部屋で話をするからコーヒーを3つと軽い食事を持ってきてくれ」


 大尉は、自身がかぶっている帽子と羽織っている外套を脱いで、給仕係に渡すとそう命令する。


 給仕係は、ヒマワリのような笑顔で大尉に応えると、そのまま給湯室へと走っていく。


 「若い兵隊さんですね」


 全国指導員が部屋に向かう道中で大尉に給仕係の印象を話す。


 「まぁ、うちの隊に来て半年になるが、よく気づく男だよ。礼儀正しいし、真面目に当たってくれるからね」


 大尉がそう答えると同時ぐらいに、彼が寝泊まりしている部屋に着く。


 「まぁ、なんだ。特に何もないがね」


 部屋に入ると、味気ないベットと無造作に散らばった報告書が置かれた私用のテーブル、ドイツ全土お呼び傀儡国家を記した50年改訂版ヨーロッパおよび北アフリカ地図が広がっている。


 「すきに座ってくれ。男士官の部屋だから、そんな大した部屋じゃないがな」


 全国指導員は近くの椅子に腰かけ、記者のほうは近くにあるごみ箱に布をかぶせて座る。


 「早速だけど、総統からの命令書の開封を行うわよ」


 全国指導員は、持っていた茶封筒の紐止めを半時計回しで封口を開く。


 封筒等の中身は、数枚の資料と写真が同封されていた。


 ほとんどが譲渡契約書や統治管理機構の書類であったが、写真は石像や肖像画などで統一性のないものであった。


 「一体何なんでしょうか。譲渡契約書や委任状のようなものですね」


 「こっちは、肖像画や高そうな石像のようだな。見たところベルリンの博物館にある品物じゃなさそうだが」


 三人は、テーブルに散りばめた資料や書類等を見ても意味が一切理解できない状況に計画の目標などが一切見えない状況となっていた。


 「失礼しまーす。入れたばかりですから気を付けてくださいね」


 給仕係が入れてきたコーヒーを3人に行き渡らせる。彼が入れるコーヒーからは、煎ったばかりの焦げたような香ばしい匂いが鼻をくすぐった。


 「すまないな」


 「ありがとうね」


 皆々は、コーヒーを受け取りながら彼の視線に興味をしめす。


 「どうしたんだ?おまえ、この写真が気になるのか?」


 「ええ。昔行ったところろで見たことあったなと思いまして」


 給仕係がそう言うと大尉は、隣が立ち上がりながら、彼に問い詰める。


 「どこで見たのだ!ハンブルグか?ルールか?」


 「う、ウィーンです」


 ビビりながらも給仕係は、震えながら答える。


 「ウィーン・・・・か」


 芸術都市であり、旧オーストリアの首都であるこの地は、アドルフの生まれ育った地でもあった。


 「総統閣下は、生まれ故郷にこの命令に携わることなのか?」


 「もしかして、この譲渡契約書の相手がそこにいるのかしら?」


 頭を抱える大尉の横で全国指導員がぼそりと呟く。


 「だとしたら、この人物が該当するんじゃないのかい」


 記者が書類の中から一枚だけサインされている紙を2人の前に差し出す。


 「ヴィルヘルム・クーベ?たしか、親衛隊中将でしたよね」


 「ああ。大戦前に親衛隊から除名されたが、討共列戦時に白ロシアに作られた反共政府の原型を作った人物だったはずだよ」


 大尉が説明した通りヴィルヘルム・クーベという人物は、第三帝国初期に活動していた政治家であり、親衛隊の大将にも抜擢された人物であったが、妻の先祖にユダヤ系の人物がいるということが知れて、同隊を除名処分となる。


 しかし、討共列戦時に再び活動を再開し、白ロシア(現ベラルーシ・ロシア共和国)の反共政治組織を創設・整備し、首都であるミンスクにて「白ロシア祖国戦線」と呼ばれる義勇軍を創設するなどの活動を行っていた。


 これらのことが評価されてか、45年には親衛隊に復帰して地方行政長官を歴任していた。


 「親衛隊で中でも穏健派と聞いているが、まさか彼にこれを私に行くのが任務か?」


 大尉は、少々不安そうな顔をしてあとの二人を見る。


 親衛隊(SS)は、ドイツ国内の準軍事組織兼独立保安部隊である。


 長官であるヒムラーの元で「ナチスドイツ」という国を独創的かつ冷酷的に想像していた集団であり、そのほとんどが黒いベールに包まれていた。


 戦後は、組織規模は縮小されいたが、戦争勝利やユダヤ人などの粛清などに率先して参加していた事による影響力から、巨大組織としての影響力を維持している。


 また、保安業務や治安維持という名目で、多くの政治犯やレジスタンスと呼ぶ一般人を逮捕・殺害しており、ナチスドイツの暗部を取り仕切っていた。


 「SSに政治の全権を任せるのであれば、ヒムラー長官に手渡せばいいじゃないですか。なぜにクーベ中将に?」


 記者が、もっともな質問を卓上にぶっちゃけた。


 アドルフがこの命令書を渡した時に彼らを信用していないと発言していた事や独自の政治活動を行ってルドルフ・ヘスやヨーゼフ・ゲッペルスと対立している人物に委任状を渡すのかといえば疑問符といえるだろう。


 「まぁ、考えても仕方ないわね。今は、これ以外に情報はないだろうし」


 直ちに三人分のウィーン行の鉄道チケットを入手すると、出かける支度を各々で行い始める。


 翌日の早朝に三人は、朝霧に覆われているベルリン中央駅に到着していた。


 10年前は、多くの軍用電車が黒霧を巻き上げながら、戦場へと向かう勇者たちを護送する鉄籠と共に立ち並んでいたが、現在の同駅は、各地へと向かう人々の足としてベルリン側のハブ駅となっていた。


 白い水蒸気が、コンクリートで固められた真新しいホームの足場を静かになで、その煙と真逆にけたたましい警笛の音が鳴り響く。


 「本車両は、大ウィーン大管区方面行です!お乗りのお客様は、直ちにお乗りください」


 駅員が、メガホンを使って広い駅内でも聞き取れるように声を張る。


 乗り込もうとする客の多くは、ドイツの中流階級のような人たちだったが、後ろにある「ボロ小屋」には、職にあぶれた浮浪者や何かしらの罪を犯した人たちが「ドイツ労働者戦線」による”引率”により押し込まれていく。


 「南部に行く人たちも結構多いんだな」


 大尉は、そうぼやきながら長い列を見る。


 大尉らが載るのは一等車両であり、彼らのような長い列はない。


 「南部の開発は、最近になって盛んにおこなわれていましたからね。現場作業員が足りないのでしょう」


 全国指導員が大尉のぼやきに応えるように話す。


 この頃の南部は、今までいた戦時徴用労働者の多くが終戦後に祖国へと送還され、同時期に軍をやめた兵士たちや職にあぶれた無職者たちを労働者戦線の者たちがかき集めて送るのが常となっていた。


 オーストリア時代の農村部は、旧帝国時代より続いている大規模農園でありながら、機械化が進んでおらずトラクターなどは、全体の12%程しかなく、置かれているものすら第一次大戦期に作られた低馬力なものしかない状況であった。


 これに対応するために、上記のようにドイツ労働者戦線の対応につなっがっていたが、焼け石に水な状態であった。


 「まずは、機械化するほうがいいだろうに。人海戦術じゃどれだけ要るかわからないぞ」


 大尉が呆れた顔で、ボロ小屋に押し込まれる人を見ながら呟くと前に並ぶ記者が肩をたたく。


 「順番が来ましたよ。改革談義はこの辺で」


 彼が指さした先には、無表情ながらも不満そうな駅員が、切符切りをカチカチと鳴らしながら二人が持っている切符を待っていた。


 よく見ると記者の方はとうに確認を終えてつまんでもらっていたようだ。


 「おっと。すまなかったな」


 「ごめんなさい」


 二人は慌てて駅員に切符を手渡して車両へと乗り込む。


 乗り込んだ車内に三人は目を奪われた。


 一般人が乗れる最上級である一等車両は、この頃の最高なサービスが受けられるように作られていた車内は、ベット付きのプライベートルームが六つ付いている客車に専用の食堂車がつながったものである。


 「さすが一等車だね。ベット付きとは嬉しいものだ」


 カメラを構えながら記者が興奮しつつ入っていく。


 残る二人も荷物をもって、自分がとった部屋に入ると、警笛が勢いよく響き渡って車両が前進する。


 こうして、彼らの乗る列車は、一路旧オーストリアの首都であるウィーンへと向かうことになった。

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