収容所の怪 15
1958年 ドイツ第三帝国 シュトラウツ収容所
「バルトホッフ大佐!侵攻してきた国防軍の部隊が司令部施設から後退。正面ゲート及び収容施設にて交戦を継続中」
「そうか。劇薬であるが、効果は絶大だな」
司令室にてバルトホッフが安堵からか顔を緩める。
彼は、自身の部下にシャイドルが開発していた肉体増強剤を投与して前線に配備した。
投与した親衛隊員は、その肉体と戦闘力によって苦戦していた戦況を打開していった。
彼らのが壁となった事で、他の親衛隊員が反攻準備を行っていた。
「そういえば、下に居る狂人共の後始末はどうなった?」
「はっ!現在、処理班が片づけを行っております。間もなく終わるかと思っております」
副官がそう言って、部隊の配置を説明していると一人の親衛隊員が走りこんでくる。
「司令官!研究室が大変な事に」
「どうした!」
バルトホッフと副官が大声で飛び込んだ親衛隊員に尋ねると同時に彼の後ろから得体のしれないものに何処かへと連れていくように引っ張られて姿を消す。
「!!」
司令室に居る一同が驚愕していると、先に兵士を引き込んだものの正体が姿を現した。
「なんだ!これは」
肉や骨、筋肉繊維などがあべこべに絡みついた塊が、細長く伸びて鞭のように周囲のモノを破壊しながら司令室に入って来る。
肉隗の中には、まだ消化できていない腕や目玉などもうねうね動き回っており、人だったものの無残な姿を見せつけていた。
「化け物だ!」
「逃げろ!」
司令室の兵士たちが怯えながら出口へと走っていくも、何人かは触腕に絡み取られ、奥へと引き込まれていく。
「これは一体・・・・シャイドルは、何を作っておったのだ」
驚愕するバルトホッフに向かって無数の触腕が迫っていく。
・・・・収容所野外実験場近くの茂み・・・・
ルセフたちと合流した大尉麾下の中隊は、茂みをかき分けながらクロー指揮する降下猟兵旅団と合流するべく前進していた。
負傷していた大尉は、衛生兵に傷口を処置した後に痛み止めを打って歩いていた。
「この道を真っすぐ進めば大佐の待つ司令部であります。もうしばらくご辛抱ください」
少尉が先導して歩き、正面の安全を確保する。
「まさか、お前らがここに居るとはな。クロー大佐が攻勢に出たのか?」
「ええ。閣下たちが向かった後に送った偵察部隊からの連絡が途絶えた事により、状況確認を行う為に手元の部隊をもってこちらに向かってくださったのです」
「それにお前らも同行したという感じか。戦況はどうなのだ」
「通信によると司令部攻略は失敗してしまうも、施設の6割を制圧。重火力装備を導入してから、一気に攻撃するつもりだそうです」
少尉の説明を聞いていた大尉は、施設からの銃声が徐々に落ち着いている理由を理解した。
「だとしたら、そろそろ親衛隊の連中が追い付いてくるだろうな」
大尉がそう言うと、少尉が近づいてくる。
彼が、少尉に耳打ちすると、数人に声をかけて後ろの方へと回っていく。
「一体どうしたのよ。やけに後ろの方に人送ってさ」
全国指導員が不安な顔で大尉に声をかける。
記者もルセフの横でMP41を手に持って周囲を見渡し始めていた。
「嬢ちゃん。あんたは大尉の側に居た方が良いぜ」
少尉は、大尉と全国指導員の前で盾になる様に歩き始める。
次の瞬間、後方から激しい爆発音と銃声が轟き、全国指導員の耳元に鉛の風切り音が通り過ぎていく。
「嘘!もう来たの」
驚いてしゃがみ込む彼女をかばうように大尉が体を前に出してFG42を連射する。
ルセフの周りには、数人の国防軍兵士が盾になりながら発砲をしており、その中にMP41を持っている記者の姿もあった。
「安心しろ!さっきの化け物じゃない。ただのSSだ」
少尉が大声で部下たちに告げると、他の兵達が向かってくる黒服に向かって集中射撃していった。
「連中、さっきまで超人兵を前に出していたのじゃいのか?・・・・もしかして」
違和感を覚えていた記者が上に目をやると、木々の上よりこちらを見る化け物の眼光を見つける。
「木の上だ!木の上に超人兵共がいるぞ」
記者が大声で伝えると共にMP41を乱射すると、近くで一緒に発砲していた兵士たちもそちらへと火点を移す。
化け物どもは、銃弾をものともせずに真下に居た兵士たちを襲い始める。
圧倒的な怪力と鋭い爪で、そこに居た兵士を次々と惨殺していく。
「くそ!各員、頭を狙え」
目の前の殺戮ショーに怒りを覚えながら、部下たちに命令を出した大尉の顔は、血走った眼をしていた。
大尉の持っていたFG42は、ドイツ軍の空挺部隊に配備されたライフルであり、通常のものより貫通力もっており、強化された人間であってもどこの部位でも吹き飛ばす事が出来る。
彼らの銃弾は、強化人間に直撃するも、強化人間の勢いを抑える事が出来ないで突っ込んできた。
「奴らの勢いが収まりません!このままでは、閣下の安全が」
ルセフの周りでいる兵士たちが、大尉へと伝えると、そのうちの半分が吹き飛ばされていった。
「嘘だろ。どうする大尉!」
目の前で吹き飛ばされた兵士たちを見ながら記者が叫んだ。
化け物は、眼前に居る兵士の中にいる赤茶色の服を着ている男へと手を挙げた。
大尉は、慌ててルセフ側に居る化け物に持っていたFG42を連射して、彼の前から引き剥がすと、そのまま彼らに合流する。
「閣下を守れ!方陣」
大尉の号令に周辺にいた兵士たちは、素早くルセフを囲むように配置づいて、StG44を連射する。
「隊長!これからどうするんですか」
「知るか!死守するだけだ」
大尉と記者がそのように言いながら手持ちの武器を連射し続けるのであった。




