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ヒトラーが告げる  作者: 猫提督
収容所の怪
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収容所の怪 11

1958年 ドイツ第三帝国 シュトラウツ収容所

 地下にあるシャイドルの研究室にルセフらが身を隠しながら、そこに居る”協力者”6号の驚愕の話を聞いていた。

 「・・・・そこに居る方が、なぜ総統閣下のご子息だと分かったかですか?まぁ、疑いたくありますよね」

 バルトホッフが、大尉の方を見ながらそう言うと、6号が、頭を傾げながら口をはさむ。

 「彼は、ワタシタチが作った『そうとう』のようなカンセイヒンではなく、各種のトクチョウに違いがミられる。これは、私としてもキョウミブカい点だよ」

 6号がスラスラと彼らの理解が及ばない冒涜的な発言と気色の悪い身振りに嫌悪感と宗教的な不快感を漂わせていた。

 バルトホッフの方は、数枚の写真を持ってきてルセフの前に置くと、その中身にぞっとするモノが映っていた。

 そこには、培養液で製造されていたり、解剖台に寝かされているアドルフの姿が映っていたのである。

 「これは・・・・」

 「総統閣下を作っていたと言う事なのか!」

 冒涜的な行動に憤慨した大尉と忠誠心から頭が混乱してしまっている全国指導員がその写真に愕然とする。

 「私を含む個々の研究員は、先の戦争において収容所における人体実験などを行っていた者たちが多く、表の社会に出たとしても、快く出迎える事が出来ないだろう。そんな我々に、この場所を提供してくれたのは彼ら『総統の子供たち』だ」

 「『総統の子供たち』?いったいどのような組織だ」

 唯一落ち着いていた記者が、バルトホッフが話してくれた組織について尋ねる。

 「『総統の子供たち』は、先に行った総統閣下の暗殺未遂事件以降に設立された特務組織であり、親衛隊や国防軍にも発言力を持っていた組織であるよ。多くは、我らが作った総統閣下の”クローン”を使った戦意高揚や政治的アピールを行っていたが、”総統後見役”という数人は、圧倒的権力をもって粛清や軍指導部の一新などを行っていたそうです。そのために、この施設の設営や一部運用を行っていたのであります」

 なんとも言えない顔をしていたバルトホッフは、更に暗い顔をして彼らについて話す。

 彼らの主要メンバーを「総統後見役」と称するモノたちであり、暗殺未遂事件当時に瀕死の総統を助け出した者たちから構成されている。

 ユーラシア大戦終結後に総統命令により解散したものの、ここを含めた複数の施設が、親衛隊を隠れ蓑としてひそかに暗躍しており、今でもかなりの影響力を有していた。

 現在の代表は、ボルツ・ダーヴィト労働戦線総監であり、ルセフたちを追っているのは、カイ・パルナバスというものらしい。

 「総統後見役は、いまもドイツ国内にあるいくつかの施設を管理していている。ボルツが労働戦線をまとめている事もあり、秘密工場なども製造されているから、兵士も武器も揃っているようだ」

 「だとしたら、相当まずいのではないのか。我々にそんな事を言えば、瞬く間に君たちは殺されてしまうのでは」

 ルセフがシャイドルと6号に向かって深刻な面持ちで問う。

 「私は、すでに多くの罪を犯しており、例え無事にここを脱出してもいずれ誰かに背後から刺されるでしょう。それならば、あなたを助けて、少しでも善行を積もうと思いましてね」

 バルトホッフは、なんとも言えない顔をしながらルセフに話す。

 彼の顔は、すでに死を覚悟しており、このことを伝えたのも我らに対処してほしいという気持ちからだったのかもしてない感じであった。

 「私もカレらと共にノコるつもりです」

 6号の言葉にその場の全員が驚いた。

 彼は、この戦いにほとんど関りを持っておらず、ともすれば「総統の子供たち」に保護される可能性すらあり、我らを助けるメリットがなかったからである。

 「博士が残る理由は分かりましたが、君がなぜ残る気になったのだね?言っては何だが”よそ者”の争いであり、君たちには関係のないものではないのかね」

 6号は、ルセフの問いに対して、独特なく”声”を響かせた後に、軽口で返す。

 「私は、”ノコる”と言っただけだよ。ベツに”死ぬ”なんてことをしようとはオモっていないからね」

 「しかし・・・・」

 「若き総統閣下。これは、彼が決めた事です。我々の覚悟を受け取ってください」

 シャイドルの回答にルセフは、虚しさからか顔を曇らせた後に、彼らの手を強く握る。

 「すまない」

 彼らは、そう言って降りた場所とは反対側の階段より、上っていく。

 「ドイツの将来は、アドルフ閣下から移り変わらねばならないからな」

 「君たちのシコウは、理解できなかったが、ワタシの技術がイらなくなったことは分かったよ」

 二人が顔を見合わせた後に、周囲に居る研究員を見た後に、軽く笑みを浮かべた。

 「さぁ。我らの未来を守ろうではなか」

 バルトホッフの覚悟の言葉を宣言した直後に、後ろの鉄扉が弾け開く音が聞こえ、ずかずかと走ってくるSS兵士の足音が近づいている事を知る。

 「ルイス博士!総統閣下と供廻りのもの達は、どこに行かれましたか」

 「おやおや。誰かと思えばハインツ大佐ではないですか。いささか慌ただしい登場の仕方でしたからびっくりしましたよ」

 バルトホッフ指揮下のSS兵士たちに銃口を向けられながらも、シャイドルはいつものような口調で近づいてくる。

 「彼らは、自身の身分を偽ってこの基地に潜入したのです。彼らは、本部より身柄を確保するように要請されている人物のであったのです」

 「そうなのですか?生憎、我らが知る余地はございませんね」

 シャイドルがそう言って憎たらしい笑みを浮かべる。

 バルトホッフは、周囲を見渡しながら、研究室内の違和感に気づく。

 いつもは資料棚にしまわれている書類や机の周りに並べられた空席の椅子。本来奥に居るはずの職員たちまで表に出ていた。

 「珍しいですな。奥に居るメンバーまでここに来ているなんて。一体何があったのですかな」

 「君が気にすることなのかね」

 シャイドルがそう言って前に出てくる。

 バルトホッフは、しばらく散らばった資料の束やいすを眺めた後に研究員たちの方を向くとクスッと笑みをこぼす。

 「そういえば、親衛隊司令部から命令が入っていたのだった」

 「なに」

 「この研究所の放棄と”総統複製計画”の中止だよ」

 バルトホッフがそう言って手を上げると、SS兵士の銃口から一斉に火点が灯り、高速の鉛の塊がそこに居る研究員たちの白衣を真っ赤に染め上げ、内臓や腹に溜まった排泄物を床にまきちらす。

 「貴様!」

 「ご苦労であったな、博士」

 バルトホッフは、懐から取り出したP38をシャイドルの眉間に向かって鉛弾を押し出す。

 しかし、バルトホッフの弾は彼の体に届くことはなかった。

 彼らの間にはピンク色の液体を白衣にシミをつくった6号がいた。

 「6号!」

 「大丈夫だよ。ワタシは、君たちとカラダの構造がチガうからね」

 6号に手を貸しながら、何とか立ち上がらせる。

 「奇妙な奴らだ。我らに協力すれば、命を落とさずに済んだものの」

 バルトホッフを睨みつけるシャイドルを向くと同時に後ろにいたSS兵士の銃口が火点の光をともし、2人の体をえぐり取る。

 「よーし。次は、総統閣下を語った侵入者だ!直ちに展開するぞ」

 バルトホッフの号令に、SS兵士が駆け足で階段を上っていく。

 床一面に広がった培養液の内臓は、その居た者たちがどのような惨劇に巻き込まれたを物語るのであった。

 ルセフたちは収容所より無事に逃げ出す事が出来るのであろうか?

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