収容所の怪 9
1958年 ドイツ第三帝国 マウンツハイム
ルセフの身柄の安全などを気にしているクローは、指令室においてイライラしながらポトポトと歩き回っていた。
「旅団長。偵察隊より報告が入っています」
「おお!閣下は、無事外に出られたか?」
クローは、報告に入った兵士に振り向くと、すぐさま状況を確認する。
「いえ。ですが、施設から300mほど離れたところにある仮施設に向かう車列を確認。現在、先発メンバーを送り状況を確認させております」
「そ・・・・そうか。状況が分かり次第、報告させろ」
報告をした兵士は、クローに敬礼した後に部屋から出ていく。
「あんまり気にしすぎると、いざという時に誤った判断になってしまいますよ」
横に居る参謀が不安なクローを諫める。
「しかしな、彼にもしもの事があったら・・・・」
「確かに、我らが帝国へのダメージはかなりのものとなりましょう。下手をすれば、内乱となります」
「内戦で済めばいいよ。奴らが戦時下に開発していた兵器なんかで応酬しあったら、ドイツが終末に陥ってしまう」
47年にアメリカ実施した「マンハッタン計画」に影響された当時の各国列強は、これを凌ぐ超兵器開発への予算を拡大させていた。
ユーラシア大戦後にあたる49年には、ドイツ占領下であった旧フランス領シリアにおいて最初の核実験を実施。アメリカが行ったものの6割ほどの威力であったものの、中央部での破壊力においては強力であった。
その後も続けざまに日本、英国、ソビエトが成功させたことで、危機感を持ったフランス残党政府とアメリカによる働きかけにより52年に「核開発規制条約(モロッコ条約)」が締結され、一時的に核兵器開発競争が休息していったものの、どの国も基礎技術の成熟に力を入れ続けていた。
ドイツ国内では、大戦期に開発していた「V計画」の延長にあたる「B計画」を行っており、化学兵器や特殊火薬兵器などを開発を進めていくも、原子力の研究については表立った情報がなかった。
辛うじて表になっているのは、ドイツ南部の都市ニュルンベルクにあった原子力研究所が設けられている程度であり、ほとんどの情報がない状態であった。
「仮に、終末兵器が作られていなかったにしても、現有兵器だけでも地獄を創るには十分な威力のものばかりです。それに、扱うのは国防軍だけではありませんからな」
参謀がそう言うと、クローは顔をしかめる。
ドイツ第三帝国において彼らが所属する国防軍や親衛隊のような軍事組織が加盟国を含めて多く所属していた。
特に上記に名前の上げている親衛隊は、言わずもがな強力な準軍事組織であり、ナチスドイツの思想に染められた集団である。
「親衛隊の奴らが、終末兵器や大量殺りく兵器を入手するようなことになれば、多くの人間に不幸が巻き起こってしまうぞ」
「確かに親衛隊が入手することは厄介だが、彼ら以上に厄介な組織があるんだよ」
参謀が親衛隊への不安をの口にした後にクローは、さらなる問題組織について頭を抱えながら口にする。
「・・・・?そのような組織が、我が国にあるのですか」
参謀が確認するように尋ねる。
「先の大戦後期に、全線視察に訪れていった総統閣下が反対派勢力による暗殺計画の被害を受けてしまってな。その時に閣下の代わりに政治活動や国内高揚を行っていた組織があるのだ」
ユーラシア大戦も2年目となってしまった45年の後半。夏場の長雨とソビエト軍による果敢な反攻作戦「秋の恵み作戦」により、ソビエト・ロシア領内の戦局が著しく悪くなっていた。
状況悪化を危惧したアドルフ・ヒトラーは、ウクライナ南部の都市オデッサにおいて主要軍関係者を集め、犯行作戦の計画を立てようとしていた時にその事件が起こった。
この頃、秋の恵み作戦の主目標とされていた北部方面軍では、大規模な損耗とエストニアまでの領土を失っており、戦線司令官達の中で責任の追及を恐れる者たちが現れていた。
その一人である作戦参謀が自身の命と引き換えにアドルフの暗殺を計画。
持ち込んだ資料に紛れ込ました爆弾と施設内に設置した時限爆弾で殺害する予定だったが。当初の予定していた建物と違うところに変更されており、暗殺を失敗する結果となった。
だが、手元にあった爆弾は予定通り爆破され、会場に居たアドルフも瀕死の重傷を負う事になった。
事態を重く見た国防元帥のヘルマン・ゲーリングと親衛隊長官であるハインリッヒ・ヒムラーは、総統不在の間の戦意高揚や政治的プロセスを管理するための特務機関を設立した。
彼らは「総統後見役」と言われる数人のもの達の合議制により、特殊な環境であろうともアドルフしか発行できない総統命令書の臨時発行権を付与されており、前線での影響圏などを保有していた。
彼ら「総統の子供たち」と名付けられる特務機関は、戦後のドイツ帝国内にも暗躍しており、親衛隊ですら扱いに困る組織となっていた。
「・・・・そのような組織が、わが国内にあるとは」
詳細を知った参謀は、頭を抱えながらクローの顔を見る。
彼は、その組織について断片的な情報に尾ひれがついたようなまがい物の話と一蹴したかったが、ベルリンに居るルドルフ・ヘスとの交流の際に、その組織が現実に存在することを知り、驚いていたらしく、話は後も半信半疑な感じをしていた。
「彼らは、大戦終了後に解散を命じられいたと聞いているが、もしかしてまだ暗躍していたのでは・・・・」
クローがそう言いながら、参謀に向きなおった時、報告に来た兵士が慌てて入って来る。
「旅団長!収容所に底辺発生。現地偵察隊からの報告が途絶地ました」
「何!」
・・・・同時期 収容所・・・・
ルセフたち一同は、外の様子を眺めながら、脱出について計画していた。
「しかし、どう出ますか?」
「視察終了と言って正面から出ていくのは」
全国指導員が提案すると、記者と大尉が首を横に振り、ルセフも渋い顔をする。
「彼らは、今のところ私たちを信用してこの話を着きれているが、時間が経てば怪しいと思い始める者たちが出始める。ここは、ひそかに出ていく方が良いだろう」
「どのように行くんだ?我らは、敵渦中に居るんだから、下手をしたら我らが殺されかねないんだぞ」
大尉の案に記者が問題点を指摘する。
「中に入るためと君の案を聞いたが。本当に脱出できるのか?」
ルセフが心配しながら訪ねると共に彼らがいる応接室の扉が開く。
「閣下。さらに見せたいものがございますので、ご一緒に来ていただけますか?」
中に入ってきたシャイドルは、作り笑いを浮かべながら彼らにいちまいの紙を見せる。
そこには、「直ちに脱出するから付いて来てほしい」というものであった。
ルセフたちは無事に脱出できるのか。ドイツの運命は・・・・。




