プロローグ
黒メインの色をした近未来チックな短剣が魔物の皮膚を切り裂き、薄暗い洞窟の中で宙に黒いドロッとした液体が舞う。
「これで最後だな。汗と血で服がベタベタだ。早く帰ろうぜ」
と、体格のいい男が汗を黒い地味なシャツで拭いながらその体格には似合わない手斧を握りしめ言う。
続けて拳銃を持った細身の女が、
「そうね、早く帰ってシャワー浴びて、いつものまっずい飯でも食べましょ」
彼も彼女も今日知り合ったばかり。誰もこの仕事に誇りなんて持っていない。誰もここに来たくて来たんじゃない。
気づけば仕事仲間が死んでゆく。ここはそういう場所なのだ。
「この仕事にも慣れてきた」と、自分で自分を誤魔化しているが俺の心には悔やんでも悔やみきれない後悔があった。
あの時あんな事をしなければ、今頃[天]で暖かいお風呂に入って、暖かいスープをリビングで飲みながら、妻と娘と家族の団らんを楽しんでいたのだろうか。
俺たちはこの仕事で確かに社会に貢献している。だが、俺達に光が届くことは無い。
あと何回剣を振ればいいのだろう。
あと何回引き金を引けばいいのだろう。
あと何回戦えばいいのだろう。
あと何回命を奪えば…いいのだろう。