1 その場所には(この世界の)すべてがあった。
また逢う日まで
登場人物
私 小学校五年生の女の子
先生 森の中で暮らしている女性
本編
その場所には(この世界の)すべてがあった。
私が先生と出会ったのは小学校五年生のときだった。
先生は私の隣の家に住んでいる。
でも、隣と言っても、私の家と先生の家は随分と距離が離れている。
森の中にある小さな家。
私は森の中にある小さな土色の道を歩いて、いつも先生の家までお邪魔をしていた。
「おはようございます、先生」
とんとんと木の扉を叩きながら私は言った。
「はい。おはようございます」
ふふっと笑いながら、木の扉を開けて顔を出した先生が私を見てそう言った。
先生はいつものように丸い眼鏡をかけて、にっこりと輝く太陽のように明るい顔で笑っていた。
先生はずっと笑顔だった。
いつも笑っていた。
先生が悲しい顔をしたり、怒った顔をしたりするところを私は今まで一度も見たことがなかった。(私のせいで、先生が困った顔をしたり、悩んだ顔をしたりすることはよくあったけど……、それでもそのあとに先生はいつも笑っていた)
先生の住んでいる小さな家の中はいつもとてもいい匂いがした。
家の中のものは少なくて、清潔で、明るくて、空いている窓からはとても気持ちのいい森の風が吹き込んでいた。
時刻は朝の九時。
キッチンではお湯の沸いている音がする。
先生がいつものようにコーヒーを淹れる準備をしているようだった。