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呪祓師  作者: 白詰草@ド素人
0章
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0-2

*9月25日手直ししました

駅前の広場、その通りにあるカフェ【Clover】は今日も今日とて閑古鳥が鳴いている。


お昼時も過ぎ去り、駅前の人通りも疎で喫茶店に訪れる人もいないころ、ドアベルの音が客が来たことを知らせてくれた。


「…いらっしゃい。注文は?」

「そうね、紅茶を頂こうかしら」


カウンターに座った見知らぬ女はメニューも見ずに注文する。青年はそれを訝しむものの、そんな客もいるかと納得して紅茶を作り出した。


良い香りがする紅茶を口に運んだ女は、ふうと一息ついた後ゆっくりと口を開く。


「……47点」

「は?」

「お湯の温度はいい、けどコップを温めてないしブレンドの種類が悪い。これじゃあ互いの良さを打ち消してるようなものよ」


店で出すものではないわね、と付け加える女に気分を害するのは当たり前のことだろう。


「…それは悪かったな。気に入らないなら金だけ払って帰ってくれ」

「あーごめんなさい、気を悪くされたかしら?」

「当たり前だろ」


はぁとため息は吐くものもの客は客。それ以上のことは言わずに片付けに専念する。すると再び女が口を開いた。


「それはそうと私、あなたに用があって来たの」

「はぁ?…俺にお前みたいな失礼な知り合いはいないぞ」

「そうね、私とあなたは初対面よ」


にこりと読めない顔をする女に男はさらに顔を顰める。どうにも自分はこの女性のことをあまり好きではないようだ。


「協会のことについて知ってるでしょ?」

「…悪いがクリスチャンじゃないんでね、そんな詳しくはないな」

「いやその教会じゃなくて…わかるでしょ?あなたが所属している、あの組織のことよ」

「……協会の連中が何の用だ」

「あぁ違う違う、私は別に協会の人間じゃないわよ」

「ますますわかんねぇな。じゃあお前なんなんだよ」


青年の言葉に、女は美しい笑みを浮かべる。持っていたカップを置いた女は弧を描いた口を動かした。


「ーー自己紹介が遅れたわね、私は葵。天城葵よ。これからよろしく」

「…は?」


ポカンと口を開けて驚く男に、葵という女性は話を続ける。


「私呪祓師になったばっかりでね、見回りとか、詳しいことを知らないのよ。だから身近な先輩に教えを乞いたいって協会に言ったら、あなたのことを紹介してくれたわ」

「……嘘だろ、それ。協会の連中が俺のことを指名するはずがない」

「本当よ。なんなら証拠の書類でも見せましょうか?」


鞄をゴソゴソと漁り出す女に、青年は頭を抱えた。この様子を見るに、どうやら嘘ではないらしい。


「はぁー…いいよ別に。仕事を教えればいいだけなんだろ?」

「できればタッグも組みたいと思ってるわ」

「断る」

「あら、こーんな美女とタッグが組めるのよ?喜ぶべきじゃない?」

「好みじゃない」

「残念」


そもそも呪祓師は1人で行動することが多く、タッグやチームを組むのは稀である。それこそ、初心者が無茶をしないように上級者が見張るくらいで…。

そして青年は自分のことを中級者程度の実力だと思っており、自分が初心者の面倒を見きれるとは考えていないが故の即答だった。


「まぁもう提出しちゃったんだけどね、書類」

「…はぁ?」


がしかし、その後の女の言葉に驚愕することになる。女は今、なんと言った?ダッグになる書類を、協会に提出した?


「あれは双方の許可がないと通らないはずじゃ…」

「お偉いさんに直談判しにいったらいいって言われたわよ」

「あんのクソジジイどもめ…」


上の勝手な判断に付き合わされるのはいつも下のものなのだ。かといって、青年はそれに歯向かうほどの反抗心を持ち合わせているわけでも、初心者を放り投げるほど責任感がないわけでもなかった。


「…わかった、とりあえずタッグ解消するまではお前は俺の相方っていうわけだ」

「そうそう、よろしく紅くん」

「…なんで名前を知ってるのかは置いといて、始めたばっかって言ってたな、具体的に何ヶ月めだ」

「んー3ヶ月くらい?」

「…本当に初心者だな。はぁー、わかった。とりあえず今日の夜もう一度ここに来い。色々教えてやる」


とりあえず今は人がいないとはいえ、一応店の開店時間であり、これ以上深いことは話せないと話を切り上げれば、女は大人しく従う。

そうして夜が更けた頃、言われた通り女は店を訪ねてきた。


「来たわよー。夜でも明かりがついてる店なんてここくらいだったから、1発でわかったわ」

「来たな、まずやることと言えば…これだ」

「…なにこれ、新聞?」


客席の机に置かれ、広げられた新聞の束に女はきょとんとする。そんな女に青年は説明を始めた。


「実際に事故があった現場とか、人々の熱気が溜まりやすいステージとかに呪いは出やすい。それを調べるにはこれが1番だからな」

「……やり方古くない?ネットで調べれば1発じゃん」

「………調べ方がわかんねぇ」


なんとも現代人にそぐわない答えに、彼女はため息を吐く。仕方ないと自身のスマホを取り出し、サクサクっと近くの事故現場や会場などを調べ上げる。すると一件、呪いが集まりそうな場所を見つけた。


「あ、ここ。この廃病院とかは?ちょっと遠いけど…」

「…そこか。そこはしばらく行ってなかったからな。丁度いいし行ってみるか」


持っていた新聞を片付けた青年は、店の電気を消して戸締りをすると、裏に停めていたバイクに女を乗せ、発進する。

30分ほどすれば、言っていた廃病院に無事辿り着いた。


「…ちなみに許可は取ってたり?」

「するわけないだろ。立派な不法侵入だ」

「わぁーお、犯罪的〜」

「だからあんまり騒ぐなよ。捕まったら狂人扱いされるのがオチだからな」

「まぁ確かに『呪いを祓うためにいました!』は頭のおかしい人間そのものよね〜」


バイクを見えにくいところに停め、ヘルメットを脱ぐ。その最中に発される言葉に堂々と否定しながら刀袋を片手に廃病院に足を進めた。


一階は待合室のようなところと診察室があり、二階が患者の病室らしい。コツコツと院内に足音だけが響く。まだ新しいとはいえ、病院内には埃が舞っておりどこかカビ臭い。


「…いるわね」

「!わかるのか?」

「え、逆にわからないの?」

「……探知は苦手なんだ」

「それでよく1人でやって来れたわね〜。ひょっとして入念な調査もそのためだったり?」

「…悪いか」

「いえ?別に。用意周到なのはいいことよ」


言いながら二階へと上がると、急激に周囲の温度が冷えたのを肌が感じ取る。すると病的なまでに肌が白い人間のようなものが複数体、目の前に現れた。

なぜ人間のようなもの、と表したのか。それらは顔の部分が空洞になっており、手足である部位が長かったり短かったりと、非常にアンバランスなのだ。

しかし彼らはその道の専門家。このような化け物と出会っても悲鳴すらあげず各々の武器を取り出した。


「お、お出ましね」

「…とりあえずここは俺がやるからお前は黙って見とけ」

「あら優しい」

「お前の腕が信用ならないだけだ」

「手厳しいのね」


そう言って女は一歩下がる。

と、同時に青年が化け物の群れへと飛びかかった。

男に手を伸ばす異形に向かって横凪に一線する。病院の廊下は案外広く、化け物を相手取るには不足ない。そして化け物の方も、数はいるものの一体一体は非常に弱いのか、男の攻撃で霧散した。

一歩、また一歩と青年は人のようなものを切り進んでいく。その度に化け物から悲鳴のようなものがあがるが、彼は気にしない。そこにあるのはかつてあった死への恐怖、その名残に過ぎないのだから。


そうして最後の敵を切り終えたところで、青年の死角となる壁から一体の化け物が現れた。無論、呪いなんぞに実態があるわけもなく、それは完璧な不意打ちとなり、青年の反応を一瞬遅らせた。


「っ!?」


青年が化け物の接近に気付き、振り向いた瞬間、白い光弾が怪物にぶち当たる。丁度頭の部分を吹き飛ばされた化け物は、例に漏れず四散した。

そして光弾が撃たれたところを見ると、白い拳銃を構えた女が少し驚きながら立っていた。どうやら、動いたのはほぼ無意識だったらしい。青年が刀を鞘にしまうと、女が話しかけてくる。


「…本当に感知が苦手なのね。驚いちゃった」

「……悪かったな」

「いいわよ、別に。あなたでも対処できたことだろうし」


そうして辺りをぐるりと見渡すと、ふぅと一息つき拳銃をしまいながら続け様に口を開く。


「まぁこれくらいかしらねー」

「…そうだな」

「…?なに、何かまだ言い足りないことでもあった?」


もごもごとなにか言いづらそうにする青年を訝しげに見る女。その視線に耐えきれないといったように、男はようやっと口を開いた。


「…………さっきは、ありがとう」

「!」


意外や意外、それは指示ではなく感謝の言葉だった。おおよそ青年の口から出るとは思わないその言葉に、女は素直に驚く。


「え、やだあなたってお礼とか言えるタイプだったのね!意外と義理堅い?」

「あーうるさいうるさい、終わったならさっさと帰るぞ!!」


やいのやいの騒ぎながら病院内を後にする。


ーーこれが、後に協会内で噂になる2人組の初仕事であった。


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