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番外03 課外授業




 僕達の通っている学校には、半年に一回ハードな課外授業がある。


 年々内容は変化していくので、その年ごとに違いがある。


 ある年では、猛獣と戦わされたり、トラップだらけの遺跡に入らされたりしている。


 生とのレベルにあわせて、考えられているため、内容が違ってくるのだ。


 その点今年はあれだよな。


 大変だ。


 教師達には同情するよ。


 ただでさえびっくり物理お化けが二人いるのに加えて、今年はあんなトラブルがあったもんだから、さぞ頭を悩ませたんだよな。


 でも、学校教育だからあんまり授業を厳しくしすぎるのもあれだし困るはず。


 うちの幼馴染は向上心の塊だけど、そうでない学生はいるし。


 僕みたいに箔をつけるためだけに入学した奴もいるだろうから。


 で、そんなあれこれの葛藤があってか、ようやく決まった内容が自然での生存訓練だった。


 今年の僕達は、どうやら山の中で生き延びるという内容の課外授業らしい。


 学校での大がかりな授業はこれで最後になるだろう。


 だから、教師達も気合の入れようが違う。


 必要な装備を調達したり、備品をそろえたり。


 生徒会も手伝わされたな。


 ただし、少し前にあった事があった事だから、安全面には気を使いながら、らしいけど。






 そんなこんながあっての当日。


 現地山の入口に集まった僕達は、教師達から様々な注意事項を伝えられた。


 予想外の事態になったら、教師を呼ぶ事。


 無茶はしない事。


 迷い込んだ人間と出くわした時は、即連絡をとること。


 生存の為とはいえ、野生動物を乱獲しない事(特に馬鹿と幼馴染をみながら)。


 などなど。


 それらの説明が終わった後は、専用の支給品が入ったカバンを支給された。


 班をつくっての行動になるため、各班一つずつだ。


 あとは、それぞれ別の場所に移動して、同時に開始。


 三日間の課外授業の始まりだった。






 山の中を歩いている僕達は、支給品の入ったカバンを見つめて会話を交わしていた。


「なあ、ヨルン」

「なんだ馬鹿」

「これって今食べちゃだめな奴だよな」


 馬鹿はお腹をならしていた。


 こいつ朝ご飯くってきてないのか。


 山の中、しげみをかきわけ、虫にさされながら、歩いていく。


 今日中に飲み水を得られる場所までいきたいな。


 天候の事も考えて、早めに天幕もはりたい。


 僕には考える事がいっぱいあった。


 なので最初に考えた事はさっさと切り捨てる異にした。


 おなかを鳴らす馬鹿にひとこと。


「馬鹿が」

「とうとう何も言わなくなったな。もうちょっと詳しくつっこんできてもいいんだぜ?」

「つっこんで疲れるからやめにしたいんだよ」


 足元にでっぱっていた木の根を避ける。


 背後ではしかし、馬鹿がひっかかってお嬢様に心配され、嬉しそうにしている。


 こいつなんでこんな頭が可哀想なの?


 学校卒業した後、こんなんで生きてけるの?


 かわいそうな馬鹿をかわいそうな目で見つめていると、お嬢様が声をかけてきた。


「ねぇヨルン」

「なんですかお嬢様」

「この笛って、きちんと使えるものか吹いてみないとだめだと思うの」

「まともだ」


 お嬢様はカバンの中のものを確認していたようだ。


 よかったお嬢様にまで馬鹿の馬鹿がうつったらどうなるかと思った。


 木製の笛をとりだして、しげしげと眺めている。


「そうですね。出発前に教師に言って確認しておくべきでしたね」

「ええ、もしもの事があった時に道具が使えないんじゃこまっちゃうでしょ?」


 大丈夫だと思うけどな。

 支給品が仕えるかどうかは、あらかじめテストしてあるし。


 けれど、全部が全部ちゃんとやったかと言われると分からない。


 お嬢様が言った通り、確かめておくのも必要かもしれないな。


 だが、いきなり笛をふいて先生をよぶわけにもいかないのが困ったところだ。


「そうですね。どこかに音の響かない洞窟みたいな場所があったら、そこで試してみましょうか」

「そうね。忘れないようにしなくちゃ」


 お嬢様は真面目に他の道具をチェックしている。


 馬鹿はこういう所をみならってほしいものだが。


「あっ、この保存食の店しってるやつだぜ。うまいやつだぜ」


 だめだ。


 僕は幼馴染の馬鹿の頭をはたいた。


 もっと危機感もてよ。


 魔物の軍勢の前で大立ち回りした後だろ。あんな事があった後だろうが。







 そんなこんななやりとりをしながら進んでいくと、しばらく。


 僕達は向かいからやってくる見慣れた顔をみつけた。


 ニオの班と合流した。


 ニオは、お嬢様の友人。


 お嬢様と咳が横になった時に、あれこれ世話を焼かれたり焼いたりしたらしい。


 活発な女生徒で、恋バナに目がない。


 ツェルトの事を冷やかしているらしいが、お嬢様が鈍感すぎて何も恋バナにならないところに、残念がっているようだ。


「あっ、こんな所で会うなんてきぐーだね!」


 ニオは素直に嬉しがっているが、こういう状況は果たしていいのだろうか。


 生徒同士で協力するなとは言われてなかったから、べつに悪いわけじゃないだろうけれど。


 成績付ける時たいへんじゃないだろうか。


 そんな事を考えている間、お嬢様がニオと話をしている。


 ニオが歩いてきたルートではクマの足跡があったらしい。


 身振り手振りで、あれこれ知らせてくる。


「こんなおっきな足跡があったんだ。ニオ、か弱い乙女だからちょっと心配だったよ。でもがんばってここまで歩いてきたもんね!」

「そう、がんばったのね」

「えへへ」


 僕達と一緒にいるとちょっと子供っぽく見えるお嬢様だけど、他の生徒の面倒を見ている時は年相応に落ち着いて見えるんだよな。


 相手がニオみたいなタイプだと、年上にも見える。


 こういう光景みるとつくづく思う。

 友人を選ぶのって大切だなって。


 この幼馴染達、一緒にさえいなければそれなりにまともな人間に見えるのに。


 ふりまわされている僕としては複雑な心境にならざるをえない。


 その僕の横では、目の前の光景を見て、馬鹿が羨ましがっている。


「くそっ、いいなぁ。おれもやってほしい! ほめてほしい」


 おまえは何もやってないだろ。

 そういう色ボケなんとなからないの?


 そのあと、二、三事かわしてニオ達の班とは別れた。


 しかし、クマか。


 この山、いるんだな。


 幼馴染ならともかく、僕は油断するとただの魔物や動物相手でもしにかねないから。

 気を付けておかないとな。








 それから良い場所を探して数時間歩いた後、山の高い場所でテントを張る事にした。


 川のある場所を見つけたかったけど、仕方ない。


 一日目なんてこんなものだ。


 水筒の水はまだあるから、二日目に探せばいいだろう。


 むしろ無茶して、怪我をする事態はさけるべきだ。


 そういうわけで、本日の野営場所を定めた。


 あとは夜を越す準備だな。


「日が沈むまでに火をおこしておかないと大変だぞ」

「おりゃああああ」


 馬鹿は火おこし担当。


 僕はテントの設置。


 お嬢様は料理担当だ。


 そのお嬢様は、食べられる草の知識を発揮して、はりきっている。


「備えあれば憂いなし。役に立つ時がきたわね」


 お嬢様、子供の時たまに、そういう知識に興味持って調べてたんだよな。

 子供の頃は、いつ役に立つか分からない知識だと思っていたが、人生何がおこるか分からないなほんと。


「二人とも、ごはんできたわよ!」

「よっしゃ。手料理たのしみだな!」


 わくわくしながら、もりつけられた器の中をのぞきこむ馬鹿。


「……」


 やつは、笑顔のまま無言で固まった。


 おい、何を見た。


 嫌な予感をかかえつつも、僕も自分の器に視線を落としてみる。


「……」


 僕もそれを見て無言になった。


 そんなこちらの反応をみて、お嬢様はきょとんとしている。


「二人とも、どうしたの?」

「あー、いや。ちょっと予想外だっていうか、個性的だったっていうか、斬新だなって」


 幼なじみは言葉を濁す事をせんたくしたようだ。


 なら僕はばっさりいく方だな。


「お嬢様、これ本当に食べられるんですか?」

「えっ、当たり前じゃない」

「とてもそうは見えないから聞いてるんですが」


 器にはパンがあった。


 保存用のパンだ。


 そのパンに綺麗に切りそろえられた雑草がのっている。


 百歩ゆずって別々に出されたならまだ理解できた。


 これは生き残るための授業だし。


 食べれる草と味気ないパンくらいはしっかりたいらげてみせる。


 しかし、一緒にする意味ってあるのか?


 俺は馬鹿に小声で聞いてみた。


「おい馬鹿、お嬢様ってあれか」

「いや、まさか、そんなはずは。だったら俺の結婚生活どうなっちゃうんだ。そうなってもがんばるけどっ」


 しかし実りのある答えが返ってこなかったので、自分で聞くしかなかった。


「お嬢様、今まで自分一人でご飯を作った事、ありますか?」

「一人で? ないわよ。作る時は、みんなにてつだってもらっていたもの」


 料理できない系……(※しかも無自覚)だ。


 俺と馬鹿はその場に膝をついた。


 とりあえずこれはたいらげる事にして次からは僕とお嬢様の役目を交代しよう。







 その日の夜は、交代で火の番をしながら眠りについた。

 ぱんと雑草の妙なハーモニーがお腹の中でくりひろげられていたので、そうそう眠気がおとずれなかったのが行幸だ。







 思えば、奇妙なご飯をのぞけば初日は順調だった。


 問題らしい事はなかったし、ただ普通に授業を受けているだけだった。


 その反動がまさか次の日にくるとはな。


 平穏すぎる日は要注意だ。


 後で反動が来る。


 翌日、事件が起きた。


 山の中を歩いて皮を探していると、耳慣れない音を拾った。


 甲高い音がする。


 笛の音だ。


 教師を呼ぶ意味の音。


「誰か、怪我でもしたのかしら」


 お嬢様が心配そうに案じていたら、また笛の音。


 今度は違う方面からだ。


 馬鹿が驚いた声を出す。


「えっ二つの班から。これやばいんじゃね?」


 何か予想外の事が起こってるみたいだな。

 それも、まったく違う方向で同時に。


 先生たちはどうでる?

 僕達は避難した方がいいか?


 僕は幼馴染達の方を向いた。


 覚悟決まってますみたいな顔だった。


 それはたぶん逃げるためとか、諦めるためのものじゃない。


 おいおい、まじかよ。


 っていって、分かってたけどな。


 はぁ。


「二手に分かれて行動しましょ」

「おう、じゃ俺は最初の笛の音がしてきた方にいくな」


 放置していると、馬鹿とお嬢様が勝手に役割分担をしだしている。


 ったくしょうがないな。


「俺は馬鹿の方についてく。お嬢様、無理はしないようにお願いしますよ」

「ええ、大丈夫よ。あの時ほどひどい事なんてそうそう起きないだろうし」


 お嬢様、それはあれですよ。


 物語でよくある。「トラブルが起こる前触れ」ですって。







 というわけで僕は馬鹿と行動。


 笛の音がなったあたりへ急いだ。


 すると、グレートワームに襲われている生徒達がそこにいた。


 でっかいミミズ型の魔物だ。


 頭部が開いて、口になるんだが、そこからのぞく歯がギザギザすぎて怖いやつ。


 全長三メートルほどもあるそれが。


 なんと三匹だ。


 助けを求めたらしき生徒達は、囲まれている。


 一応剣で戦ってはいるけど、押されているな。


 それを見た馬鹿は猛然と突撃。


「うらあああ、俺が相手だ!」


 僕はその反対側から援護。


 手ごわかったけど、それほど時間はかからなかった。


 なれって怖いな。


 魔物の大群の記憶が「なんだ三匹か、楽勝じゃん」って思わせちゃうから怖い。


 危険を正しく危険と認識できなくなっているような。


 僕まで非常識にそまってしまったら、誰が幼馴染をとめるんだよ。


 とりあえず、魔物はほどなくして討伐完了。


 あの最悪の状況をきりぬけてきた僕達の相手ではなかったようだ。


 けれど、また笛の音が聞こえてきた。


「またかよ!」


 馬鹿がさすがに心配そうな顔になってる。


 何かただならぬ事が起こっているのかもしれない。


 この山の中で。

 

 すると助けられた生徒達が不審な人間を目撃したと言ってくる。


「たぶんどこかの盗賊団の人達がこの山に逃げ込んでるんだと思います」


 馬鹿でもさすがにこの状況だと「えっ」って顔になるんだな。

 魔物の群れの時でもそんな顔しなかっただろ、お前の中の危機感どうなってんだよ。


「手配書で見たような顔を、さっきみかけたので」

「それって、どんな連中なんだ? 特徴とかは」

「手配書にのるようなヤツか。手練れの可能性があるな」


 馬鹿と共に詳しく話を聞いていると、魔物を従えている盗賊団だと分かった。


 いつもは、コントロールできている魔物が暴走してしまっているのだろうか。


 その話をきいた馬鹿が「あー」と何かを思い出すそぶり。


「そういや、このあいだ騎士達が盗賊を取り逃がしたって地元で聞いた。それかもな。相手は手負いで狂暴だから近づかないようにって村長のじっちゃんもいってたし」

「それだよ。なんでこのタイミングであーもう」


 だから、この馬鹿あんなびっくりしてたのか。

 あいつの故郷は学校から離れた所にあるから、まさかこんな所に来るとは思わなかったんだろうな。

 

「ほんっと、トラブルばっかだな」

「あんまり悩むなってはげるぞ」

「うっさい」


 日ごろの元凶になってるお前が言うな。


「とにかく、こうなった以上授業は中止だろ。こいつらを先生たちのとこまでおくっていったら、お嬢様の手助けにいくぞ」

「おう!」






 そういうわけで、各地でグレートワームに襲われている生徒達を救出していくことになった。


 あちこちで笛の音がなりひびくもんだから、かなりあっちこっちいったりきたりだ。


 かんじんのお嬢様と合流する頃には、もう汗だくだ。


「ふ、ふたりとも。大丈夫?」

「お、おう」

「正直きついです」


 僕は馬鹿ではないので、余計な見栄ははらない。


 素直に残存体力の少なさを自己申告しておいた。


 先ほど教師とあってきたが、まだあちらと合流するのは難しそうだ。


 と、いうのも。


 件の盗賊団とやりあっていたってものあるし。


 それに、


「このグレートワーム。とても大きいわよね」


 山の主勝手くらいのサイズがめのまえにいるからな!


「もうやけくそだ! ちゃっちゃと終わらせて教師と合流するぞ!」

「おっ、珍しくヨルンが先陣きった」

「無茶しちゃだめよヨルン」


 そのことば、普段の自分達に言ってくれませんかねぇ!









 そんなこんなで最後のイベントは散々な目にあった。


「通知表もらったぜー。なあなあヨルンはどんな事が書いてあったんだ?」

「お前みたいに、もう少し落ち着きをもって行動しましょうとは、かかれてないぞ」

「えっ、なんで見てないのに分かったんだ?」


 例のあの事件があったから、もう僕達の実力はある程度保障されているのが救いだけど。


 本当だったら、とんでもない事だぞ。


 後日、三年間の授業をまとめたそれが配られた時は、安心してしまった。


 もう命かける事なんてないよな?


 これで終わりだよな?


 幼なじみ達は卒業後は勇者になるから、僕はもう誰に巻き込まれる事もないはずだ。


 箔をつけるために命をかけるなんて馬鹿げてるよなほんと。





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