第70話 不審者の常識
話の中身は、確かに魅力的だ。
防衛線の行方は、どうせ結果が見えている。
遠からず僕達は町と運命を共にしてしまうだろう。
この道を通って町の外に出れば、確実に訪れる死の運命から逃れられる。
救援に来る者達がいたなら、悲劇の生き残りとして殊勝な態度をとっておけばいい。
嘘がばれたとしても、僕達はまだプロにもなっていない未熟な人間なのだから、重い罪にはならないだろう。
けれど、だからどうした。
そんな軽い気持ちでこっちは剣を磨いてきたわけじゃないんだよ。
確かに始まりは、放っておけない幼馴染のためにとった剣だった。
けれど、今は違う。
弱者なりに弱者が持つ誇りと矜持を胸に持ってるんだ。
それになりより、そんな事したら、あいつらの友人だって胸張って言えなくなるだろ。
だが、それは僕個人の意思。
「他に逃げたい奴がいるなら、この馬鹿貴族についていっても良いぞ」
僕は他のクラスメイトにそう言った。
しかし、ついていくものはいなかった。
類友かよ。
「ふん、後悔するなよ」
それを見た貴族は吐き捨てるようにセリフを残して、護衛の男に合図。
えっ、そこまで馬鹿なの?
護衛が、隠し持っていた剣をひらめかせてこちらに襲い掛かってくるのだが……。
不審者がすっと動いたら、いつのまにかばたっと倒れていた。
貴族は青くなって、逃げ去っていく。
今、一歩動いただけだろ。
不審者何をした。
と、そう思えば、不審者は顎で道を示して「調査しねぇのか」だとさ。
お前の常識を、僕達の常識みたいに扱うな!