第69話 小悪党な貴族
「その顔、学生どもか。お前達、何でこんな場所をうろついている!」
「ラングレイ様、今は脱出の方が先ですぞ。荷物をまとめるのに数日もかかってしまいましたからな。早く町からでなければ」
「しかし、こいつらを放っておいていいのか?」
こちらを睨みつけてくる者達。
領主ではなかったが、ライングレイとかいう奴はこの町の貴族だった。
そういえば町の人たちが、最近見かけないとか言ってたような気がするな。
姿を見ないって噂されていた理由は、脱出のための荷造りかよ。
で、自分達だけで、魔物に包囲されたこの町から、地下道を通って逃げ出しようとしてる、とか。
『ヨルン、貴族ってものはね。町の人や村の人たちを守ってあげなくちゃいけないの。とっても強くてとってもお金持ちなんだから、そういう責務があるんだって』
同じお金持ちなのに、僕が知っているお嬢様とはえらい人間性が違うな。
まあ、お嬢様の方が変わり者過ぎるけど。
「ふん、平民なんかを守って点数稼ぎ、ご苦労な事だ。正義感を振りかざして我々を捕まえにでもきたのか」
いや、眼中に無かったし。
僕達は自分達が逃げる道探してただけだし。
しっかし偉そうな言葉だな。
たぶんこいつとは未来永劫そりが合わないんだろうな。
目の前のそいつは、醜い顔で取引を持ちかけてきた。
さも良い事思いついたと言わんばかりの顔で。
うわぁ、もう聞く前に決断しとく。
お断わりします。
「そうだ。お前達もこの道から脱出させてやろう。どうせ滅びる町だ。見捨てても誰も気がつくまい。その後、奇跡の生還者として名乗り上げればいい」
僕は込み上げてくる嫌悪感にのまれないように、注意しながら口を開いた。
「ふざけるな。お前達はそれでも貴族か、人の上に立つ人間か」
すると、相手は「なぜだ!」という顔。
どんだけ自信満々だったんだよ。馬鹿以上の馬鹿かよ。
受けるわけないだろ、そんなもん。