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第4話 木の実



 それはトックの実だ。すりつぶして、油で揚げるとおいしい。

 子供のおやつにぴったりの一品。

 この辺りで採れる、珍しくもない実だった。


「……」


 僕は無言で見つめたそれをぺしっと叩き落とした。


「あっ、何すんだよ」


 馬鹿はあわてて、トックの実を拾っている。


 こいつ、お金持ってないのかよ。

 毎月、両親からお小遣いもらってるはずだろ。

 まだ月初めだぞ。何に使ったんだ。


「その扱いは、久しぶりの幼なじみにひどくね?」

「こんなもん、金の代わりになるわけないだろ。商人なめてるのか」


 僕は馬鹿の手に再びおさまったトックの実を奪い取って、どこか遠くへ放り投げた。


「あーっ!」とか言うんじゃない。取りに行こうとするな。


 僕は苛立つ感情をおさえながら、馬鹿に言って聞かせる。


「いいか? 買い物は小遣いをちゃんと貯められるようになってからにしろ。忙しんだから馬鹿の相手してる暇ないんだよこっちには」


 けれど、相手にもそれなりの事情があったらしい。

 気がかりそうな表情をみせる。


「でも、あの子が熱を出してるんだよ。薬が必要なんだ」

「あの子? よく分からないが、その子の親が今頃お金を出して買ってるだろ」

「いま、両親いない」

「はぁ?」


 詳しく話を聞くと、その子の家族は仕事で別の地域に出掛けているらしい。


 話題に出たとある子は、その最中に熱を出して、倒れてしまったのだという。


 気の毒だとは思うが。


 いくら知り合いでも、商品をタダで渡す事はできない。


 くれてやるわけにはいけないのだ。


 両親は、生活のために商売をしている。

 お金を稼ぐことの厳しさを知っているので、僕は二人の苦労をふいにするような事はできない。


「仕方ないな」


 だから代替案を述べた。

 薬がある場所を教える事にしたのだ。


 その際に、お店の商品の地図を広げてしまったが、それくらいは許してほしい。


 僕はある地点を指で示す。


「ここでなら、薬の元になる薬草がとれるぞ」

「遠い、無理」


 けど、その場所は、馬車を使って数日かかる。

 今すぐ行くのは無理だろう。


「症状が出てどれくらいになる? 医者はいないのか?」

「いない。俺の村が小さな村だって知ってるだろ」


 カルル村は、他の村と比べて規模が小さい。

 だから、具合が悪くなったら他の村や町のお医者さんの所に行くしかないのだ。


 領主であり、僕の幼馴染(お嬢様)のご両親であるあのお方なら、立場上そういうのにも詳しいけど、まさかただの村人が診てもらうわけにもいかないだろうし、診療に見合ったお金だって払えない。


 普通なら自力で治すしかない。

 この村の人間が専門家の手を借りる事は、難しい。


 馬鹿は、「はぁ」とため息をついて何かを決断したようだ。

 猛烈に嫌な予感がする。


「仕方ないな。近くの森いくか」


 そして、そう行ってとぼとぼと歩き出した。


 しばらくしてから、僕ははっとする。


 カルル村の近くにある森。その森は、迷いの森とかいう所だ。

 迷いの、という言葉が付くくらいだから人が迷子になる事で有名だし、狂暴な魔物がいて危ない。


 僕は慌てて、馬鹿の後を追いかけた。



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