第30話 チクった
自殺志願者(のように見えた)とお嬢様を放って部屋の扉をしめる。
カオスな状況を放っておいて、ご両親のもとへ向かう事にした。
お嬢様の言い分はあえて聞かない。得体のしれない人間を知り合いの屋敷に置いておくわけにはいかないのだ。
だから、チクる事にした。
そしたら、予想通り幼馴染(お嬢様)に「なんでばらしちゃうのよ」って怒られたけど、仕方がない。
これでやっと、あの不審者を屋敷から追い出せる、と思ったけど……。
「なんでいるんだよ!」
「だって、私の先生になったんだもの! 追い出しちゃだめよ! 絶対だめなんだからねっ!」
翌日遊びに行くと、驚きの光景があった。
なんか、まだいた。
しかも、何をどうやったのか知らないが、その不審者はお嬢様の勉強の先生になっていた。
勉強道具を用意して、お嬢様に王宮作法のいろはを教えていた。
「先生は私の先生になったの。だからヨルンはイジワルしないのっ!」
しかもちょっとお嬢様なついてるし。
ここまでお嬢様が反抗的なの見た事ないぞ。
いつもは僕が説教したら「ヨルンの言う通りね」って納得してくれるのに。
何もんだよ! こいつ!
得体が知れない、
怖い。
洗脳でもされてるんじゃないか!?
今日ほど猛烈に、地面の上で四つん這いになりたいと思った日があるだろうか。
いや、あったな割と。
幼馴染(お嬢様)が迷いの森に突撃したり、魔物ハンターと化したりした時とか。
幼馴染(馬鹿)が蛇にかまれたり、クマに追いかけられたり、川で流されたり。
僕は(心の中だけで)部屋の床で這いつくばりながら、この屋敷の防犯能力と、お嬢様とご両親の危機管理能力のなさに絶望した。