第29話 チクろうかな
一瞬うろたえたけど、不審者の安否なんでどうでもいい事に気が付いた。
どこかに行きたいならとめやしない、どこへなりともさっさといってしまえ。
あ、けどまさか三階から身を投げて死のうとか言う魂胆じゃないだろうな。
それは困る。
後始末が面倒だし。
地面でぐしゃってなったやつ、誰が片づけるんだよ。
僕はちっとも心が痛まないけど、片付けるこの屋敷の使用人さん達が(不快感)で心を痛めるだろ。
俺が仕方なく喋ろうろうしたら、不審者の服を引っ張って必死に制止していたお嬢様が口を開いた。
「帰っちゃだめよ」
心優しいお嬢様が自殺行為をとめていた。
何も知らずにみたら、良い景色なんだけどな。
「まだ外に出ちゃだめ。手当してないじゃない。それに着てる服もそんなにボロボロでどうするの」
すると変質者が、背後を振り帰りもせず返事をする。
固い声だ。人を拒絶するような声。
何か辛い事があった影響で、心が死んでるって感じがする。
「ガキからの施しはうけない」
普通ならそれで、引くかもしれないが、うちのお嬢様は一味違う。
いや、三味くらい違う。
だから、お嬢様はひかなかった。
「子供とか大人とかそういうの、いま関係ないわ。人として貴方を放っておくなんてできないって言ってるの!」
「……」
それを聞いて不審者は何を思ったのだろうか。
無言を貫いていた。
しかし引っ張り合いに抵抗する意思はなくしたようだ。
お嬢様に服を引っ張られて元の位置にされる。
おいおい、もうちょっと頑張ってくれよ。
その流れでここにいられると、後々ばれた時に僕が怒られるんだぞ。
もういっそ、最初に僕からチクっておこうかな。
あーあ、ここに馬鹿がいてくれたらな。
あの馬鹿でもさすがに止めてくれるはず……だよな?
ど、どうだろう。
あいつもお人よしな所があるからな。
ちょっと不安になってきた。




