◍ 世界の成り立ちと勢力図
少し歴史を振り返ろう。
世界の民は皆かつて、常磐でできた、一つの大きな山に暮らしていた。
この岩山には大きな木が生えていた。幹や枝、根で岩を繋ぎ、一つの山にしていた。
八雲の上には、大きな岩の杯に、塩水を満たした湖があった。
山腹から山裾のわずかな平地にひそむ人々は、曇天の下、常に天地の強大な支配力に怯えていた――。
そんな神代の崩壊から四千年近く経った今も、有力な神孫の血筋は絶えておらず、悪しきものの大半が、各人原の王民を隷従させている。
玻璃湾にて水難を起こす、水神同然の赤翠天羅刹。
丹原に地下帝国を広げようとしている好戦的な軍鬼神、塵洞修羅。
聖なる火を操り、悪龍を喰らうとされる、東扶桑の守護鳥鬼神、芦八迦楼羅。
隊商の護衛を生業にしている薬学に長けた蘇摩夜叉――、などなど。
むしろ魔よけになっている芦八迦楼羅や、蘇摩のような按主もいるわけだが、おおよそは人を襲う側の支配者と言って良い。
中でも赤翠天羅刹の分派で、今はまったく内情が知れない丹原の赤黒天と、比較的近い距離に縄張りがある塵洞修羅の牙城は難攻不落とされている。
同じ鬼魅からも恐れられ、神代崩壊後に組織された破軍星神府の鉄槌神たちも、制裁を下せないのだった。
世界三大鬼族――その座を他に譲ったことはない。
だからこそ、三頂点と恐れられる一つに、穏健な豊穣神の面を併せ持つ萼国夜叉が君臨し続けていることは救いと言われている。
ただ、萼国夜叉は何故、強大な軍事力を有するほどの鬼族でありながら、修羅や羅刹と違って人間寄りなのか、巌砥国の民はよく知らない。
花人と名乗るようになって以来、彼らが転生を繰り返すという萼の国は、大天屏峪なる界境の向こう――つまり、未知の世界だからだ。
◇ ◆ ◇
2022/08/14 投稿