◍ 拾った花鬼の子、雨後の竹の子
雲霧が漂う白濁の世界に、もうすぐ陽をのぞかせるだろう高山が見え隠れしている。
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年が明けて三日目。
今朝は鼻先まで冷たくなるほど、空気が冷え切っている。
両手を揉みながら祖父の家を目指していた時、いつもの沼地を通り過ぎようとしたところで、里の女神和である奉里は足を止めた。
辺りはまだ、薄墨を滲ませたような淡い色合いの中に眠っている。
地霧が溜まり、霞んでいる沼の奥の方が明るく見えた。どうやらいち早く、暁光が差し込んできたらしい。
朱く、眩しくなってくるそこに、鶴が佇んでいた。群れの姿はなく、番いがいる様子でもない。
たった一羽というのが妙な反面、孤高の存在はどこか神聖でもあり、見入ってしまう光景だった。
凍った半透明の水面には、すっかり枯れ込んだ蓮の葉柄が霜をまとい、うなだれている。
てっきり、それを啄んでいると思っていたのだが、鶴がこちらに首を起こすと――
「ちょ…っ、うそでしょ!?」
その足元に、頭を鳥の巣状にされた、泥まみれの子どもが突っ伏していると分かった。
奉里は心の臓が縮み上がる感覚がして、気が付くと走り出し、泥濘の中を必死に前進していた。
飛び立つ鶴の翼に煽られた “ある花” が、ピクリともしない子どもの傍らで揺れる。
太陽の色を孕んだ白蓮――狂い咲きしたその不思議な花びらから零れ落ちた花粉は、金粉のように魅惑的だった。
しかし、半ば転びながら、子どもを抱き起しに来た奉里には、白い裳に降りかかるその美しい輝きも、泥跳ねと同様、目に入らなかった。
子どもが呼びかけに応じることはなく、ただ、この蓮の花弁が一片、力尽きたように散り落ちただけだった――。
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*――おじいちゃん…ッ!
*――どうした奉里。うん? なんだその子は
子どもは辛うじて生きていた。奉里が介抱し、全身きれいにすると、女の子のようにかわいい男の子だと分かった。
後に〝サツキ〟と名付けられる。
奉里は麓の里堂守であり、山腹の山堂守の孫娘。日ごろから子供たちに字の読み書きを教えていたため、持ち前の世話焼きな性格でもって、サツキのことも、それはそれはかわいがった。
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「おーい。ほら、おいで~。お風呂行くよ~?」
「……。」
月一回の贅沢。里の山小屋浴場にも一緒に入りに行った。
何食わぬニコニコ顔の奉里に対し、首根っこをつかまれたサツキは、毎度のこと半眼であった。
大の風呂嫌い。もはや猫だと、地面に両手の爪痕を残して引きずられて行く姿を見かけるたび、周囲は微笑ましく思いながら呆れてもいた。
伸びきってウネウネしている髪を洗い、お湯をぶっかけ、少々手荒ではあったが、奉里は年の離れた弟のように面倒を看た。
だが、このサツキと名付けた五歳ほどの男児、なんと、数か月が経ったある日
「…………。え」
突然、奉里を見下ろすほどの立派な体格となり、里が祀る蒼湶水師像のような美男へと変貌したのである……。




