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払雲花伝《花咲かす鬼王、連理の枝を成すまで》  作者: 讀翁久乃
✥ 第一鐘 ――――――――――――――――――――――
3/53

◍ 拾った花鬼の子、雨後の竹の子

 

 雲霧が漂う白濁の世界に、高山が見え隠れしている。


 ある冬の早朝のことだ。

 鼻先まで冷たくなるほど、空気が冷え切っている。

 両手を揉みながら祖父の家を目指していた時、いつもの沼地を通り過ぎようとしたところで、里の女神和めかんなぎである奉里まつりは足を止めた。

 地霧が溜まり、畔の景色を霞ませている。暁光に透けて朱く、眩しくなってきたその向こうに、一羽の鶴が佇んでいた。

 群れの姿はなく、番いでもない。

 たった一羽というのが妙な反面、孤高の存在はどこか神聖でもあり、見入ってしまう光景だった。

 沼にはすっかり枯れ込んだ蓮の葉柄がうなだれていて、何かを啄んでいたその鶴が首を起こすと――


「ちょ…っ、嘘でしょ!?」


 そこに、頭を鳥の巣状にされた、泥まみれの子どもが突っ伏していた。

 傍らには、太陽の色を孕んだ白蓮が一輪――。

 飛び立つ鶴の翼に煽られ、その不思議な花弁から、金の蕊が零れ落ちる。

 しかし、半ば転びながら、子どもを抱き起しに来た奉里には、白い裳に降りかかるその美しい輝きも、泥跳ねと同様、目に入らなかった。

 子どもが呼びかけに応じることはなく、ただ、この蓮の花弁が一片、力尽きたように散り落ちただけだった。




 ―― * * * ――






 *――おじいちゃん…ッ!


 *――どうした奉里。うん? なんだその子は




 子どもは辛うじて生きていた。奉里が介抱し、全身きれいにすると、女の子のようにかわいい男の子だと分かった。

 後に〝サツキ〟と名付けられる。

 奉里は麓の里堂守さとどうもりであり、山腹の山堂守やまどうもりの孫娘。日ごろから子供たちに字の読み書きを教えていたため、持ち前の世話焼きな性格でもって、サツキのことも、それはそれはかわいがった――。



   *



「おーい。ほら、おいで~。お風呂行くよ~?」


「……。」


 月一回の贅沢。里の山小屋浴場にも一緒に入りに行った。

 何食わぬニコニコ顔の奉里に対し、首根っこをつかまれたサツキは、毎度のこと半眼であった。

 大の風呂嫌い。もはや猫だと、地面に両手の爪痕を残して引きずられて行く姿を見かけるたび、周囲は呆れた。


 伸びきった髪を洗い、お湯をぶっかけ、少々手荒ではあったが、奉里は年の離れた弟のように面倒を看た。

 だが、このサツキと名付けた五歳ほどの男児、なんと、数か月が経ったある日、



「……。え」


 突然、奉里を見下ろすほどの体格となり、里が祀る蒼湶水師そうぜんずいし像のような美男へと変貌したのである……。





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