表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/53

◍ 神代種 大伽藍鳥(アルゼバス)


 青莱鳥せいらいちょう空卵からたまごを、なぜ神々は好むのか。

 理由は簡単。不老不死の霊薬に匹敵するほどの効能はないが、真っ青な卵殻に〝長寿の素〟が凝縮しているらしい。

 つまり、盤臺峰ばんだいほう出身の天神にとっては、神代崩壊以来失われゆく一方となったその生命力を補える代物。入手するや、病がちな神に与えたりもしているとか。

 中堅薬尼・鄒欣スウキンねえさん講座によれば、かの有名な〝甘露〟には程遠いながらも、軽度の病気怪我なら即座に完治するくらいの効き目はあるそうな。

 千年大戦時、神々は新たな己の宿地以外にも、こうした霊薬の争奪戦を繰り広げた。

 青莱鳥の名の由来――あかざという植物の変種も、数多を魅了した一つである。よもぎのような香草で、新芽が鮮やかな赤紫色をしているのが本来の特徴だ。この青い見た目のものを食しているが故に、青莱鳥は神秘の卵を生す。そう信じ、追いかけまわした者はいくらでもいたが、誰一人帰ってきた試しがないため、いつしか神も人も悟った。


 青莱あおあかざは、時化霊トケビが渦巻く界境に群生している。かの鳥は、〝陵鳥神みささぎちょうしん〟に属すのではないか。

 いや、青莱鳥自体が犠牲者の変化なのではないか。冥土にて青莱を食べ、地上にその薬効をもたらそうと――、いや。ミイラ取りをミイラにしようと、現れるのではないだろうか。

 そして、甘露と同じ〝三毒〟をもって狂気と悲劇を生み出す。怒り、無知、欲望。これに当てられた者は、青莱鳥の思惑にも気づかず、黄泉路とて突き進んでしまうほど正気を失うのだと――。


 




 ◍【 鬼子母神な鳥 】


 ちなみに奉里を襲ったのは、この卵の産みの親ではなかった。現状、これに勝る献上品は思い当たらず、北側の崖に直行できそうな吊り橋を選び、渡り始めた時だった。

 谷底からの急な風に煽られ、左右上下に足元が揺れた。漁師網の中にいるようなものなので、踏ん張りも利かなかった。


 *――わわっ…!! な、なになにっ!? 


 ぐククク、と喉を鳴らす音が木霊しながら急速に近づいてきた。

 ミシミシいう綱につかまりつつ、急いで浮き島に引き返そうとした奉里の目の前で、霧が下から突き破られた。

 奉里は危うく「パクっ」とされかけたのだ。縦長の大口を開け、黒髪をなびかせる化け物が出現した。赤月のような色の眼がぎょろりと動いて、そこに自分の顔が映った。人生最大にあんぐりと顎を落とし、白目を剥き、今にも魂が抜け出そうなひどい顔だ。もちろん腰を抜かした。

 と同時に吊り橋を破壊され、絶叫する羽目になったため、そいつの正体を見定めている余裕はなかったが、再び雲霧の中に消えていった巨大生物の影は、くじらのように見えた。

 東扶桑ひがしふそうの漁師らも、時おり船を突き上げられ、痛手を負う。

 ヒレの部分を羽ばたかせていたことから、実際は、神代種級の大鳥であったと思われる――。




   *   *   *




 長い回想を終え、奉里はあらためて思った。


「はぁ……。ホント先が思いやられる」


 なんとか北紫薇巉ほくしびざんに渡れたものの、考えてみれば、こちらの世界は群を抜いて神代種の生き残りが多い。白猿の神に受け取ってもらえなければ、青莱鳥の卵は身に余る代物でしかなくなるだろう。

 奉里は自分の命を危険にさらすかもしれないそれを、今はどうしようもなく懐に収め直した。

 いつまでたっても蔦を登ってこないことを心配したのか、その時、顔の前にハタハタと音をさせるものが下りてきた。〝白人依しらとのい〟だ。

 人型の紙が蛇腹折りにされた蚕姫の巫呪符であるこれは、吊り橋が壊れた瞬間、綱を補強してきた役割を捨て、絶叫する奉里に巻き付くと、見事な人命救助をして見せた。

 その後、自らの胴体部分に浮き墨文字を現し、大鳥の正体を解説してくれた。

 〝鯨鳥げいちょう〟――東南ではそう呼ばれ、西北では大伽藍鳥だいがらんちょうと記し、神代語で〝アルゼバス〟



 *――母性と、自己犠牲の象徴的鳥神。

    ひなを養うため、時には自らの血肉を与える。

    抗老化アンチエイジングに余念なく。大変悪食。

    得意技…………、一気食い



 だろうよッ。



「はぁ~~……。大丈夫かなぁ、こんな調子で」


 独り言だったのだが、思わず不安を漏らすと、目の前にぶら下がった白人依しらとのいが超高速百八十度腹筋をして、陰鬱な雰囲気を蹴散らそうと風を送ってくれる。

 

「あ~。ありがと~。ごめんね? 弱気なこと言って。せっかく付いてきてくれたのに」


 白人依しらとのいは宙返りしながら自ら折り畳んだ状態に戻り、一体の分厚い人型となって岩場をよじ登り始めた。

 一生懸命、お手本を見せようとしてくれている。えっちら、おっちら。ちょこちょこちょこ、と平坦なところを走っては、奉里が一歩で踏み越えられる段差に飛びつき、転げ落ち、頭を横に振る。


 奉里は苦笑気味に笑った。

 玄静に連れられ、初めて蚕姫さんひめのもとを訪れた時、かまってくれたのがこの古紙の憑器だ。大人二人が奉里には分からない話をしている間、遊び相手になってくれた。絵本になりながら、読み書きを教えてくれた。

 皐月は大きくなってからもずっと世話の焼ける弟同然なので、奉里にとっては今も、兄と呼ぶにふさわしいのは白人依しらとのいである。そして自分は、根性しか誇れるものがない妹――。

 

「よし…、行くか!」


 気合を入れなおした奉里は、ぎゅっと蔦を握る両手に力を取り戻した。

 



伽藍鳥がらんちょう 】ペリカンの別名。伝説・象徴、ほぼ上記通り。

【 三毒 】欲・怒・愚の三つ。鳥・蛇・豚に例えられる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ