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遺書

 戦果

・第一次醜鬼討伐作戦に参加

・本部基地奪還作戦にて多大な功績

・撃墜魔物数96

・第四次蛇王討伐作戦にて殉職

 以上

 規定に則り遺産はご家族に委ねられます

 遺言と共にご受納ください


<<遺言>>

 家族へ

 別れの挨拶を直接伝えられないこと

 どうかお許しください


 私を優しく守つてくれた母上

 私を厳しく育ててくれた父上

 愛に感謝を忘れたことはありません

 優しいご両親は親不孝な私のために涙を流していることでしょう

 ふがいない私はただそのことを後悔している次第です

 死ぬために育てていただいたのではないことは重々承知しております

 期待に応えられなかつたこと申し訳なく思います

 先立つ不孝をどうか許して頂きたい


 魔物共との戦いはまさに佳境に入つています

 多くの仲間が日夜迷宮に挑み帰らぬ人となつています

 あふれ出た魔物の対処に多くの者が傷つき命を失つています

 血のつながりがない仲間達の戦果を聞いたときでさえ胸が裂けるほど苦しいのです

 子息を失つた親の苦しみは計り知れません

 その苦しみを押しつけてしまうことに罪悪感が無いとは言えません


 いずれこの争いはおわることでしょう

 それもおそらくは我々人類の敗北という形で

 残念ながら我々にもはや勝ちの目はありません

 努力やあるいは奇跡程度では覆らないほどの差が人類と魔族の間には存在しています

 私たちが死ぬ思いで戦つて仲間の死を悼んでいる最中

 敵は戦果の多さを仲間同士で競い合つているのです

 戦場では「一人が犠牲となることで数百数千数万の命が生きながらえる」と教わります

 だれも勝てるとは口にしません


 これより私は死地に向かいます

 全軍の命が失われることを前提とした作戦です

 守るものがある者は逃げてよいと言われました

 戦場に赴く者は遺書を書けとも言われました

 身を引く戦友もいましたが誰も彼らを責めません

 それでも多くの仲間が残つたことを私は誇りに思つています

 我々は

 馬鹿馬鹿しいと批難されるかもしれませんがこれしかないのです

 命を擲つことでしか命の価値を認めさせることができないのです

 共存のためには対等でなくてはならない

 戦が終わり敗北したときに手強い相手だつたと思わせるため

 人の人としての価値と威厳を守るため

 異界の地にて命を落として参ります


 最後にこれも勝手な話ではありますが

 私は身勝手なこの命が失われることよりも

 残された者共が苦しむことに耐えられません

 ご安心ください

 生前の私はこれでもかというほどに善行を積み重ねて参りました

 天の世界でも上手くやつていける自信がございます

 ですのでどうか魔物共のことを恨まないでください

 私たちが自由と権利のために戦つているように彼らにも守るものがあり

 やはり彼らもそのために命を賭けて戦つているのです

 それとどうか私のことは忘れて頂きたい

 すでに失われた親不孝者よりも

 遺された妹を大切にしてやつてください


 妹へ

 遊んでやれなくて済まなかつた

 何も言わずお前の前から姿を消したこともどうか許してほしい

 今にして後悔するのは幼いお前が伸ばした手をしつかりと握り返せなかつたこと

 壊れてしまいそうなほどに細く燃え上がるように熱かつたその手をしつかり握り返しておくべきだつた

 幼いお前は私のことを覚えていないのだろう

 それならばそれで良いとも思う

 だけどもしもお前に私の記憶に残つていたのなら

 私はお前のことを何よりも愛していたのだと伝えたい

 お前のことを愛している人間が

 両親の他に少なくとも一人いたことをどうか伝えておきたいと思う

 要らぬ世話かもしれないがどうしても伝えておきたかつた

 私は先に逝つてお前のことを見守ることにする

 手を出せないのが残念でならないがお前の活躍を楽しみにしている

 どうか勇気を持つて強く生きてほしい


 両親へ

 冒頭でも書きましたが

 勝手に家を出た子が勝手に死んで最期に手紙だけを遺すような

 そんな身勝手をどうか許して頂きたい

 聡明なご両親なら理解して頂けると信じています

 父上と母上に折り入つてお願いしたいのは妹のことについてでございます

 私などが心配するのは不相応かもしれません

 ですがどうか貴方たちが私に注いでくれた以上の愛をこれからは妹に注いでくれることを望みます

 私の最後の我が儘をどうか叶えて頂きたく


 それではお元気で

面白いと思ったタイミングで構わないので、評価とブクマをいただけると幸いです。

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