第四王子セインの受難
ようやく「ラブコメ?」キーワードにあたる話の更新です。
初のセイン視点。彼視点だと、特に何もない日常では「フィオナ可愛い」で埋め尽くされかねないので、前話のフィオナ同様、トラブルに巻き込まれてもらうことにしました。
……でも一度くらいなら、終始「フィオナ可愛い」で埋まる話を書いてみるのもいいかもしれない←
なお今回は、新キャラ登場&既存キャラの名前が一部明かされます。
「こ……これはっ……!?」
ふるふるふるふる
目の前の、信じがたくも好ましい──と思ってくれているのだろう、幸か不幸か──光景に、我が婚約者であるところのフィオナは、その可憐さを極めた顔を何かの感情で赤らめつつ、小刻みに体を震わせている。
そんな彼女もとてつもなく可愛らしいが、その様子をいつものように愛でられるほどの余裕は、残念ながら今の私にはない。
「セイン。ここはやはり、フィオナ嬢にはお前から許可を出して差し上げるべきじゃないかな?」
この場にいる唯一の第三者、五歳年上の次兄サルヴァは、すぐ上の兄シェナートとは対照的な穏やかな微笑を浮かべ、実にあっさりとそんな提案をしてくれる。
実際に彼は、普段は穏やかかつ誠実な気性ではあるのだが、今回の事態に関しては、明らかに面白がっていることが透けて見える。
『やっぱり兄弟なんですね』と本音を言いたくなるが、それで現状が好転するわけでもないので控えておこう。立場上のことはあるにせよ、揃いも揃って洞察力に長ける兄たちなので、殊更に隠しているでもない私の本音くらいは、とうに次兄には悟られているだろうけれど。
……はあ、と、やるせない思いを吐息に乗せつつ、私は下がってしまっていた顔を何とか上げ、最愛の婚約者にようやく声をかけた。
「……触りたいのなら、好きにしても構わないよ、フィオナ」
「えっ。……で、ですが、その……あの。本当によろしいのですか?」
「勿論。フィオナは特別だからね」
「……あ、ありがとうございますっ……!」
感極まったように礼を言いながらも、恐る恐るという風情で距離を詰めてきたフィオナは、目の前で膝をつき、私の頭──正確には生えた耳に、確かめるような慎重さで触れてくる。
「……セイン様。痛くはありませんか?」
「強く引っ張られたりしなければ大丈夫だよ。……我ながら嫌になるくらい、ふかふかで毛並みがいいのが何とも複雑だけどね」
その言葉と感情を示すように、ぼふっ、と尻尾が傍らのソファを叩くと、フィオナの瞳がさらにきらきらと輝き──若草色のそこに映る私の姿は紛れもなく、全身を金色の毛に覆われた狼だった。
「セインは並よりだいぶ背が高いし、着痩せするだけで体も鍛えているから、獣化した体もそれに見合ったサイズになっているね。何なら軽く、その尻尾でソファを掃除してくれても構わないけれど?」
「絶対にしません。と言うか、いくら一時的な変化とは言え、仮にも弟の一部をモップ扱いですか?」
姿形は人間ではないのに、以前と同じ声で人語を話せるのは、薬の効果の一つだろうか。
「嫌だなあ、軽い冗談に決まっているじゃないか。シェナートじゃあるまいし」
「シェナート兄上の微妙な質の悪さは否定しませんが、サルヴァ兄上はもう少しジョークのセンスを磨かれるべきかと思います。ついでに、この研究室は早急に片付けや整理をする必要があるかと」
「まあそうだね。特に魔法薬については、こうして実害が出てしまったわけだから」
よいしょ、と何とも若さのない掛け声とともに席を立った次兄は、当然なのかそれとも意外と言うべきか、無造作に並べられた無数の薬品を手際よく棚や保管庫にしまい込んでいく。
ここ王立魔法研究所の所長にして、国内有数の魔術師と名高いこの兄ほどではないが、王子としてそれなりの知識は備えている。なので、こんな体でさえなければ、作業を手伝うこともできるのだが──
「……ええと、フィオナ? 抱きつかれるのも抱き締めてくれるのも嬉しいけど、今は……」
「嫌です、もう少しだけ……ああ、ふかふかのもふもふ……至高の手触り……」
……どちらにせよ、フィオナがちょっぴり壊れているので無理だった。
実は彼女は生粋の犬好きで──今戯れているのは狼だというのはさておき──、婚約前、王宮に顔を出した時には必ず、王家で飼っている室内犬の部屋や、厩舎近くの犬小屋を訪れたりしていた。後者については普通の令嬢なら、主に臭いを理由に近づきたがらない場所だが、フィオナは昔から全く気にしない。
ちなみに、より好みなのは大型犬で、何とか自宅でも飼えないかと伯爵夫妻にねだったらしいが……不幸なことに、彼女の長兄である伯爵家嫡男が犬アレルギーで、彼と両親には実にすまなそうに拒まれたのだそうだ。
末っ子長女で家族全員に存分に愛されてはいても、仕方のないことで我が儘を言うフィオナではない。でもすぐに割り切れるかは別問題で、不満と悲しみに力いっぱい拗ねるフィオナの愚痴を、黙ってずっと聞いていたこともある。
……そう言えば婚約直後に、「セイン様。私、結婚後は大きな犬を飼いたいですわ。たくさんは大変でしょうから、多くても三匹くらいで……構わないでしょうか?」と、上目遣いでねだられた覚えがある。そうするとそろそろ、どの犬種がいいかというのも話し合う時期かもしれない。いや、どうせなら、領地となる辺境特産の犬に絞るべきか。
現実逃避気味にそんなことを考える。……そうでもしないと、体のあちこちに遠慮なく触れてくる優しい手だとか、エスコートや膝抱っこをした時にいつも感じる甘くて美味しそうな香りだとか、無自覚に押し付けられている柔らかな二つの感触だとかを意識してしまって、この上なく大変なことになりかねないから。
──フィオナがひとまず落ち着いたのは、片付けを終えた兄上が紅茶を煎れ、それぞれにカップを配り終えた頃のことだった。
私の分は、狼形態でも持ちやすくするためか、両手持ちの大きなマグカップだったが……どこかから調達した物なのか、最初から研究室にあったのかは不明だ。何にせよ、サルヴァ兄上の気遣いには違いないので、ありがたく使わせてもらう。これがシェナート兄上からであれば、半分以上が後のからかいネタになるので躊躇するところだが。
両前脚をカップの持ち手に通して持ち上げ、こくこくお茶を飲む私の姿に、またもフィオナが悶えてしまったので、再び正気に戻るのに更に時間を要した。
その後、この研究所の主である第二王子を完全に無視していたことと、何よりもふもふに夢中になっていたことへの気恥ずかしさから、ソファに腰を下ろしたフィオナは、耳まで赤くなりつつ兄上に頭を下げる。
「……大変なご無礼をいたしまして申し訳ございません、第二王子殿下。今更ですけれど、セイン様に何があったのですか?」
完全に恐縮しているフィオナを励ますため、隣に陣取った私がのしっと彼女の膝に頭をのせると、一瞬だけためらう気配がした後、白い手がそっと動いて、てっぺんから後頭部にかけてを実に心地よく撫でてくれる。
柔らかい太腿と相まって至福の感覚ではあるが、それに身をまかせてしまっては色々と駄目になる気がするので、二人の会話に全神経を集中させることにした。
「使者のお方からは、『セイン殿下に緊急事態が起こった』としか伺えなかったので、こうして馳せ参じた次第なのですが……確かにセイン様は、拝見するからに普通とは申し上げにくい状態のようですけれど」
「確かにそうだね。きっかけとしてはまあ、いつものことと言うか、どこの馬の骨かは知らないけれど、この研究室に侵入者が来て」
のほほんと口にした兄上だが、そんなものが日常茶飯事な研究室も、一般的には如何なものかという気はする。王宮の敷地内という場所柄と、それに反するように適度にザルな警備体制(外部のみ。建物内は、主に兄たちの趣味と実益を兼ねた面倒な罠が満載だったりする)を考えれば、間違っても『一般的』の括りに入れていい施設ではないのは確かだけれども。
「今はシェナート預かりになっているその侵入者が、不運にもセインとばったりここで出くわして、軽い立ち回りになったんだ。そして、相手が倒れたその時に、たまたま机の上にあった改良版の変身薬がひっくり返ってしまって……」
「……セイン様の体にかかってしまった、と」
「そういうことになる。まあ、飲み薬が皮膚にかかってしまっただけだから、本来の用途とは違う分、このまま元の姿に戻せないような最悪の事態にはならないと思うよ。フィオナ嬢としては残念なところもあるかもしれないけれどね?」
「う。そ、そんなことはありません!」
嘘だな。
社交の場ではそうでもないが、プライベートでのフィオナの嘘はとても分かりやすい。要はスイッチが入っているかどうかの問題だろう。
しかし今更ながら、フィオナはよほどこの姿を気に入ってくれたらしい。
………………流石に、「元の姿に戻らない方がいい」とまでは考えていないと思うが。……思いたいのだが……
「そこはしっかり信じてあげるべきじゃないか、セイン?」
「心を読まないでください、兄上」
「?」
意味が分からないらしいフィオナは、可愛らしく小首を傾げた。
「それはともかく、兄上は何故あえてフィオナを呼んだのです? そもそも単なる変身薬なら、長くとも半日ほどで効果が切れるでしょう。その程度なら社交に影響も出ないでしょうし、彼女に知らせる必要は特になかったのでは?」
「そうだね、『単なる』変身薬ならね」
不吉な物言いをされた。
嫌な汗が背を流れ、フィオナの膝から起き上がって、兄に正面から向き直る。
「……つまり、この薬は一般的な代物ではないと。確かに先ほどは改良版と仰っていましたが……」
「その通り。二人とも知っているだろうが、元来この手の薬は毒、と言うよりは呪いとして使われていてね。効果時間は永続で、かつ知能も動物並みになってしまうものだったんだ。それを色々と改良した結果、知能は変わらないまま姿だけを変えられる、主に隠密行動や情報収集に便利な使用ができるようになった。──ここまではいいかい?」
「はい。……ですが、効果時間については三十分から半日と、薬ごとにまちまちだと伺っておりますけれど」
「私もシェナート兄上から、『基本的には便利ではあるんだが、効果時間と、何より衣服が脱げ落ちる問題がなあ』と、愚痴を聞かされたことがありましたが……ん? もしかしてサルヴァ兄上は、暗部の方から更なる改良の依頼をされたというわけですか?」
サルヴァ兄上──第二王子が魔法研究所長なら、シェナート第三王子は国内暗部の統括責任者である。様々な王国内の部署で、軍部と並び、魔法的なバックアップで最も強化されるのが暗部であり、魔法研究所とは自然と繋がりが深くなるものだが、それぞれのトップに王子が就いたことで、当代は更にその連携が強化されている。
今回の変身薬もその一環だという想像は正しかったようで、次兄はまたもあっさりとうなずいてくれた。
「ひとまず衣服に関しては、身につけた一般装備にも薬が作用するようにして、解除後は自動的に元の服装に戻る改良型は作れた。マジックアイテムにも影響を及ぼせるかどうかが今後の課題だね。
そこまでは割と順調だったんだけれど、残る効果時間の調整がなかなかに手間でね。シェナートの注文は『最低でも半日の持続で、かつ時間内なら任意で解除と再変身が可能』という面倒な代物だったものだから、まずはできたばかりの改良型──衣服ごと変身するやつだよ──を徹底的に濃縮してみて、そこからアレンジしようとしていたところだったんだ」
「……あの、殿下。セイン様がかぶってしまったのは、もしかして……」
問うフィオナの顔は蒼白だった。
隣の私もきっと、同じ顔色をしている。見た目は毛皮で分からないだろうが。
「流石に鋭いね、フィオナ嬢。うん、その通り。可愛い末弟がその姿になった原因は、改良型変身薬の徹底濃縮版なんだよ。なので放っておいた場合、効果時間がどのくらいになるのか、見当もつかないのが本当のところだ」
もしも飲んでいたなら半永久的だったかもしれないね、と軽く言ってのけてくれた次兄へ、危うく全身で食って掛かりそうになるのを何とか自制する。
「セイン。狼の顔でその形相は、流石に怖いからやめてくれないか? 今はあくまでも、放っておいた場合の説明をしたまでだろう。怒る気持ちは分かるがそれよりも、今は体に変調はないのかを注意してほしい。僕の予想では、そろそろ効いてくる頃なんだけれど」
「はい?……っ!」
不意に、不思議な違和感が体に生じた。
痛くはない。苦しくもない。
ただ、腹の辺りに生じた、不快ではないぎりぎりの温度の熱源から、じわじわと体内がその熱に浸食されていく。
指先や足先、体の末端部にまでそれが達した瞬間──一瞬で息がつまるほどの激烈極まる圧力が、体内を縦横無尽に駆け巡った。
「セイン様……!? セイン様っ!!」
「大丈夫。あと少し、十秒ほどで収まるから我慢してくれ、セイン。フィオナ嬢は、しっかり手を握っていてあげて」
「は、はいっ!」
二人の目からは自分がどう見えているかなど、気にする余裕はどこにもなく。
──しばらくして。
ようやく渦巻く圧力が消え、普通に体を動かせそうな気分になった。
いつの間にか閉じていた目を開ければ、真っ先に目に入ったのは、フィオナの手にしっかり握られた自分の手。
そう、人間の手だ。前脚ではなく。
「……セイン様……!」
「お疲れ様、セイン。紅茶に入れた中和剤が効いてくれたみたいだね。不完全ではあるけれど」
「……不完全、ですか? 特にそんな様子は──」
起き上がって座り直せば、手足は完全に元通りで、肌を覆っていた毛皮は消え去り、服もしっかり着ている。
少なくとも、見える範囲では特に異常は──
ぼふっ。
「ん?」
ぼふ、ぽふん。
背後から聞こえた、軽いのに不吉な音に、嫌な予感がした。
気づけば、フィオナが見覚えのありすぎるきらきらした瞳で、私の後ろと頭を交互に見ている。
──まさか……
「……兄上。申し訳ありませんが、姿見はありますか?」
「ああ。今持ってくるよ」
──予想はしていたものの、キャスター付きの姿見に映る自分の姿を見て、私はただただ絶句するしかなかった。
本来の姿に戻っただけでなく、獣耳と尻尾という、余分でしかないオプションがそこにあったのだから。
「……セイン様、とても可愛いです……!!」
生憎と、最愛の婚約者にとっては、余分でも何でもないどころか、むしろ喜ばしいようなのがとにかく複雑だった。
「フィオナ。可愛いと言うなら君の方がよっぽど上だからね……って、今はそういうことじゃないな……」
「気持ちは分かるけれど少し落ち着こうか、セイン」
ぽん、と兄上に肩を叩かれる程度には、私の頭は混乱のあまりに取り散らかっていたらしい。
その後の兄上いわく、「一般的な中和剤が効くと判明したし、あと一回飲めば今度こそ元通りになると思うよ。ただ、劇薬を中和する薬もまた劇薬だから、同じ日に何度も服用するのは勧められない。準備はしておくから、また明日のこの時間においで」とのことなので、今日のところはフード付きマントを借りて、自室まで戻ることにした。王宮内で怪しまれそうな姿だが、こればかりはやむを得ない。食事も、明日の昼食までは部屋に運んでもらうことにしよう。
帰り際、今更ながらに兄上からフィオナに確認が入った。
「ところで、フィオナ嬢は今夜から明日の午後にかけて、エスコートが必要な予定はあるのかな?」
「いいえ。明日の夜でしたら、伯母様の誕生パーティーがありますけれど」
「それは残念。もしそんな予定があれば、喜んで僕がセインの代理を務めたのに」
「サルヴァ兄上? コレット嬢に告げ口をしますよ」
年の離れた嫉妬深くも可愛らしい婚約者の名を出せば、次兄は苦笑して肩をすくめる。
「だから冗談だよ。本当にセインは、フィオナ嬢のことでは心が狭いね」
「兄上には負けますよ。つい先日の夜会で、コレット嬢に下心満載で声をかけてきた某侯爵家三男を、文字通りにその場で凍りつかせたのはどこのどなたでしたか?」
「さあ、誰だろうね? まあその侯爵家三男は、女性関係では叩くまでもなく埃まみれで、実家からは縁を切られる寸前だったようだし。後ろ暗い組織とも裏でがっつり繋がっていたそうだから、兄上とシェナートが嬉々として背後関係を探っていたっけ」
「……どうしてこうも、王子殿下は一筋縄ではいかない方々ばかりなのかしら……?」
兄弟のやりとりを聞いていたフィオナが、すっかり遠い目になってしまった。つぶやきの内容は少々心外だが。
「フィオナはそうは言うけれど、君なら私を扱うのはとても簡単だと思うよ」
「異議ありですわ。そもそもセイン様は、私に素直に『扱われる』ままではいてくださいませんでしょう?」
「うん、それは否定できないな。だってそんな簡単すぎる男を、フィオナが好きになるなんて有り得ないだろうからね」
「っ……! そういうところが、一筋縄ではいかないと申し上げているんです! お二人とも、御前失礼いたしますわ!」
「あ、フィオナ!」
何故か怒らせてしまったらしい。
追いかけて謝ってから、しばらく狼耳と尻尾に触ってもいいと提案してみようかと思ったが、更に機嫌を損ねそうな気がしてやめた。
遠目に耳が赤く見えたものの、怒りだけのせいではなさそうだから、明日の晩に迎えに行く時に、何かプレゼントを持っていくことにしよう。領地で飼う犬のリストをまず考えたが、それは何となく火に油という気がするので、ドレスに合うアクセサリーが無難だろうか。
「セインの場合も『野生の勘』と言っていいのかな? しかしそこまで鋭いのに、何故我が末弟は、最愛の婚約者の気持ちを無視してわざわざ、三年間も『運命の相手』探しなんかをしていたんだろうねえ」
「…………兄上。それは言わない約束でしょう」
「そうだったっけ? ああ、せっかくだからお詫びに、面白いことを教えてあげようか。実は変身薬というものはね」
本当に心から面白そうに、兄上はこう言葉を続けた。
「──飲む段階で特に希望がないのなら、飲んだ者の気性や本性に一番近い動物に変化するものなんだよ。何なら、フィオナ嬢にも教えてあげるといいんじゃないかな? もし良ければ、僕の口からでも──」
「謹んで遠慮いたします! むしろそのことは、生涯の秘密になさってください!」
「生憎だが無理だ。父上と兄上に話したらそれはもう面白がって、試しにお二人が飲んだ結果、それぞれ立派な虎とライオンになっていたから」
「……こ、国王と王太子が、軽々しく何をっ……! しかも、父上じゃなくサイラス兄上の方がライオンって……!」
「いや、公務に影響はなかったから大丈夫。それと、セインの後半の反応も、普通からは盛大にズレているのを自覚した方がいい」
どこまでも冷静な突っ込みは、頭を抱える私には右から左で。
何とか立ち直った後、私はおざなりな挨拶をして、フードが脱げないよう気を遣いつつ、足早に自室への帰途に就いた。
──もしもフィオナが薬を飲んだら、何に変身するのだろうか。
頭をよぎるそんな疑問を、頑なに無視しようとしながら。
受難のメインはここで終わりです。セインに「フィオナが足りない」と文句を言われたので、その後で二人の(いちゃいちゃする)様子を少し。
初登場の第二王子サルヴァは、のほほん系切れ者魔術師です。でも怒らせると非常に厄介なタイプ。まあ、この国の王子は全員、色んな意味で本気で怒らせたらダメなタイプですが。
長男サイラス(王太子・27)権力を秘密裏かつ存分に行使して潰す(あらゆる意味で)
次男サルヴァ(25)実験台をご希望かな?
三男シェナート(21)噂で社会的に破滅するか、暗殺のどっちかを選ぶといいぞー
四男セイン(20)基本は真っ当に正面からの決闘。手が滑って首が飛ぶかもしれない
……次男と三男が色々とヤバいな!一番マシなのがセインなのはまあ、うん。王太子についてはノーコメントで。
なお、こんなでも全員同母兄弟です。先代の頃に色々とあったせいで、今の後宮は空。妃は王妃と王太子妃だけ。
ちなみにサイラスのみ既婚かつ子持ち。サルヴァは婚約者が十歳下なので、結婚は最短でも一年後になります。シェナートはまだ婚約者すらいないため、残る三人で一番結婚が近いのがセイン。順番がおかしいですが、彼は生まれた時点で辺境伯になることがほぼ決まっていたので。短編にあったセインの「リーデック」姓は、実は辺境の地名という設定です。