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初めまして、ひぃたです。


ゆっくり更新していきます。

 




 ―――トン。





 背中に感じた衝撃は、限りある魔力を振り絞った防御魔法で受け止めようとしている【黒き地を這うドラゴン】の咆哮に比べたら小さなものだった。

  けれど、ドラゴンの咆哮が途切れるそのタイミング、微かにバランスを崩した魔導師の背中を押したそれによって踏み出した足場はそれまでの戦闘で地盤が耐え切れずガラリと崩れた。


「えっ…」

「ナギ!!!」


 体を捻り、視界に飛び込んできたのは、奈落へと落ちようとするナギを助けようと伸ばした3人の腕と、1人明らかに他とは違う表情を浮かべた婚約者である騎士の背中に触れたであろう手だった。

 間に合うはずもない、1番に駆け寄ったシーフの手が空を切り、金切り声でナギの名を叫ぶ。


「行って!!世界に、光を!!」




 なぜ、どうして。



 そんな言葉が頭をぐるぐると駆け巡る。


 が、長く続いた旅もこのドラゴンさえ撃ち滅ぼせば終えるのだ、ナギは迷わずその言葉を最期の言葉として吐き出した。

 普段ならば、何とか足場を魔法で作り上げることも出来たかもしれないが、ドラゴンとの一騎打ちにも近い先程の防御魔法で精も根も尽き果てたナギにはもう微塵も魔力は残っていなかった。



(そんなに、あの子が良かったのかー……)



 どこまで落ちるというのか、どれほどの時間が経ったのか……。


 今、まさにこれは走馬灯なのだろう、生まれてからの17年がブワッと脳内で再生されている。

 8歳で家が取り決めた婚約者のイングヴェイと出会い、あれが初恋だったな、と。

 ドラゴンが暴れだした16歳、彼は旅の仲間の女神の加護を受けた【聖女】ソフィアに恋をしていたのを、ナギは気づいてしまった日を思い出した。

 あの日からイングヴェイの瞳に自分は以前にも増して映ることはなくなり、1人で泣くことが増えた。



(次は……恋なんてしたくないな……だって、殺されちゃうんだもの)


 たすかりっこないのは分かる、遠巻きに金属の音かかすかに聞こえた気がする。

 地面にたたきつけられる前にナギの意識は消失し、魂は落魄して輪廻の輪へと飲み込まれていった。



 ーーーー




 フッ、と。

 朝自然と目が覚めるようにナギは目蓋を開くと、そっと起き上がり全身を確認する。

 痛みはない、怪我もない、出血もない。

 着たことも無いような真っ白なワンピースに裸足、どうやら死んだのだと気づくには十分すぎる情報量の極めつけは奈落の底とは思えないほどに静かで目が痛いほどの真っ白な空間であることだ。

 辺りを見渡しても誰もおらず、いつもならば少しパニックになってもおかしくない状況でも不安感は全くなかった。



なぜなら、ナギは此処を知っている、からだ。



『ナギ、来るのがちょっと早いと思うの』


 天から降り注ぐその声は凛としていて、それでいて少し幼く感じられる質を拗ねたような喋り方がより増長している。

 ナギにはこの声に心当たりがある。

 この世界には【アーストリア】という名前があり、神の加護のもとに生活を営んでいる。

 その中でも極小数の人類に対して強い神の加護が与えられていて、ナギはこの声の持ち主である魔術の神であるテウトの加護を受けしものである。


「テウト様、お久しぶりです」

『ひさしぶりー……じゃなーい!はやい、早いんだよ……!!』


 シュワンッと音を立てて姿を表したテウトは、声や話し方とは異なりスラリとした長身の男性である。褐色肌に青黒い艶やかな髪を伸ばした美男子は、その容姿を裏切る幼い言動で地団駄を踏む。


「早い、と言われましても……今回のは不可抗力です……」

『むぅ……』


 神という立場上、見ても見なくても良いが、テウトはナギをことの他気に入っており、なるべくイベント事の折にはそれをまるで視聴するかのように観察していたのだ。

 が、幸か不幸か、テウトの目にもイングヴェイの手が押したことは明白で、覆しようのない事実で……

 婚約者という立ち位置のものに殺された悲劇はとても悲しいものだった。


「転生は……出会う人は同じとは限らないのでしたよね?」

『転生者はいつ生まれ落ちるかは選ぶことは出来ない……確約をやれない……加護を外すことも出来ない……ごめ……』

「分かりました。きっと会ってしまえば分かりますし……」


 もう彼に恋をしたいとは思わない。

 恋慕で殺されては敵わない。

 とにかく出くわしたら、逃げて、逃げて……逃げよう、ナギは心に強く決めた。


「あ、れ……?テウト様、いつ産まれるかは選べなくても、もしかして出自は選べたり……」

『選べるぞ?』

「なんと。もっと早くに教えていただきたかったですね……」

『なんだ、貴族は嫌か』

「嫌です、だって婚姻関係に締め付けが強すぎて……貴族じゃない平凡な人間に生まれたいのですよ」


 今回の婚約もいえば貴族であったが故に締結したもので、階級で言えばナギの家の方が下に位置した為に断ることも出来なかったのだ。


『平凡な……と言っても加護付きはどう足掻いても突出するぞー?』

「んんー……平凡なは無理でしょうか……」

『むむ…………はっ!いい方法を思いついた!』


 それは一体なんですか?そう切り替えそうとした時、ナギの体は光に包まれて、拍動に合わせるかのように白い世界が遠のいていく。

 テウトがヒラヒラと手を振っている、次は婆さんになってから転生しにこい、と。


『心配するな、魔力が有り余ったとしてもおかしくない立場のそこにお前は産まれる』


 いつもの子供じみた話し方ではないテウトの声にナギはなるようになれ、と意識を強い光の流れに任せる。




 つぎこそは、おばあさんになるのだ、と意味のわからない決意とともに一時、ナギの意識は閉じられた。



数ある作品の中から、ご覧くださりありがとうございます!

少しでもいいな、と思っていただけましたら嬉しいです!

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