6.溢れ出る熊
ありがとうございます。
「へぇ蒼君はもう山まで行ってるのね」
私たちは今後の計画を立てるためにも戦力を確認する必要があるということからもう1度細かい自己紹介をすることになった。
勿論話したくないことは話さなくてもいいという条件付きだ。
私も調子に乗って山に入ったこと。カイザーに遭遇して手も足も出なかったことなどを話した。
驚いたのは白黒だ。二人は本当の双子だそうだ。すごい恐ろしい確率だね。白は可愛いものが好きでテイマーになったらしい。。クロは姉に召喚士になってほしいと頼まれ即決したそうだ。白がいろいろな種類の可愛いモンスターを見たいからだという。
それ以外にもリアルが忙しくてまだあまりプレイができていないこと。とりあえずイベントまでレベル上げだけしてたらしい。
そんな2人にリリース日から毎日やってる私がレベルで負けた。
隠れたダメージを負う。
続いて桃花さん。桃花さんは知り合いがこのゲームをやると聞いて始めたそうだ。鍛冶師になったのは鍛冶ならよく知っているうえその知り合いに刀を打ってあげたいらしい。
前にやってたゲームで鍛冶師をやってたりしたのかな?
羨ましい。私が打ってほしいよ。
私は名月があるからいいけどさ。
パーティーメンバーの紹介が終わったところで会話に戻ろう。
「うん。鹿や猪、熊は大したことなかったんだけどカイザーには手も足も出なかったね」
「あら、山に出てくるモンスターはどれも強いと聞いてたけど...」
「蒼さん強いんだ」
「頼りにしてる」
確かに山のモンスターは総じて草原のモンスターよりは強かったな。
黒にも頼りにされたところで本格的に今後の話を始める。
「私は戦闘に関してはできないこともないのだけど、一応鍛冶師だからそっちメインで行きたいわ。素材さえ集めてくれれば簡単な装備なら作れると思う」
桃さんは鍛冶師なだけに戦闘は苦手そうだな。だけど装備を作ってもらえるのはありがたい。
なんせ私は初心者装備。
ありがたいことこの上ないね!
「私は空を飛べるモンスターがいるのでモンスターの位置を探知することができます」
「私は戦闘が得意なモンスターが孵化したから戦闘の手助けができる」
そうかスタートボーナスのモンスターは早ければ昨日が孵化のタイミングなのか。この2人はかなり強力なモンスターを手に入れたみたい。
白のモンスターは普段は偵察を行い、戦闘では自由に動き回れる遊撃だそうだ。
クロのモンスターは完全な戦闘タイプらしい。草原のレベル上げもそのモンスターの活躍あって非常に楽だったそうだ。
私もどんなモンスターが生まれるか楽しみだ。
確か時間的には明日のはずだけどイベント中に孵化するのかな?
そんなことを考えていたら桃花さんが立ち上がる。
「そうと決まれば早速拠点探しに行きましょう」
「どうする?」
私は拠点探しの方法を考えたがいい方法が思いつかない
「私のモンスターに任せてください。お願いラッキー」
白のつけていたブレスレッドが輝きモンスターが現れた。白くて小さい可愛い鳥だ
「ミニチュアバードのラッキーです」
「可愛いわね」
「へぇーモンスターがブレスレッドになれるんだ」
「そうみたいです」
「黒ちゃんも一緒なの?」
「一緒」
どうやらスタートボーナスのモンスターは使役獣でも召喚獣でもないくくりなんだそうだ。
それに普通のモンスターは使役してもブレスレットにはならないらしい。
そりゃそうか。
でもブレスレットになれるならどこにでも連れていけて便利だね。
ただ1つ困ったことができたがまあ何とかなるだろう。
何はともあれ拠点探しだ。ラッキーが空から探してくれるらしいので見つかるまでひとまず休憩だね。
桃花さんがインベントリから人数分の紅茶を出してくれる。
「ありがとうございます」
桃花さんからもらった紅茶を飲みながら雑談をする。
「へぇーそんなかんじなんだ」
私は白黒からテイマーとサモナーについて聞いていた。
聞いた感じかなり夢があって楽しそうだと思った。
まずテイマーはモンスターとの戦闘中にテイムを使う。モンスターの強さごとに確率が違い、成功すると使役獣になるらしい。レベルを上げて一定のレベルになると進化しさらに強くなるという。白もすでに1体進化しているようだ。
それからサモナーだ。
サモナーはモンスターを討伐した際に稀にドロップする契約石を入手することでそのモンスターを召喚できるようになるらしい。召喚獣にもレベルがありレベルが上がることで強くなるという。
使役獣と違うのは進化しないこと。その代わりに配合というスキルが存在する。配合はサモナーのスキルレベルが15になると覚えられるスキルで、召喚獣2体を配合させてさらに強力なモンスターを創るスキルらしい。
黒はまだレベルが足りないので行ったことはないそうだ。
拠点についたら2人のモンスターを見せてもらう約束をした。
そんなこんなで話をしていると白が何かに反応する。
「ラッキーが洞窟を発見したそうです」
どうやら拠点にできそうな洞窟を見つけたらしい。
「早速行ってみましょう」
桃花さんの指示で洞窟に行くことになった。
しばらくするとラッキーが戻ってきて洞窟へ案内してくれる。
どうやら案外近いようだ。
私たちは周りに気を付けながらもラッキーについていく。
道中幸いモンスターに遭遇することはなかった。と思いたかった...。
洞窟まであと少しというところで突然桃花さんが足を止める。
白がそれに気づき視線の方を向き驚きの声を上げる。
「みんなあれ!!」
突然大きな声を出したので指さす方を見ると熊がこちらを見ていた。
体長4~5メートルくらいでミニベアーに比べてもかなり強そうな見た目だ。
熊を見て桃花さんがメニューで何か見ている。
「あれは確かポイント3位のデスベアーね」
今回のイベントモンスターとのことで情報が載っていたらしい。
ポイント3位ってことはかなり強そうだな。
急がないと!!
「洞窟まで走れ!」
私が叫ぶとみんなが走り出す。
熊も私たちに気付いたようで追って来ているようだ。
「桃花さん私たちであいつに勝てますか?」
「かなり厳しいわね。確実に犠牲が出るわ」
正確な分析だろう。
「戦いますか?」
「無理ね。今戦ってもし死に戻るとあの拠点に戻されるわ」
何かよっぽど嫌なことがあったんだろうな。
さすがにみんなをそんな場所に戻すのは気が引ける。
私1人なら戻っても特に問題ないな。
最初の方の記憶がない私は死に戻っても無問題だ!
覚悟を決め私は1人足を止める。
「蒼君!?」
桃花さんも足を止めて振り返る。
「止まらないで!熊は私が必ず止めます。桃花さんは白黒と早く洞窟に...」
白は心配そうに私たちを見ている。黒はなんか私の方を睨んでる?
桃子さんは少し立ち止まり
「すぐに戻ってくるから!」
そういって振り返り白黒を連れて走り出した。
大丈夫。私1人なら何とかなる。
熊はもうそこまで来ていた。
気合を入れろ蒼!
ここを抜かれると全滅だ。
私は名月を取り出す。
緊張感あるシーンだが、名月を持つ蒼を傍から見るとめちゃくちゃダサい。雰囲気ぶち壊しとはこのことだ!せっかくいい雰囲気になってきたのに!by筆者 閑話休題
とにかく絶体絶命のピンチだ。
ひとまず時間を稼ぐか。
私はみんなから離れるように走り熊を誘導する。
熊は私についてきてる。
桃花さんたちが見えなくなった。
「よしっと」
熊の誘導に成功。
私は緊張をほぐした。
時間稼ぎは終わりだ。
「いやぁ~いきなり出て来てかなり焦ったけど、逆にラッキーかも!」
私は目の前の強敵を見る。
【デスベアー】Lv25
「デスベアーレベル25か。」
自分よりも倍以上高いであろうステータス。滲み出る強者感。
私のレベルでは到底敵わないはずのレベル差。
だけど......
「関係ないよね!」
そう関係ないのだ
むしろ自分よりも強い相手と戦いたい。ただそれだけ
自分より倍強い?最高じゃないか。
死ねない今の状況だからこそ感じるリアル感。
そんなひりついた状況で格上と戦える。
「このゲームは本当に最高だ!」
私は名月を構え攻撃すべく走り出す。
「いくよー!」
熊との距離がどんどん縮まり私は名月を振りかぶる。
熊も自らの爪で攻撃を繰り出してくる。
「うおっ!?」
想像以上に速い熊の攻撃に慌てて名月で受ける。
何とか攻撃を受けるがそれでもHPが半分削れる。
「想像以上に重いな」
2回だ。防御の上からでも2回攻撃を受けたらやられる。
クリーンヒットなら一撃だ。
だが私は気にしない。
攻撃が最強の防御だから!
熊の攻撃を寸前で躱し腹に斬撃を浴びせた。
攻撃は完璧な当たりだったが熊の硬さに耐えきれず耐久度25の名月が破壊された。
名月が散っていくのがスローで見える。
「私の名月がー!」
私の魂の一振りが
昨日は一緒に寝た私の愛刀が
作るのに1週間くらいかかったのに!
そんな名月が見るも無残な姿に...
「熊公許さん!」
デスベアーが謂れのない怒りを向けられる。
私は目の前の熊に怒りを向ける。
どうする。
攻撃を当ててHPを1/4削ることに成功した。
しかし武器がない
ストレージに木刀はあるが恐らく名月と同じ末路になってしまうだろう。
武器がなければ戦闘にすらならない。
一方的にやられるだけだ。
時間を稼いで逃げるか?
いやだめだ。こいつはここで仕留めておきたい。
名月の仇
そして何より私よりも強いから。
でもじゃあどうしよ?
熊は私にとどめを刺すべく、じわじわと近づいてきている。
私は馬鹿なりに思考を巡らせる。
ん?
武器がないと戦えないって誰が決めたんだ?
そういえば確かあの時…。
私は昔の記憶を思い出していた。
当時7歳になった私の家にはよく従妹がやってきていた。
「蒼あなたの剣は確かにすごいけどまだまだね」
「そうなの?」
その日は私よりも6歳上の姉が遊びに来ていた。
「蒼。最強の剣士は武器を持たないの!」
「本当なの!?」
「嘘じゃないわ。ウルヴァ〇ンもたゆまぬ努力で手から剣が生えてきたのよ」
「すごい! 私も頑張れば生えてくるかな?」
「もちろんよ!蒼ならできるわ」
そこから先はひどかった。
私は姉の世迷い事を信じ1年間毎日努力し続けた。
まず姉に指を鍛えたら?と言われ無心で指を鍛えたが、なかなか剣は生えてこない。
次に爪が剣になるのかもと思い爪を伸ばしたが剣とは到底思えないものが出来上がった。
1年経ってもなかなか剣は生えてこない。
おかしいなぁと思い姉に伝えると、
「あぁあれね。蒼ごめんね、どうやら手から剣は生えないみたい」
8歳になったばかりの私は静かに涙を流したのだった。
――違う違う違う!
思い出したいのはその後だよ。
そんな姉が高校に入学して少しして外国のスプラッター映画にはまったのだ
姉は
「映画ってすごいわ。人体破壊の教材がこんなところに転がってたなんて」
などと言っていた。
「蒼これからの時代は抉るよ」
「えぐる?」
「そう斬るだけじゃダメ!敵を抉るの」
「どういうこと?」
「武器を持たずに自身の手で敵を抉るの!」
また何かに影響されたのだ。
当時の私には知る由もない。
「とりあえずこの木で試してみましょ」
「はぁ~い」
「そうね。それじゃあこんな感じでやって頂戴」
「わかった」
私は木の前に立つ。
「よっこらせ」
私は腕を上げ木に向かって手を振り下ろす。
過去の努力の結果、幼い私が素手で巨大な木の幹を抉ることに成功した。
姉の目が点になっている。
「なにこれ?本当に成功したわ…」
それから急に私に抱き着いてくる。
「蒼最高!想像以上よ!あぁ~可愛い持って帰りたい」
「お姉ちゃん苦しいよ」
「あぁごめんね蒼。」
抱かれる力が少し弱くなる。
「早速だけど技を創るわよ」
「わざー?」
「あなたの大好きな剣士の技よ」
「ほんとー!?」
「そうよ!それじゃあ動きはこうして…技名は…これでいいわ!」
「かっこいい!」
姉に言われたことを再現した技は非常にかっこよかった。
「完成ね」
「やったぁー」
「私達2人だけの技よ」
「2人だけ~?」
「そうよ!これで爺を驚かしてやりなさい」
「うん!」
姉はこの技を私がお爺ちゃんを倒すために考えてくれたのだ。
でも私はおじいちゃんを倒すつもりはない。
それから私はすぐにこの技を忘れて、る〇剣にはまったんだった。
どうでもいいことまで思い出してしまった。閑話休題
そうか、あの技だ。
姉が考えた今考えると恐ろしい技。
武器をなくした今、最適な技だ。
あれから何年も経ってるから不安だけど成功させるしかない。
動きを思い出しながら熊の攻撃を躱した私は熊の背後をとりバックステップで熊から距離をとる。
落ち着け、1度きりのチャンスだ。
失敗したら恐らくやられる。
当たって…砕くまでだ!
己の左腕を右手に収める。
左肩を前に出し体勢をできる限り低く構える。
抜刀術の構え
私が考えた私だけの流派で姉と考えた2人だけの技。
「色相流・一色」
熊が放ってきた爪攻撃にかまわず突っ込む。
「七転抜刀斬」
熊の爪ごと左手を振りぬいた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
サブタイトルにもしましたが、謎に熊が過剰に発生しています。
こないだの学校に熊が出たっていうニュースが衝撃だったのかもしれません。
もう少し頑張ってモンスターを考えたいと思います。
今日は想像が捗りましたのでもう1本投稿させていただきます。