17.戦闘民族アネヤジン
ありがとうございます。
それは戦闘配置やローテーションなど考えていた時の話。
急に姉が、
「私と蒼は参加しないわ」
なんて言い出した。
「どういうこと?」
黒が姉に聞く。
「きっと今のレベルがあれば8人でも十分戦えるわ。
もちろん白ちゃん、黒ちゃんもいるしね。
私たちは別行動でポイントを集めるわ。
その方が効率もいいはずよ」
「でも......」
黒が止めようとしている。
私には理由がわかるぞ。
でも姉には分からなかったみたい。
「勝負よ黒ちゃん!
もし私たちに勝てたら......」
姉が黒の耳元で何か言っている。
「絶対負けない!」
黒の目に急に火が付いた。
どうやら姉にもわかっていたようだな。
黒が私たちを引き留める理由。
「僕たちも負けないよ!」
「せいぜい頑張って」
姉の絶対零度の冷たい目がレオンを睨んだが私とレオンしか気づいてないようだ。
「あちゃ~」
気づくのが遅れた。
姉はまだ怒っていたのだ。
いやブチギレである。
姉は大人っぽく見えて実はそうではない。
今回でわかって頂けるだろう。
そうしてイベントの最後の最後に
白黒含む平均レベル20越えの8人と
レベル16の剣士と17の非戦闘職2人の
勝負が始まった。
ルールは簡単。時間までに多くのポイントを集めた方が勝ち。
「大丈夫なの?」
「あのね~蒼、私と何年いるのよ」
そろそろ気付きなさいよ!なんて言って怒ってる。
「私は爺以外に負け戦はしないの!」
どうやら姉が言うには本当は私が向こうのチームにいてもギリギリ勝てると。
でも私にかっこいいとこを見せたくてチームに入れてくれたみたいだ。
つまり今日の私の役割は子守りになります。
戦闘職の私が戦わず、非戦闘職の姉が戦う。
私たちらしくておかしいな。
私は戦わないとはいえ久しぶりの共闘だ。
「妹がいれば久々に《colors》の再集結だったのにね」
「そうだね」
いつの間にか忘れてしまっていた懐かしい名前を思い出した。
「懐かしさに浸っている暇はないね」
「そうね!」
それじゃあぼちぼち行きますか。
ソラを胸の部分に入れるりには肩に乗ってもらう。
「行くわよ!」
私は姉に続き走り出した。
「着いたわよ~」
「は?」
ずいぶん長いこと走り目的地到着する。
そこにはなぜかブレイクバードが倒れていた。
「なんで?」
「あのね蒼、私の本職は鍛冶師ではないの」
「どういうこと?」
あんなに見事な刀を作ってくれたのに。
「鍛冶師は蒼たちに武器を作るためにとっただけなの。
私の本職は罠師よ」
「確かにおじいちゃんと戦うときは罠を使ってたけど」
でも納得がいかない。
副業で私の紫式・桜を作ったのか?
「戦闘も鍛冶もスキルレベルが高くなくても何とかなるんだけど
罠スキルはレベルを上げれば上げるほど罠の幅が広がるの
今まで考えたけど実現できなかった罠がこのゲームでは再現できるの!。
このブレイクバードも昨日の空き時間に私が仕掛けた罠にかかってこのザマよ」
ブレイクバードに小刀でとどめを刺しながら笑いながら話しかけてくる。
やっぱり良くない方の姉が出てきちゃった。
姉は多重人格ではないが、普段は態度を変えている。
こっちは興奮したり楽しくなったりするとつい出ちゃうらしい。
ああ、何回見ても慣れない。
妖艶な笑顔でモンスターを蹂躙する姉。
これで返り血なんてついた日には立派なホラーゲームだよ。
私はソラとるりには見せないようにだけする。
「ねぇ、罠はあと何個あるの?」
「30個」
おっと聞き間違いかな。
本当ならここら一帯はモンスターの墓場だ。
なんか姉1人でランキング上位に入りそうな気がしてきた。
「でもさー向こうのチームにとられないの?」
「それはないわ」
黒なら見てそうだけどな...。
「黒ちゃんは奴等の戦力を把握してるはず。
私たちの近くでモンスターを狩ることはしないはずよ。
近場で競争したってあまり意味もないしね。
だから途中まで分かりやすく走って来たしね」
「でも罠の存在を知ったらここまで来るんじゃ?」
「私を馬鹿にしてるの?」
やばい!今こっちのモードだった。
「もちろん黒ちゃんの追跡に気付かない程間抜けじゃないわ。
それに何のためにあんなに遠回りしてきたと思ってるの?」
「うんそうだよね」
「ばれたらばれたでどうにかなるの!」
昨日の黒もすごいと思ったけどこの姉もおかしいな。
もう論理的とかじゃないよ。
理不尽だよ。
「ごちゅじんたま、ちゅごいの~」
「あらあら」
るりが嬉しそうに姉の周りを飛び回る。
るりのおかげで少し姉は落ち着いたようだ。
「それにしても蒼には私の愛が足りてなかったみたいね」
あぁ終わった。
全然落ち着いてないよ。
むしろギンギンだよ!
「私が蒼の前で失態を犯すわけがないでしょ!
もっとすごいところを見せなきゃ......」
もう十分すぎるよ...。
これ以上は胃がもたれちゃう。
それからというもの
姉は罠にかかったモンスターを次々に仕留めていく。
罠の位置も完璧に覚えていて
効率的な順番で回っている。
もちろん私は子守り。
本当に1人で向こうのチームに勝つつもりなんだ。
しかしイレギュラーが起きる。
「キュー!」
「うえにおっきなとりさんなのー!」
「ありがとう2人とも」
姉が2人にお礼をする。
ブレイクバードが私たちの上空を飛んでいた。
どうやらもう気付かれてしまったようだ。
「私も加勢しようか?」
さすがに罠にもかかってないし、いくら姉でもきついだろ。
「ありがとう。でもそこで見てて」
「あ、ハイ」
どうやらポイント1位にタイマンを張るようです。
姉とブレイクバードの戦いが始まった。
あれは私1人じゃ倒せそうにないな。
ブレイクバードは空を飛ぶ上に空中で炎ブレスをはいてくるのだ。
それに物理ダメージが入りにくい。
まさに天敵だ。
罠師とはいえ姉1人で倒せるのか?
私たちは3人で姉の戦いを観戦する。
そのブレイクバードの攻撃を涼しい顔をしてよける姉。
攻撃に掠ることさえしない。
まさに完全回避だ。
どこにどんな攻撃が来るか完全に把握しているのか?
まるで未来が見えてるよう!
姉は本物の天才だ!
桃花もブレイクバードには手ごたえを感じなくなっていた。
初日と2日目の夜にもばれないように戦っていたのだ。
難易度の上がった状況下で戦っていたため、楽に感じていた。
ポイント1位のモンスターも慣れたらこんなものか。
攻撃が単調すぎるから楽しくないわ。
「ん~どうしようかしら」
実際、倒そうと思えばあと5分あれば余裕だ。
でもみんなが見てるからかっこよく倒したい。
罠はどうしても地味だから。
とりあえず小刀を構える。
どうしようかしら......。
攻撃を完全に躱しながら考える。
桃花は蒼と違い並列処理することができる。
「良いこと考えた!」
最近友人に勧められて読んだ漫画のワンシーンを思い出した。
早速行動すべくインベントリからアイテムを取り出す。
「蒼、目を瞑って!」
私はブレイクバードに閃光石を投げる。
「え?え!?」
光でブレイクバードの視界を奪った。
「ほぇ~」
蒼がふらふらしてる。
どうやら2人を優先して光を浴びてしまったようね。
何してても可愛いわ。
蒼を見ながら高速で罠を仕掛ける。
もちろん見てなくても罠を仕掛けられるよう練習した。
そうしないと戦闘中に使えないから。
ブレイクバードと蒼が怯んでいる間に10個の罠を設置した。
どれも威力の弱い罠だが。
効果は踏むと追跡型のファイヤが放たれるというもの。
ようやく準備が完成した。
「蒼大丈夫?」
蒼たちが見てないと意味がないわ。
「もう大丈夫だよ」
よし。
「みんなしっかり見ててね。おそらく最初で最後の私のソロ戦闘よ!」
私は走って自分で仕掛けた罠を踏んでいく。
放たれたファイヤが私を追ってくる。
もちろん私の足より速いので回避しながら次々に踏んでいく。
「全部踏めたわね」
10個のファイヤに追われている。
躱しながらそのままブレイクバードの元へ走る。
このままブレイクバードにファイヤをぶつけると思ってるでしょ。
「不正解よ」
それじゃあ仕留めきれないし完璧じゃないわ。
私は一瞬ブレイクバードに触れ高速で魔法を使う。
「【リライト】、【罠付与(誘爆小)】」
まずリライトこれは罠を書き換える魔法。
自分で仕掛けた罠にはかからないようにするためだ。
もちろん自分の罠にしか干渉できない。
罠付与は言葉の通り。
私が何をしたか。
私が踏んだ罠をリライトして対象を踏んだ者から私の触れた物に変える。
さらにブレイクバード自体に誘爆(小)を付与しファイヤの威力を底上げした。
これですべてが整ったわ。
ブレイクバードがファイヤから逃れるように上空に上がりブレスを溜める。
「【スタン】」
ブレスが放たれる瞬間にスタンを打ち動きを阻害する。
ブレスを吐けなかったブレイクバードに誘爆(小)により威力を底上げしたファイヤが着弾する。
何とか逃げようと上空に上がっていく。
10発のファイヤが直撃した。
「ふふ、案外綺麗な花火ね!」
上空で大爆発が起きた。
「たーまやーーー!」
「きゅーきゅきゅーー!」
「たまやーなのーーーー!」
「フフフ」
ド派手な演出を楽しんでくれたようだ。
みんなが寄って来る。
「お姉ちゃん凄すぎだよ!」
明らかにテンションが上がっている。
「ありがとう蒼。罠も捨てたもんじゃないでしょ」
「うん。お姉ちゃんの罠は最強だよ!」
蒼にべた褒めされる。
「キュキュ、キュー!」
「あら、どうしたの?」
ソラちゃんも何か言ってるみたい。
「ごちゅじんたまのたたかいがだいちゅきっていってるの!」
「可愛いこと言ってくれちゃって」
やっぱり飼い主に似て本当に可愛いわ!
ふわふわの竜の頭を撫でる。
「キューキュー」
ソラちゃんに手を掴まれ顔を舐められる。
「くすぐったいわ!」
蒼とるりがこっちを見ながら
「こんなに早く親離れする時がくるなんて思わなかった!」
「おもわなかったの!」
2人が大袈裟に抱き着く。
可愛いけど今はイベント中よ!
2人の寸劇を見て笑ってしまう。
ソラちゃんも楽しそうね。
まぁあとは仕掛けた罠のモンスターを狩るだけで十分か。
ソラちゃんに舐められながら向こうの2人を見守ることにした。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
ようやくあと1話でイベント編が終わります。
当分はほのぼの感強めで行きたいと思います。
今回の話を読んで頂けたらわかるようにこの話で最強は姉だったようです。
主人公を今からでも変える案件です(嘘)
これからもちょっと抜けた主人公でやっていきます。
それではまた。