表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE SECOND TAKE  作者: 多寡ユウ
1/2

ー嘘と僕の英雄譚ー

前編・後編の2編でお送りします!


大体、7万字程度になるかと思いますので、軽いラノベ程度に読んでいただいたら、幸いです。


宜しくお願いします!


その講演に、全世界が注目をしていた。


「皆さん本日は、大変ご多忙かつ困難な状況の中、お越しいただき誠にありがとうございます。私は仮想空間創造所リベラル社で教授を務めております、●●●●●といいます。今回の講演中では、JBとおよび下さい」


自己紹介が終わり、男が本題に入る。


「さて、地球は今現在、危機的状況に瀕しています。近年、JAXAが計画していた火星移住計画は、残念ながら失敗に終わりました。急速に進む高齢化問題・食料不足、そして米中露で起こった大規模な大核戦争を読んだ第三次世界大戦により、世界は荒廃し、大気は汚れ切りました。我々がこの世で生きる手段はもはやありません。酸素濃度は低下し、放射線濃度は日に日に増加の一途をたどっています。」


白衣を着た30代の研究員が、世界各国の首脳や、外務大臣に向かって講演をしていた。公園の内容は日本語ではあるが、翻訳アプリケーションが働いていて、自動でその国の言語に変わる。

白衣を着たその男は、名札を付けて、JBという名前であった。


「そこで、我々JAXAと業務提携を結んだ仮想空間創造所リベラル社が、ご提案するのが、新たなる移住化計画です。それがこちらです。この機械を使えば、長きにわたって人間をコールドスリープ状態にしながら、脳だけは別世界に転送することができます。その期間は、100年以上。この機械で100年もの間、国民を閉じ込め、大気と放射線が通常の濃度に戻った際に、活動を再開するのです。我々はこの計画を、異世界移住化計画と名付けました」


各国の首脳から、拍手喝采が巻き起こる。

みんな口々に、amazing, wonderful,coolとか何やら単語を発している。


「国民一人一人に、仮想ゲーム空間サーバーを用意し、一人だけの仮想空間を提供します。これで、何人もが一斉にサーバーにログインして生じるバグを回避することができ、未来永劫、誰もメンテナンスをする必要がない、完璧な居住空間としての仮想ゲーム空間ができあがったのです!」


しかし、これでいいのか。

こんなもので、人間を閉じ込めて、それでこの世界を、地球を放棄して、

お前たちは、それで生きているといえるのか。


100年間も仮想空間ということは、100年間分現実世界では年を取るということだ。

もし、100年たって現実世界に戻っても、そんなヨボヨボの人類には何もできない。何も遂げられない。全員がヨボヨボになって、死に行く地球をただ茫然と見ているだけ。そんな未来が待っているはずだ。だから、


この仮想空間は、理想郷ではない。


私は納得しない。断じてそうではない。この地球を立て直すために、尽力すべきだ。

決して、火星に移住ができないから、異世界に移住をしようという甘い話ではない、断じて。

私が変えてやる。

私がこの世界を、地球を救ってやる。

逃げるだけなんてダメだ。

救う。必ず。


そう一人の女性は、心に決めて、講演会場を出た。




-----------------------------------------------------------------------------------------



場面は変わり、99層迷宮、第七層。


少女たちは、第六層でのボスエネミー、最初の人類アダムとのバトルに何とか競り勝ち、多くの犠牲者を出しながら、この第七層までやってきた。しかし、

その少女は、第七層の入り口にようやく降り立った時、

そこに広がっていたのは、一面に広がる小麦畑と、「第八層へ」という立て札のついたおんぼろのどこでもドアのような扉だけだった。


「ふう、よしみんなここで休憩しよう!エネミーはいなそうだ。手当が必要なものには、至急手当を!」


クランのメンバーにそう告げると、彼女はその小麦畑に座り込み、一息ついた。今までの七層までの歴史を振り返っていた。一層は、陽だまりの怪物である動くヒマワリ、二層は空を司るオオタカ、三層からは強敵になり植物型のモンスターである大樹モンスター、四層は太陽と月を司る人工衛星型モンスター、五層はバハムートと呼ばれる魚に羽が生えたモンスターで、六層が最初の人類アダム。

そして、七層のエネミーは、存在せず。一面の小麦畑と、八層があることを知らせる扉のみ。


「やはり、そうなのかもしれんな」


彼女は何かに勘付き、小麦畑を覆う人口の太陽の方に目を向ける。


「プレイヤーを、探さねば」



----------------------------------------------------------------------------------






何気ない昼下がりのことだった。


「ポップメニューに、メッセージが送信されました。」

≪to:ユウキ  よー、へたっぴ。お前、てっとりばやくポーション買ってきてぇー、にんずうぶんねぇー。制限時間は5分。遅刻したら置いてきぼりの刑だから≫


スライム狩りをして、レベル上げをしようと思っていたが、あまりにスライムが怖すぎて、退散し、トボトボ帰っていた。


そんな時、自分の視界のポップアップに、クランメンバーからの伝言がピコンっ!という音を立てながら、アナウンスのボイスが聞こえた。これが出てきたらパシリの合図だ。


「≪to:タクム  わかった。≫タッタッッ(空中のキーボードを打つ音)」


たまたま町中にいたから、ポーションは早く買えそうだ。早く買ってみんなのところにもっていかなくちゃ。また仲間外れにされちゃう。


町と言っても、ごく簡単な“まち”。村に近い。昔ながらのかやぶきの建物が乱立し、二階建ての建物なんてものは、この村にはない。だから、ぼくみたいな弱い人間には居心地がいいのかもしれない。ほかのクランメンバーはもう少し立地が良くて、レンガだったり、石でできた西洋風の建物に住んでいるクラメンもいる。


僕はポップアップに返信をすると、急いで薬品ショップに向かった。


「ごめんくださーい、あの、ポーションをまた、20本くらいほしいんですけど」


「あら、ゆうきくん。また来たのね。またエネミー狩りにでかけるの?」


「あ、そうなんです。クラメンと。えへへへ」


「気をつけなさいよ。あなたのクラメンの子たち、そんなに強くないから、そんなにポーション買うんでしょ?」


「へ?あ、ああ。いえ、みんなは強いんですけど。主にこれは僕のためですよ、えへへへ」


「あら、そうなの?それならいいんだけど。ちゃんとレベル相応の所行かなきゃだめよ。自分のレベルよりも5以上下の森周辺よ。わかった?」

「わかってます。おばさん」




この薬局ショップのおばさんは、昔からの知り合いだ。

僕がパシリにされているのはもちろん知らない。おばさんは、僕以外のクランメンバーが弱いから、僕が代わりにポーションをみんな分買ってあげているって思っている。でも、実際には逆で、僕が弱いから、ポーションを貢いでいるだけってのは、口が裂けても言えないんだ。なにせ。


この薬局ショップの隣が、僕の家だから。

もしこのおばさんに、僕がクランでのけ者にされているって知ったら、おばさんがお母さんにチクるかもしれない。そしたら、ぼくはあのクランにいられなくなるかもしれない。唯一の居場所だったあのクランに。そうなることだけは、いやだった。

すると、薬局のおばさんから血の気が引く発言が飛び込んできた。


「あらやだ。今ポーション10本しかないわ。この前入荷したはずなんだけど、おかしいわねえ」


「え、10本しかないんですか?」


「そうみたい。10本しか売れないけど、みんな大丈夫かしら?」


「へ?あ、み、みんなは、ぼ、ぼくが守るので大丈夫ですよ!あははは」


「あらそう?ならごめんなさいね。10本ってことで、じゃあ1000円ね。まいどあり」


「じゃあ僕、急がないと。時間もないし」


「そうなの?もう少しゆっくりしていけばいいのに」


「そういうわけにもいかなくて、それじゃあおばさん、またきます」


「そう。気を付けてね」


薬局のおばさんに、ありがとうございました。と言って、となりの建物へ足早に向かった。


「お母さんに、みんなと狩りに行くって言わないと」


すると、家の玄関近くで、これから買い出しに行こうとサンダルを結ぶお母さんの姿があった。


「お母さん。今日、みんなと狩りに行くから、遅くなる。」


「あらそうなの。いってらっしゃい。本当に、気を付けてね。別にお父さんみたいに稼ごうとしなくていいんだから。夜までには帰ってきなさい」


「わかった。父さんは?」


「父さんなら、今クエストに出ているみたいよ。なんでも、超高額なクエストらしいから、今日は何かごちそうにしようかしら。だから、ユウキ。今日は友達と遊んでいないで早く帰ってくるのよ」


「わかった。別に遊んではいないけど」


「遊んでいるでしょう。そんな友達とクエストに行ったって、ろくなお金にならないんだから。そろそろユウキも、お手伝いクエストでもやってほしいわ」


「・・・・いってきます」


「あっ!タクムくんにいつも誘ってくれてありがとうって伝えるのよ!」


「・・・・」


僕はその場にいるのが、いやになって、玄関を飛び出した。


・・そう。この世界では、クエストで得れるお金がすべてだ。

僕の父さんも、お母さんも、他のこの世界に住んでいる人は全員が、クエストでお金を得ている。エネミーを倒したり、貴重なエネミーを捕まえたり、採集やお手伝いなんてものもある。すべてがクエストだ。

そのお金で僕らは衣食住を満たす。それがこの世界だ。僕が物心ついた時から、ぼくの世界は、この世界だった。意識が芽生えた時から、といった方が正しいかも。

狩りのクエストを将来やりたい人は、幼いころからレベル上げを積極的にやって、一人前の戦士になる。エネミー狩りとかは、危険と隣り合わせの分、収入が良い。王様が住む帝都に住む住民は、ほぼすべてがエネミー狩りで成り上がった戦士たちだ。


そんな中で、お母さんが僕に勧めるのが、危険度がないお手伝いクエスト。


おばあちゃんのマッサージや、農家に行って野菜を収穫したり、田植えをするクエストが主になっている。この世界で人口の大半を占める高齢者へのサポートが、お手伝いクエストの大半だ。給料は良い。毎日なにかしらのお手伝いクエストをやれば、家計を支えられる。


でも、ぼくはお父さんみたいなクエストがやりたい。


僕のお父さんは、地下にある99層迷宮での、エネミー討伐クエストによく行く。


危険と隣り合わせのこのクエストは、給料もめちゃくちゃいい。敵が強ければ強いほど、給料は跳ね上がる。

僕のお父さんはだいたい、99層の中での2層のボスを倒すクエストを毎週2回ほどやっている。週2回で2層のボスを倒すと、ぼくら3人家族の食費と水道代と居住費を賄うことができるらしい。詳しいことは知らないけど。


でも、同時にエネミー狩りは危険と隣り合わせのクエストでもある。


99層迷宮は、死人が良く出る。


そうこの世界では、死ぬんだ。


僕のクランのメンバーの中にも、お父さんを99層迷宮のクエストで失った子がいる。

自分の右上に出てくるHPがゼロになると、この世界から消えてしまう。

だから住民は、自分のレベル相応のダンジョンや迷宮・森にしか行かない。


お手伝いクエストは危険がない分、収入はそんなに良くない。

一方で、エネミー討伐クエストは危険と隣り合わせになるぶん、収入もいいんだ。


だから僕はお父さんみたいな一家の大黒柱になりたい。いつか、お父さんや、ぼくのクランメンバーをあって驚かせるような大偉業を打ち立てるんだ。


「いつになることやら、だけどさ」


僕の職業は、【戦士】。基本ステータスが平均以下で、何のとりえもないジョブ。

ここから進化すれば、かっこいいジョブになるんだけど、敵を倒しに行くのも怖すぎて、レベル上げもできずにいた。


「もっと僕が強かったら、みんなを驚かせることができるんだけどなあ」


現時点で僕のレベルは、まだ7。クランの他のメンバーは、30以上がゴロゴロいる。リーダーのタクムに至っては、もう40に到達するくらい強プレイヤーだ。この世界では、強いものがレベルを上げ、弱いものは取り残されていく。いや、勇気あるものはエネミーに立ち向かい、レベルを上げて経験値を蓄えていき、臆病者はいつまでたっても経験値が上がらいままだ。

僕はまだスライムすらろくに倒せない。レベル2のスライムですら、剣で切れないのだ。おびえてしまう。極度のビビりな僕にとっては、スライムでさえ、名前を言ってはいけないあの人なみの強さがあるのだ。


「はやく、強くなりたい」


ここ最近の、僕の些細な願いで、しかし叶わない願いだ。

そんな愚痴をたれながら、ぼくは村の中心にある転移ポートに向かった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「おせぇよ。お前。ふざけてんの?ポーション10個しかねーじゃねぇか」


そういって、タクムは僕のほほを思いっきり殴ってきた。

転移ポートから転移して、タクムの住む石畳の町の広場に僕とクランメンバーはいた。


薬局のおばさんとお母さんと話をしてたら、2分だけ遅刻した。でも、この怒りようだ。理不尽。このクランのリーダーであるタクムは、僕以外のメンツが遅れても何とも言わない。でも、ぼくだけにはめっぽう厳しい。タクムのクランメンバーは、リーダーであるイケメンだけど性悪なタクム。副リーダーであるアモンとコウタ、そして僕の4人チームだ。なぜ僕がここにいるのかは、想像してほしい。


僕はお父さんみたいに家族を支えられるくらいに強くなりたくて、クエストをやっている同年代のクランに片っ端から応募した。結果的には弱すぎてどこからも、いい返事がもらえず、結果的にこのクランで貢ぐ係をやりながら、経験値のおこぼれをもらっている。



「売り切れで・・」


そんななか僕をいじるメンツの一人、アモンが口を開く。彼は、タラコ唇。


「おいおい。お前おつかいすら、できないの?」


毎回心の中で、このタラコ唇が、って心で幾千回も唱えている。

続いて、コウタ。特徴のない顔。だけど、どこかむかつく。


「いいかい、へたっぴ。明日も狩りに行くから、明日はポーション30個。忘れたらマジでモンスターの中に置いてきぼりの刑だからな」


「気を付ける・・」


「んな、びくびくすんなよ。俺ら“トモダチ”だろ?」


「・・・・・」



実際かれらには逆らえない。

僕はまだ一次職の職業である戦士。

一方で、タクムとアモンとコウタは、戦士などといった一次職の1個上の二次職である、盾戦士だ。

実力差は歴然。逆らえるなんて思っていない。


そして、お母さんやお父さん、そしてこのクランメンバーしか居場所がない僕にとっては、このクランも居場所のひとつなんだ。


このクランを出ても、他のクランで僕を欲しがってくれる人がいるとは限らない。多少このクランがブラックでもやっていくしかない。経験値のおこぼれをもらいながら、いつかお父さんみたいに、99層迷宮にチャレンジして金持ちになって、お父さんとお母さんを楽させたり、可愛い女の子と一緒にいたり、そんな生活をいつかしたい。というかそれ以外に、生きる意味がないんだ。


なんてったってこの世界の“成功”は、自分自らの強さをどれだけ高められるかだから。


だから、このクランで泥水すすって、生きていくしかない。我慢して雀の涙の経験値を吸い取って、いつか大きくなってやる。そして、タクムやアモンや、コウタを見返してやる。


叱られ終わって、ようやく森に向かおうと転移ポートに入るさなか。


「・・・なにが、置いてきぼりの刑だ、バーカ。いつかお前らを置いてきぼりにしてやる・・・」


自分にだけ聞こえる声で、そうつぶやいた。

そんなこといつか言えたらなあって、思いながら。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「おい、タクム。なんかこの森のモンスター、少し強くないか?」


「そうか?そうはおもわないけど」


「って言ってもさあ、俺もまだレベル30になったばっかで、アモンも31だし。タクムだけだぜ40にレベルいってるの」


「そうだよ。この森の推奨レベル35だし、俺らにはまだ荷が重いって」


僕はまだレベル7なんですけどね。


「大丈夫だって、いざとなったら・・、お前らこっちこい」


「なになに?ふんふんふん、ふんふんふん。ああなるほどね。その手があったか」


「タクムやるぅ。すごいね」


「だろっ。ヒヒ」


どうせ僕をおとりに置いていくとか、よからぬことを企んでいるんだろう。見え透いているんだよ、バーカ。もう少しましなひそひそ話をしろ。バーカ。バーカ。


そんなこんなで、森に入ってから、エネミーを前衛の3人がばったばったと倒していく。

エネミーは、ぼくでは絶対に倒せない、虫だとかイノシシだとか鹿のエネミーばかり。スライムでさえ手を焼く僕には、到底太刀打ちできない。

一方僕は、HPが少なくなったクランメンバーの3人を僕がポーションで回復していく。

そこで得た経験値を微量ながらもらい受けつつ、旅を進めていた。


残りのポーションは全部で5つ。そろそろ旅も終盤で、小ボスが出てくるころ合いだろう。


タクムもHPがゼロになりたくないからか、推奨レベル40スタートの99層迷宮には行きたがらない。あそこのボスは、中ボス、大ボスばかり。一方で、森にでてくるのは小ボスばかりで比較的倒しやすいのが特徴だ。


そうこう話していると、アモンが口を開く。


「あ、あれ、小ボスじゃないかな?」


確かに森の奥の開けた場所になにやら、大きめな影が見える。

タクムが大きな声で剣を上にかざしながら、声高らかに向かっていく。


「よしいくぞ二人とも!」


僕もいるけどね。

ようやく森が開けた。そこにいたのは、あきらかに小ボス。

ではなく。


「gururururururururuhaahahhaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaァぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁあああああああ!!!!!!!!!!」



明らかに中ボスサイズの敵だった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「なんでこんな森にケルベロスが・・。99層迷宮に住むエネミーのはずじゃ・・」


「gururururururururuaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」


「ヒィィ!な、なんかの間違いだよな。な。俺らここで死なないよな?な?」


コウタとアモンが口々にうろたえる。

ケルベロスはアモンが言った通り、99層迷宮の5層ボスに位置するエネミーだ。なんでそんな化け物がこんな森にいるんだよ!

僕のステータスは、まだレベル7。先の戦闘でポーションはすでに5個しか残っていない。

仲間の戦力も、アモンとコウタはレベル30。タクムはレベル40だけど。

ケルベロスの推奨レベルは、40と出ている。

前衛3人のレベルの平均をとっても、たった33レベル。推奨レベルには到底及ばない。


「怯むな!推奨レベルが40だからって、別に40レベルないとだめってわけじゃねーだろ!」


タクムが全員を奮起させるために声を上げる。一方、アモンとコウタは足がすくんで動けないらしい。ところで、ぼくの方は言うと。


(死ぬのかな。僕)


死期を感じていた。

さっき3人がしていたひそひそ話。もし、3人がピンチになったら僕がおとりになるとか、そんな話をしていたんだと予想する。ということは、

ぼくを置いて、逃げるつもりなんだろうか。


ぼくより素早さのステータスが3倍も4倍も高い彼らには、絶対足の速さでは追いつかない。もし置いてきぼりにされたら、確実に僕だけ逃げられない。


いやだ死にたくない。


「gるるるahahhhhhuruuruuuuuuuuuuuuuuu!!!!!!!!!!!!!!」


っ!

ケルベロスの咆哮が森中に響いたと同時に、森中の小型の鳥エネミーが飛散する。と同時に、ケルベロス特有の3つの口から、それぞれどす黒い色の魔炎弾を吐いてきた。


「gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!」


3つの口からそれぞれ、タクム、アモン、コウタに向けられる。全員が戦士職の二次職である盾戦士である彼らは、各々の盾でその魔炎弾を防ぐために、盾を構える。


「来るぞ!」


というタクムの号令と同時に、魔炎弾が3人の盾に爆音をあげながらぶつかる。

3人の盾さえ砕けなかったが、タクムを含めて3人のHPがごそっと、半分近く減っていった。この時3人は同時に気が付いた。強敵の攻撃を一度食らっただけで分かる、あの現象。


絶対にコイツには勝てない、とわかったのだ。


全員がおびえながらケルベロスをみるなか、アモンが震えたタラコ唇を開く。


「たた、タクム。や、ややばい。っつつ、強すぎる、おおおおぉ俺ら負けちゃう。に、逃げよう。さっき言ったみたいに、おおおおお置いてこう、ぁぁああいつ」



次に、足をがくがくに震わせたコウタが口を開く。


「そ、そ、そうだよ、アモンの言うとおりだ。むムムム、無理だって、今の俺らじゃ、っぁかか、勝ててない・・」


二人から逃げる指示をするように仰がれたタクムは、二人よりも切羽詰まっていた。

タクムが切羽詰まっている中でも、ケルベロスはグルルルルという声を立てながら、次の魔弾を吐き出すMPをためているのが、ケルベロスのHP・MPゲージを確認して分かる。


このままじゃ、さっき陰で話してたみたいに、僕は置いてかれるのか。でも、タクムは意外と強いし、頼りがいも少しはあるし、戦力的にも互角なんじゃ・・。


「ぃひぃひいいいいいいいい、にに、逃げろ!!!!!!!へたっぴ置いて、逃げろォォぉぉおおおおお!」


そんな悲痛な声が、森中に響き渡った。

こんなタクム、僕がこのクランに入ってから初めて見た。

いやでも、そんなこと言っている場合ではない。僕を置いて逃げる?あんまりだ。

いくらなんでもそれはない。この状況なら、盾で防ぎながら4人で逃げかえることだってできるのに。なんで。


「そ、そんな!僕、ポーションでみんなを回復して戦うのに!!」


ぼくからの悲痛な叫びをするも、それは残念ながら他の3人には届かない。


「おまえ!!ポーションあるんだから、逃げながら回復できるだろ!!俺らが逃げる方角に連れてくるなよ!絶対だぞ、絶対だからな!!!」


そういってタクムたち3人は、僕の3倍以上はある足の速さで森の奥に消えていこうとする。


「そんな、待って!ぼくたち、クランの仲間じゃ!」


「お前みたいなへたっぴ、仲間にした覚えねぇよ!はなっから、ポーション役だお前は!」


「そ、そんな・・。ま、待って!僕も、連れて行って・・・!」


僕がクランメンバーをめがけて走りだそうとした次の瞬間、非情にもケルベロスは逃げ遅れた僕を待ってはくれなかった。


「GURURURUURaduqadaedadqfaefsrmkvkewr-svfw-e-raaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」


ものすごい轟音を挙げて、今まさに、3つの口から魔炎弾が放たれようとしていた。

まずい。逃げなきゃ。

とっさにそう判断して、開けた場所から森の奥に逃げようとする。もちろんタクムたちと同じ方角に。タクムたちと逃げれれば、生き残るチャンスはある。


しかし、そんな甘い考えをかき消すかごとく、


「GYAAAAAAAAayayyaaaaaaaaaaaamaennnnnnnnnnnnnnnnnnnnneaaaaaaaaaaaaaaaam」


魔炎弾が僕とケルベロスの周囲を取り囲むようにして放たれた。


「っ!」


魔炎弾の残り火が、僕を逃げられないよう包囲している。

そんな四面楚歌状態の僕を、魔炎弾の残り火から見つめる3人の姿があった。

3人はおびえた顔でこちらを見ている。しかし、そのおびえた顔には少なからず安堵感がにじみ出ているようにすら感じられた。


「い、今のうちだ。にげるぞ!」


そういって、ついにタクムたちは森の奥に消えていった。

しかし、今の僕にはこの魔炎弾の残り火を乗り超えて、3人を追いかける手段はない。

魔炎弾の残り火に近づけば近づくほど、僕のHPは削られていく。

万が一、炎を超えられたとしても、やけど状態になるのは必至だ。

その状態で僕一人で森の中の敵を倒しながら、村に帰るのは不可能に近い。

やけど薬も持っていない。ポーションもあと5つしかない。そんな中、レベル7の僕がこの森を一人で抜けることは、不可能なことだった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


僕は今の状況を分析して、途方に暮れてた。もう打つ手はない。

この炎を渡って森に行っても生き残る手段はない。

推奨レベル40のケルベロスに、レベル7の僕が勝てる手段もない。

ましてや、この残り火をかき消す水系の呪文も使えない。

もう、何も打つ手がなかった。


「・・・・っくそ」


分かっていたことだった。タクムたちに仲間だと思われていないことは。

でも、タクムなら、と心のどこかで思っていた。

クランリーダーなら、もっとなにか手を尽くしてくれるかと思っていた。


でも、僕が馬鹿だった。

クソ。クソ、クソ。僕が馬鹿だった。

クソ。クソ。クソ、クソ、クソ!僕が甘かった。

クランだからって安心してた自分が馬鹿だった!

クランなら万が一の時があっても守ってくれるって

どこかで甘いこと考えてた。

クソ!なんだ、全然僕らは仲間同士じゃないっ。

始めっから、ポーション要因として利用されていただけだった。

これじゃあ、希望を持っていた自分が馬鹿みたいだ。

これなら、誰も信じない方がましだったのに。


「クソ!クソ!クソ!ぅうううううううううう、う、うう」


いたたまれない声が森中に響き渡る。

しかし、そんな僕の泣き声を、ケルベロスの咆哮がかき消した。


「GYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」


待ちくたびれたぞ、と言わんばかりに僕のことを見つめる、ケルベロス。


僕の周りを取り囲んだ、魔炎弾の残り火によって、僕の体力はじりじり減っていく。

対してケルベロスの体力は、魔弾の残り火によっては減る様子もなく、依然としてHPゲージは満タン。


5個のポーションと自分の力でコイツを倒す、それができれば帰れるかもしれない。

しかし、勝てるわけがない。レベル差は歴然。魔炎弾の威力は、レベル30以上のタクムたちをHPゲージを半分まで削るほどの威力。

どうみたって勝ち目はなかった。


だから、僕に唯一残されている選択肢は、

たった5個のポーションで、可能な限り長く延命することだけだった。


「ふふふふふっ、ハハハハハははははは」


笑えてきた。一周回って。

家の出も貧しく、あんなにへたっぴと蔑まれて、金を貢がせられ、ポーションを買わされ、終いにはこれだ。笑うしかない。

僕が信じていた友情とかは全くなかった。

あったのはいじめられていた事実と、パシリにされていたことだけだった。

全く散々だ。散々な人生だ。


散々な人生だから、



あいつらに復讐してやる。


あいつらに、一生の罪を抱えさせてやる。


「こいっ!!!僕を、殺せ!!」


僕があげた怒鳴り声とともに、ケルベロスの3つの首が同時に雄たけびをあげた。

ハハ・・。

お前らが散々蔑んだ僕が、ここで死んでやる。

しかもありったけの時間をかけて。

僕がお前らを助けてやる。

ポーション5個使って、ケルベロスの攻撃を避けて避けて避けまくって。

お前らが村に戻れるくらいの時間を稼いでやる。

そうして、伝えろ、僕の存在を。僕がいた過去を。僕がいた証明をしろ。

そうして、そうして、お前らは・・。


「見捨てた人間に、生かされた記憶を抱えて、この先、未来永劫、生き続けろ!」



僕の独白と同時に、ケルベロスが僕に向かって3つの魔炎弾を放つ。


「ッ!」


間一髪で3つとも避けるが、熱すぎる魔炎弾の残り火が、自分の元居た場所に広がる。その熱気でHPを削られ、もうHPは半分になってしまった。


「くそ、一本目のポーション」


一本目のポーションを飲み干すと、次の魔炎弾の攻撃に備えて、身構える。どうやらこのケルベロスは魔炎弾しか放ってこないらしく、攻撃パターンは予測しやすい。ダメージも避けられるかは、別の話だが。このままだと、魔炎弾の熱気のダメージも換算すると、避けても僕のHPは底をつくことは間違いなかった。


「へへへへ、・・・・・望む、ところだ。」


いいさ死んでやる。このまま死んであの世にでもなんでも行ってやる。

そしてあの世から、生き残ったあいつらを笑ってやる。


見捨てた人間に助けられた記憶を抱えて、未来永劫無様に生きろ。

そして、その姿を見て、あの世から僕はお前らを呪ってやる。

だからここで、僕は、


「しんでやる!!!!」


僕はケルベロスの方を向きながら、そう叫んだ。

もうそれを伝えるべき人間はもうここにはいない。

対するケルベロスの方も、3つの首をそろえて、魔炎弾を僕に向かって撃ち込もうとしてくる。

ここから、多分もって2・3分だろう。それくらいあればあいつらは逃げて帰れる。

そうして、あいつらは俺の残像を感じながら、この先一生生き続けるんだ。


ははは、ざまあみろ。


ケルベロスの魔炎弾が僕に向かって放たれる。


もう、今死んでしまってもいいか。


多少の誤差は、大丈夫だろう。あいつらも村に逃げれる分の時間稼ぎはできたはずだ。


もう疲れた。


魔炎弾を受け入れ、焼け焦げて死のう。


そう思って、両膝を地につけた。


そうして魔炎弾が、僕に向かって降り注ぎ、僕の体を焼失させ・・・・・・、れなかった。

今思えば、今から起きる出来事は、僕にとっては大きな人生のターニングポイントだったのかもしれない。



「よく耐えたな。少年」


見知らぬ声が、僕の耳に届く。同時に、バゴーーーン!!という衝撃音が僕の前方で鳴り響く。3つの魔炎弾をかき消された音だとわかるまで、コンマ1秒程度かかった。

何事かと思い前を向く。

その先には、

2本の黒い長刀を手に持った、一人の少女がいた。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

「赤いコンソール。」

ついに、見つけた。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


彼女は黒髪をたなびかせ、黒色の鎧を身にまとった少女だった。

刀の色も、黒色。どんな黒よりも黒い、漆黒の二輪刀だ。

そのいかにも熱を通しやすそうな2つの刀がいとも簡単に、ケルベロスの魔炎弾をかき消したのだ。


「・・・・きれいだ・・」


僕は言葉が出なかった。綺麗と言うしかない。彼女の立ち姿は、細いその身に似合わず、勇ましかった。僕よりも少し身長の高い彼女は、僕の目の前で盾としてケルベロスに立ち向かっていた。“綺麗”という言葉が最も似合う、そんな立ち姿だった。


「さて、私はコイツを倒してくるから、君は少し後ろに下がっていろ。魔炎弾の残り火には近づかないようにな」


そういわれて、僕は「ハイ」と言う以外なく、おとなしく後方に下がった。

僕が後ろに下がったのを、横目で確認した後彼女は、

ものすごいスピードでケルベロスに切りかかっていった。


「・・・ッ」


今まで見た誰よりも速いスピードで、彼女はケルベロスに切りかかっていく。彼女は高くジャンプし、ケルベロスの首をかっきるために、黒色の二輪刀を構える。ジャンプの高度は優にケルベロスの首の高さを越し、ケルベロスが見上げる形になった。


「GYASaw3&%$E%#%%#&$&$&$%$#%$#%’&~aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


ケルベロスは今までで一番不気味な声をあげて、6つの目が彼女をにらむ。まるで“やっと骨のある敵が来た”と言わんばかりに、どう猛な唸り声をあげて、彼女を焼き尽すために、その三つ首から魔炎弾を放とうとしていた。しかし、それは叶わず。


「睡蓮華」


ケルベロスがどす黒い魔炎弾を放つ前に、綺麗な漆黒の斬撃がケルベロスの3つの首を同時に掻き切った。


「gayae・・・・・・・ぁ」


三つ首を切られたケルベロスは、声にならない声を最後に出して、青色のポリゴンになって虚空に消えていった。


「す、すごい・・」


シュタッっと地上に降り立った少女は、まるで黒ずくめの天使だった。強くて、可憐で、そして何よりも綺麗だった。

少女は地上に降り立つと、あぜんとしている僕の方に向き返り、こう言った。





「君、名前は?」





「え・・・?あ・・・、ゆ、ユウキ、です」


「そうか、ユウキ君。君の勇気を買おう。私とともに来てくれないか」


そう言うと少女は僕に近づいてきた。近づかれるとわかる、少女は僕よりも全然背が高い、少女というには似つかない背丈だった。ちょうど僕よりも5~7センチ高いその姿は、やはり勇ましくて、可憐で、綺麗だった。


「私のクラン、レジスタンスへ」


突然のクランへの誘いに戸惑いを隠せない。


「って、あなた誰ですか」


「ン?ああ、スマン、申し遅れたな。私はレジスタンスというクランで、リーダーをしているアイだ。宜しく頼む」


アイさんと名乗る少女は、僕に向かって手を差し出し、握手を求める。その手は先ほどの攻撃とは打って変わって、繊細で真っ白な手だった。剣を握っていたとは思えないその華奢な体は、オーラを身にまとい、人を惹きつける魅力があった。


ただ、そんな彼女に「はいそうですか。宜しくお願いします」と言えるほど、僕の危険度センサーはぶっ壊れてはいない。なにやら怪しい匂いはぷんぷんするのだ。タクムのパーティーにいた時だって騙されてきたんだ。そう簡単に騙されてなるものか。


「で、そんなアイさんがなんで僕を助けてくれたんですか」


「たまたま森に用があったんだ。そうしたら、逃げ帰って来る連中がいたもんだから、どんな敵がいるのかと見に行ってみたら、君がいたんだ」


タクムたちのことだろう。逃げ帰った連中というのは。そんなところに居合わせるなんて、幸運だな僕も。ただ、今の答えは僕を助けた理由にはなっていない。僕を見殺しにもできたはずなのに。


「でも、なんで助けてくれたんですか、見殺しにもできたでしょう」


「ンー。そうだな。自分より強い敵に対して、一歩もひるむことなく、立ち向かった。その姿勢を買った。というのではダメだろうか?」


なんだそれ。どっかの熱血教師かなんかか。美化しすぎだ。ただ僕はあいつらに思い知らせてやりたかっただけなのに。そんな大それたことじゃなかったんだ。ただ、生き残ったやつらに、見捨てた人間の記憶を抱えて、生きてほしかっただけだった。

それなのに。


「美化しすぎです。僕はそんな人間じゃない。のろまで、クズで、最低な人間です」


「君がいくらそう感じようとも、君の闘う姿勢は素晴らしかった。勇気に満ち溢れていたよ」


あれは別に勇気なんかじゃない。ただの復讐心なんだ、わかっていない。僕はそんな高尚な人間なんかじゃないんだ。僕はあなたと喋れるような人間じゃない。あなたのように強さもない。可憐さもない。綺麗でもない。弱くて、どす黒くて、汚い。そんな人間なんだ。


「だから、そんな君をだな、ぜひ私たちのクランに招待したい。つまり勧誘だな」


そんな高尚な人間じゃない。

じゃないけど。

このクランに入っても、また裏切られるかもしれないけど。

それでも。

僕はこの人の慈悲に報いたい。

弱い僕を、惨めな僕を助けてくれたこの人のために働きたい。だって、今までの人生で、僕のことを助けてくれた唯一の人だったから。

だからこの人のために、できることならやりたい。と、この時の僕はそう思っていた。


「僕はあの時、あなたが助けてくれなかったら、ケルベロスに焼き殺されて死んでいました。だから、助けられた分、あなたに報いたい!だから僕、なんでもします!」


それは僕の本心だった。助けてくれた恩義を返す。それが僕にできる唯一のことだった。

しかし、僕の独白の一方で、彼女の反応は芳しいものではなかった。


「報いる、か。それは違うよ、ユウキ君。君のように絶体絶命の場面で自分の心を奮い立たすことができる人間は少ない。その力は何にも代えがたい力だ。そんな君の力を、私に課してほしい。私にないその力を持つ君なら、ついにやってくれるかもしれないから。だから君の力を、私に預けてほしい」


「・・・・?それって、どういう?」


「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ。それよりも、なんでもするということは、レジスタンスに入ってくれるという認識で構わないか?」


「・・ハイ。できることなら、なんでもします!」


ポーション運びだってかまわない。剣を研ぐことだってかまわない。タンクになって盾になってもいい。なにかこの人に、唯一僕を助けてくれたこの人のためになることがしたい。


「そうか。断られるのを覚悟だったが、訊いてみるもんだな」


コホンと咳払いすると、アイさんは続けてクランへの招待メッセージを僕に送信した。

続いて、≪to:ユウキさん 見知らぬプレイヤーからのメッセージです。 クランへの招待のご連絡です≫のメールが、ポップアップに表示される。

ここにサインすれば、僕はアイさんのクラン、レジスタンスに参画することになる。聞いたこともないクランだが、アイさんがクランリーダーをしているということは恐ろしく強いクランなのだろう。

一抹の不安を抱えながら、僕は送られてきたメッセージに≪ユウキ≫とサインをする。

いいんだ。僕の役目は、別に仲間を作ることじゃない。この人のために、動くことだから。

サインして、アイさんに返信をすると、アイさんは満面の笑みで僕の方を見つめた。


「これで登録完了だ。ようこそ、私たちのクラン、レジスタンスへ。これからよろしく頼む、ユウキ君」


その言葉に赤面しそうになりながら、小声で照れ臭そうに「はい・・」という僕がいた。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


レジスタンスの本拠地が帝都にあるということで、僕とアイさんは帝都に来ていた。


移動の中、アイさんに今までのクランでの実情や身の上を話していた。今まで散々、ポーションを配ったり、お金を貢いだりしてきたこと。僕が貧しい村の出身であること。お金を稼ぐために、強くなりたいこと。直近の話題だと、ケルベロスを前にして3人とも逃げてしまったこと。


「そうか、そんなことが」


レジスタンスに参画した時点で、タクムのクランからは自動的に退会することとなった。だから、タクムたちの愚痴を言っても、もう大丈夫になったわけだ。


「ユウキくん。今ならまだ戻れる。君を搾取する人間はもういない。君のご両親と穏やかに暮らすことだってできるんだ。」


「そう・・ですね」

僕の身の上話を聞いて、アイさん的に心配してくれているんだろう。僕の親の話とか、いじめられていた話。それら全部を含めて、僕を心配してくれているのがわかる。


「さて、どうする?レジスタンスは危険な任務が多い。君はそれでも私とともに戦ってくれるのか」


それでも、僕はこの人のために戦いたい。親のために強くなりたいとか、収入を沢山稼いで大黒柱になりたいとか、そういう気持ちも確かにある。でも根幹には、僕はこの人のために強くなって、この人を守りたい。そのためなら、この人の下でクランメンバーの一員として働いて、強くなりたい。


「僕を地獄から救ってくれたのは、あなたなんです。だから、今度はあなたを守れるくらい、強くなりたいんです。地獄から助けてくれたあなたを守れるくらい、強く。」


もし、あなたが地獄に行ったら、僕が助けてあげられるくらい、強く。強くありたいんです。


「そうか。なら、改めて歓迎しよう。頼りにしているぞ、ユウキ君」


彼女から信頼されている。それだけで僕がここにいる意味になる。


「はいっ!」


力強く返事をすると、アイさんが僕を見てニコリと笑った。

(どくん、どくん)

彼女のそんな表情を見て、少しにやけてしまう僕がいた。血管の中の血液が全身に駆け巡り、心なしか悪寒さえ感じる。心の中からマグマのような熱が沸き上がり、胸だけが熱くなっていくのが肌感覚で分かる。


なんだろう。この感覚。


僕はこの時はまだ、この感覚に答えを出せずにいた。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「うちのクランリーダーは口下手なんだ!どわははははは!気にするなよ、少年!」


帝都にあるレジスタンスの本拠地に行くと、早速めちゃくちゃチャラいお兄ちゃんに絡まれた。アイさんと帝都にあるレジスタンスに到着すると、総勢100人はいるであろうメンツが僕らを迎えてくれた。

レジスタンスの本拠地は、酒場のような雰囲気で、丸机が30個ほどはある少し大きな場所だった。その丸机に人々が座っている。みんなレジスタンスの隊員なのだろうか、面構えが違う。強者という感じがぷんぷんしてくる。


そして、その後、全体に自己紹介を兼ねて、僕がアイさんにレジスタンスに招待された経緯を説明したら、突然このちゃらいお兄さんが絡んできたわけだ。


「アイは、別にお前に入ってほしくないわけじゃねーよー。お前のことを心配しているんだぞ、少ォ―年!」


「こら、リュウ!うるさい!お前は静かにしとくことができんのか!」


「おーおーおー。怖いねぇ、今日もリーダーは!」


アイさんに怒られたチャラいお兄さん、改めリュウ。彼はチャラさ通りの短い茶色の髪で、身長も僕よりずっと高い。

役職は飛び道具を専門に扱う、ローグ。身に纏う防具も、軽さを意識した茶色の皮装備が主の様子だ。主な武器は後ろにある、どでかい・・手裏剣?

これがリュウの武器なのだろうか。まあステータスも確認した所、全く僕の及ぶ所ではない。さっきアイさんのステータスもチラ見させて頂いたが、リュウのステータスは、アイさんに負けず劣らずのステータスだった。会心率に特化したステータスぶりがなされていて、火力職担当ということなんだろう。


(僕が足手まといになるのは、確定っぽいな・・)


そんなこんなで話をしていると、奥から人をかき分け、なにやら2mはありそうな巨漢の男性がのっしのっしとやってきた。僕が見上げるサイズ感のその人は、荘厳な白銀の鎧に身を包み、右手には白銀の大楯を持っていた。

僕がその迫力にあぜんとしている中、リュウの近くに着くと、おもむろに口を開く。


「リュウ、アイを茶化すな。お前の悪い癖だ。新入りが来た時にはしゃぐのは」


彼の声はもろ、彼の特徴を反映した低い声の持ち主だった。


「ん?ああ、わかってるよ、んなの。お前はお前で堅いなぁ、もっと場を盛り上げるとかできねーのか?ゴウ」


「それは私の守備範囲ではない」


「はいはいはい、さいですか。わかりましたーよ、私が悪ぅーござんした!」


むっとした顔を見せてゴウと呼ばれた男がリュウをにらむ。しかし、そんなことをリュウは警戒も何もせず、お構いもなしに見てみぬふりをして、またべらべらと僕に「どこからきたのとか」「週末何しているか」とかそんなくだらない話を始めた。


ゴウと呼ばれる彼のステータスを見ると、騎士職。彼のステータスもアイさんに負けず劣らずのようだ。ただ守備力に関しては、アイさんよりも一つ頭を抜けている。タンクで、チームを守る立ち位置ということだろう。


そんなことで僕が関心をしていると、また奥から「あーーーーらーーーーーー!!!」というオバ様チックな声を出して、人をかき分けてくる人影がもう一つあった。


背丈はリュウと同じくらい、さっきのオバサマチックという言葉を反省するくらい端正な顔立ちとスタイリッシュな紫色の装備を身に纏う少女?女性が近づいてきた。


「新入りちゃん?めずらしいわねー、何この子!かわいいぃぃ!!!私の婿にもらっていいかしらぁ!!」


そういいながら、意外と巨乳だったその人は僕に思いっきり抱きついてきた。そのたわわな胸に窒息死しそうになりながら、頭の中で幸せを感じていると、今度はアイさんがその女性にツッコミを入れる。


「こら!サユリ!ユウキ君は私が連れてきた子だ!イチャイチャするな!」


そういわれると、「ちぇっ」という言葉を渋々その抱擁を解く。


「アイちゃんも、そんなことでメンヘラになってると、お嫁にいけないわよぉ」


「ばっ!よ、余計なお世話だ!」


アイさんを茶化すと何故かサユリと呼ばれたその女性は上機嫌になったのか、もう一度僕を強く抱擁した。


(この人、絶対Sだ・・。)


僕の中のセンサーが感じている、いじめて高揚感を得るタイプの人だ。サユリさんって人は。

この人のステータスもチラ見すると、やはりアイさんに負けず劣らずのステータス。ジョブは、魔術師らしい。その証拠に特殊攻撃力は、リュウやゴウ、そしてアイさんまでを抜いて一番高いステータスだ。

(強者ぞろいというか、強い人限定なのかな)

再びここでやっていけるのか不安になっていると、アイさんが「よし全員そろったな」と言って、おもむろに説明をしだす。


「コホン、ユウキ君。紹介が遅れたな。この3人、ここにいる毎度のことうるさいリュウ、そこにいる真面目なゴウ、で、君の今目の前にいるサユリ。この3人が私たちレジスタンスの副リーダーだ」


「よろしくなっ、少年!」


「よろしく頼む、ユウキ君?だったか」


「お願いねぇ、ユウキ君」


三人からの暖かい迎え入れのメッセージを頂いたあと、アイさんがレジスタンスの構成について、説明をしてくれた。


「彼ら3人は、私たちレジスタンスの副リーダー、つまり各隊の隊長として活躍してくれている。全員非常に優秀な仲間たちだ。彼らが30名ほどの隊員をそれぞれまとめあげている。ローグ隊、騎士隊、魔術師隊。この3隊が、それぞれお互いに相乗効果を出し合い、レジスタンスは高め合っているというわけだ」


「すごい・・・」


正直すごいとしか言いようがない。僕がいたクランは立った4人のクランだった。クランとは名ばかりの少年グループのようなものかもしれないが。それがレジスタンスでは100名ほどの隊員がいて、それぞれに隊長がいる。30名ほどの隊が3隊あって、それを全体で統括しているのがアイさんってことか。


どんだけすごい所に来てしまったんだ僕は・・。やっていけるのかと不安な気持ちになっていると、サユリさんが僕に向かって口を開いた。


「さあて、ユウキ君。私たちレジスタンスの、役割・・・。じゃなかった、目標が何かは知っている?」


「?お、お互いを高め合う事、じゃないんですか?」


僕がそう答えると、サユリさんは僕の方から、アイさんの方に向き直りながら答えた。


「うーん、それも合っているけど。・・もしかして、まだアイちゃん、伝えていないの?」


「ん?あ、ああ。まだ伝えていないな。すまない、急だったものでな」


「目標?」


目標ってなんだろう?クラン全体でお金を10億くらい稼ぐとか、この国を統治できるクランになるとか、そういったどでかい目標でもあるんだろうか。


そんなことをどでかいと思っていた僕にとっては、そこからサユリさんとアイさんが言う言葉のスケールがいまいちピンとこなかった。


「私たちはね、この世界に反旗を翻しているの」


「??????????・・・・・アイさん、それって、どういう?」


「説明をしておらず、すまなかったな、ユウキ君」


アイさんが一拍深く深呼吸をして、僕のことをじっと見つめてくる。その様子は今思えば、僕にとっては大きな人生のターニングポイントだったのかもしれない。




「私たち、レジスタンス(反旗を翻す者たち)は、この世界から脱出することを目標にしている」


「????」



「つまり、ユウキ君。この世界、今君が息をして、何かを食べ、誰かに裏切られ、誰かを愛するこの世界は、偽物の世界ということだ」


僕を見るアイさんの目は真剣そのものだった。そのまっすぐな瞳はうそをついている様子は、一ミクロンたりともない。それがまぎれもない真実ということを物語るごとく、彼女はレジスタンスの最終目標を僕に告げる。


「私たちの本当の世界は、“別”にある。その、私たちの本来の世界に到達する。それが、レジスタンスの最終目標だ」


「本当の世界は、別って・・。なにを言ってるか、さっぱり」


「そのままの意味だよ。ユウキ君。この世界は、君の元いた本当の世界ではない。この世界は、私たちのために新しく創られたゲームの世界なのだ」


「な、なんでそんなことがわかるんですか」


僕の父や母も、実際にこの世界で生活を営んでいる。生きている。まさしくあの古びた村は僕の出身地だし、父と母も明らかに僕の親だ。隣に住んでいる薬局ショップのおばさんだって、いじめられていたけどタクムだって、コータだって、アモンだって。みんな確実にこの世にいたはずだ。


「本当のことだ。これを見てほしい」


ヴォンッ!という音を立てて、アイさんの手から3D映像が僕の目の前に投影される。

どうやらアイさんが僕に見せてきたのは、99層迷宮の全体マップだった。


よくお父さんが二層のモンスターの狩場に出かけて、お金を稼いでいるダンジョン。危険なエネミーが多く住むとされていて、父にはあまり近づくなと警告を受けていたダンジョンだった。


「99層迷宮は、全部で99層のダンジョンで構成されている。この世界の地下に張り巡らされたこの地下迷宮世界は、森・雪原・噴火口・神殿などの、様々なステージがある」


知らなかった。99層迷宮はてっきり、なんか薄気味悪い感じの迷宮なのかと思っていたけど。まるで、


「この下にもう一つの世界が広がっているみたいですね」


「ああ、いい線を言っているよ、ユウキ君」


そういうと、アイさんは99層迷宮の全体マップをスライドしていき、一番最深部の99層迷宮を指さす。


「ユウキ君。ここに何があるか分かるか」


「・・・?なにって、お宝でしょうか」


「ウン。それもいい線を言っているな」


そういうと、アイさんはおもむろに地面に手を付け、呪文を唱える。


「透明化」


アイさんが地面に向かって呪文を唱えると、地面がどんどん透けて見えるようになっていく。たとえて言うならば、ソナーの魚群探知機のように色合いはわからないが、どこにどういったものがあるかを判別することはできる感じだ。


(こんなスキルがあるのか、きいたことない・・)


しかし、僕を含めて、多分アイさん以外には3層よりも下は、なにがどうなっているかは判別できない。下に空間があることはなんとなくわかるが、複雑に青い線が絡み合い、ごちゃごちゃしていてよく分からない。


そのソナーは果てしなく底の層まで届くようで、アイさんはじっと地面に手を添えて、その透明化のスキルを使用し続ける。どうやらアイさんは、全体像を俯瞰して透明化で見えるようだ。


すると、


「見えた」


何かを見たアイさんは突然そう言うと、手を地面から離した。


「今私のゲーム画面で、私の視界をスクリーンショットした。ユウキ君には、私の透明化で観た映像を見てほしい」


「は、はい・・・」


僕がそういうと、アイさんはにっこり笑って、自分の視界のスクリーンショットをこれまたヴォンッ!と僕の目の前に投影させた。

そこには、狭くて暗い洞窟の道の先に、何やら扉があるのが見えた。そしてその扉

の上の立て札には、次のように書かれていた。

:CONGRATURATIONS! WELCOME BACK TO YOUR REAL WORLD:


「こ、これは?」


「これは私が透明化のスキルを使用して視た、99層迷宮の最終ゴール地点の扉だ。ユウキ君、扉の上の文字は読めるかい?」


「はい、少しなら。・・・ええと、おめでとう、ようこそあなたの本当の世界へ・・ですか」


「そうだ。良く読めたな、ユウキ君。その英語、どこで学んだ?」


「え、そんなのきまっているじゃないですか・・。えっと・・・、あれ、どこだっけ?」


あれ、この言葉は知っているはずなのに。なぜか思い出せない。そして、英語?ってなんだっけ。どうしてこんな文字が読めるんだろう。


「なんででしょう。どこかで学んだ気がするんですけど」


「正しい反応だよ。ユウキ君。君の感じている違和感は、もちろんここにいるレジスタンスのみんなも感じている」


「えっ」


「読めるはずのない言葉が何故か読める。それは、私たちがどこかでこの文字を勉強していた、ないしこの言語で話をしていたという意味になる。ところで、ユウキ君。君は幼い頃のお母さんやお父さんとの記憶は思い出せるかい?」


「え・・・、はい!もちろんです。父は優しくて、家にはいなかったような・・・」


あれ。なぜかぼんやりとしか思い出せない。


優しかったとか、厳しかったとか、そういった感情はなんとなく思い出せる。しかし、どこに住んでいたとか、どんなことをしていたかとか、そういった実際に目にしているものは思い出せず、ぼんやりとしている。まるで、景色とかそういった情報が、すべて上書きされて削除されてしまったみたいに。

父と母と一緒に過ごした感情しか思い出せずに僕はいた。


「なぜかあまり鮮明には思い出せません。でもそれがどうしたっていうんですか。思い出せないのと、本当の世界があるというのに何の関係が?」


「つまりだ。私たちは、本来いた世界の記憶を、何者かに書き換えられて、このゲームの世界に幽閉されているのではないだろうかと推測している」


「!」


本来いた世界の記憶を何者かに書き換えられて、このゲームの世界に幽閉されているだって?

そんなことあるわけ・・、とあぜんとした僕の心を見透かすように、隣にいたサユリさんが口を開く。


「ユウキ君。あなたの思っていることは正しいわ。そんなことあるわけないって、思っているんでしょう。でも、99層迷宮最深部にあるゴール地点のあの言葉と、私たちの記憶の曖昧さや齟齬を鑑みるとね。あり得ない話じゃないと思うの」



「そうだぜ、少年。俺もさぁ、たまに自分の親父とお袋の実家に帰ると、何かが違うだよなぁって思うわけよ。少年もそんなことない?もしあったら、俺らと一緒に、この99層迷宮最深部まで行ってよ、ちょっぴり確認してみねーか!」


リュウがサユリの後に続けて陽気な顔で言う。本当にもう一つの世界があって、その世界が僕たちの世界なのか?にわかには信じれない。そんな疑心暗鬼の様子の僕を、慮ってかゴウが口を開く。


「ユウキ君。君がアイの言っている推論を信じることができないのもよくわかる。私もレジスタンス入団当時、信じることはできなかった。この世界でクエストを受注し、お金を稼ぎ、当たり前に生きていることに、なにも違和感を私は感じなかったからだ」


だったら、なんで、こんな推論を信じるんですか。

あまりにも証拠がなさ過ぎる。この99層迷宮最深部の下に続く世界が、もしかしたら振出しに戻る形式で、僕らがいる今の世界に戻るかもしれないのに。


そういいたくなる気持ちもあった。しかし、その後、ゴウの言葉を聞いて僕も考えが変わったんだろうなと、今になれば思う。


「しかしだ。私は、アイを信じる。私のことを窮地から助けてくれたのは、アイだ。それはサユリも、リュウも。そしてほかのみんなも同じだ。このレジスタンスにいるメンバーは、全員アイに命を助けられている」


ゴウが全体を見渡すと、みんなが一斉にうなずきだす。

今はこんなに強いゴウさんも、サユリさんも、リュウさんも、僕とおなじようにアイさんに助けられたってことか。


「だから、私は命の恩人であるアイを信じている。もちろん元の世界の存在を信じていないメンバーもいるかもしれん。しかし、アイの掲げる旗のもとに、皆この身を賭して我らがクランリーダーのために戦うつもりだ」


・・・ここにいるみんなが、アイさんを命の恩人だと思っている。だから、そのアイさんの言っていることがハチャメチャであっても信じぬく。そうゴウは言っているのだ。


ハチャメチャだ。理論も全くない。証拠も不十分だし、なにより、元の世界に戻れる保証もない。それなのに、レジスタンスのメンバーはアイさんの旗の下に集まっている。

どうかしている。


そんな渦中のアイさんが続いて発言した。


「現状、99層迷宮の最深部までは程遠い。私たちレジスタンスが、攻略を完了しているのは12層まで。13層は先日チャレンジしたが、強いエネミーを前に私たちは撤退せざるを得なかった。」


アイさんは僕ではなく100人近くいるレジスタンスのメンバーを見ながら、唇を前歯で噛み仕切りながら言う。


「13層攻略では、100人という、多くの犠牲者を出した」


大きな責任感や、謝罪の気持ちの入り混じった、アイさんの悲痛な顔を今でも忘れられない。


「私たちは必ず、消えてしまったあの子たちのためにも、この世界の根源たる99層迷宮最深部、つまり99層に到達する。それが、あの子たちのために、私ができる唯一のことだ。私を信じてくれたレジスタンスの仲間のために、戦う」


そうして、最後にアイさんが僕の右肩に手をのせ、話しかけてくる。


「ユウキ君。君を無理に連れて行こうとは思わない。私たちが行うのは、危険なダンジョン攻略だ。実際に、100人の隊員がHPをゼロにし、この世から消えてしまった。君だって消えてしまう危険がある。だから、無理強いはしない。君は、どうしたい?」


・・・・・・。


10秒程度、考えた後に僕は僕の意見を述べた。



「僕は、あなたのために戦います。アイさん。あの時決めたんです。あなたが僕を地獄から救い出してくれた時、あなたに尽くそうと決めたんです。だから、アイさんの掲げる旗が不安定なものであったとしても、その旗を掲げるあなたを守るために僕は闘います」



それが僕の率直な意見だった。

みんながアイさんに尽くすことは、みんなの過去を知らないから僕には理解できない。

確かに同化していると本気で思う。

でも、僕個人のことを考えたら、アイさんが無茶苦茶なことを言っていたとしても、僕はこの人を守るために、戦いたい。

そのために、ここにきた。そこには何も変わりはないんだ。あの時にした決意に、嘘はない。


「行ってやります。99層迷宮の最深部まで」


そう宣言すると、アイさんの表情が笑みと申し訳なさの入り混じった表情になり、その綺麗なオレンジ色の瞳にうっすら涙さえ浮かべながら、この世界で一番さみしい言葉を聞いた。


「ありがとう。ユウキ君」


その表情は、悲しみと喜びが混在する、何ともさみしい表情だった。

そんな悲しい顔をしないでほしい。

そうアイさんに思う人間が集まったのが、このレジスタンスという組織なのかもしれない。

リュウも、

ゴウも、

サユリさんも、

他の隊員の皆さんだって、

アイさんにこんな悲しい表情をさせたくなくて、彼女の隣にいて彼女を励まし続け、戦い続けるのだろう。


彼らの各々の気持ちを量り知ることはできないが、

その部分では、僕も同じ気持ちなのだろう。


かくして、僕は正式にレジスタンスのクランメンバーになった。

アイさんの隣で、アイさんを守るための戦士になるために。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


時は過ぎ、あれから一か月の間。


あれから僕は各隊長とアイさんから、超絶スパルタ修行をつけてもらい、レベル上げを行った。メインの隊長に選んだのは、ゴウさん。ゴウさんの隊に入隊し、ゴウさんに盾の手ほどきなどを一か月間死ぬほどの思いをしながら、学んだ。


かつてレベル7だった僕のレベルは、今では50になった。各隊長のレベルが90台で、アイさんに至っては99レベルだから、まだまだではあるが、一端の隊員として活躍できるレベルになった。かつてのタクムよりもレベルが高くなった瞬間は感慨深いものがあった。


各隊長のことも深く知ることができ、一緒に同じ飯を食べ、一緒の布団で寝た。


このギルドが、アイさんが一人一人に声をかけ、大きくなっていったこと。リュウや、ゴウ、サユリさんとの出会いもたくさん教えてもらった。


各隊長やアイさんと99層迷宮の二層や三層に行くこともあった。徐々に、みんながアイさんのためにレジスタンスで働く意味が分かってきたような気がしてきた。


全員が、アイさんのような人間になりたいのだ。

ピンチの人を守り、

自らが率先して危険に立ち向かい、

誰にも優しく接し、

人の話を深く聞いてくれる。


そんなアイさんという人間に、皆ある種惚れているのかもしれない。

あんな人間になってみたいというオーラが、アイさんにはあった。



そんなこんなで、レジスタンスにようやく僕が馴染んできた一か月後というこのタイミング。

ついにアイさんが、99層迷宮の13層の攻略会議を行うというアナウンスを告げた。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

攻略会議は、いつものレジスタンスの本拠地で行われた。

アイさんからの作戦説明も終わり、会議自体も終わりに差し掛かろうとしていた。




「きたる、明日。我らレジスタンスは、99層迷宮13層攻略作戦を実行する。13層のボスモンスターは既知の通り、ジェイソン・ボーヒーズ、大鉈とチェーンソーを武器とする大男だ」



99層のボスモンスターは、ジェイソン。どこかで聞いたことがある名前である気もするが、どこで見たのかは鮮明には覚えていない。だが、レジスタンスのメンバーが何人も犠牲になり撤退したという、まさしく宿敵ということになるだろう。今の僕ならば、アイさんの役に少しでも立つことができるかもしれない。


僕の今の職業は、盾戦士。


かつてのタクムや、アモン、コータと同じ二次職を選んだ。大きく分けて理由は二つだ。


一つ目は、今の僕にできることは何だろうと考えた結果、この二次職に決めた。なんやかんやで、動き方を予め知っていたのは、大きな要因だろう。タクムやアモン、コータの盾の扱いを近くで見ていたから、盾の扱いは少々心得があったんだと思う。


そして二つ目は、彼らを超えたい、という気持ちだ。彼らとの記憶を乗り越えたいという想いも、内心では二次職に盾戦士を決めた理由にもなっているだろう。


今度は僕がアイさんを守れるように、この盾でアイさんを守りたい。



「苦しい戦いになることが予想される。だが、断じて我らは諦めない。99層に到達し、本来の世界に戻るその時まで。戦おう、みんな」


「オオオオオオオーっ!!!!!」


レジスタンスの隊員全員のすさまじい雄たけびが、本拠地の中に響き渡った。

来たる13層攻略は、明日の朝に迫っていた。


「・・・・」


とうの僕は、いまだ不安をぬぐい切れていないまま。


☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾☾★★★★★★


13層攻略の前夜、僕は本拠地近くのレストランで、四人掛けの机で一人食事をしていた。次の日に迫る決戦を前にして、どうにも気持ちが落ち着かなかった。これまでの特訓の成果は十分だったろうか、ちゃんと明日の攻略ではアイさんの役に立つことができるのかとナイーブになっていたからだ。


「不安だな」


ここ最近で、自分のナイーブな側面は解消したはずだったのに、いかんせん解消できていなかったらしい。アイさんを自分が守れるのかとか、いらないことまで考えてしまっていた。



「僕・・・、明日の攻略にいるのかな」



そんなフルオブナイーブな状況な中、鎧をカチャカチャと鳴らして、なにやら2mはありそうな巨漢の男性がのっしのっしと、僕の前方からやってきた。僕が見上げるサイズ感のその見知った人は、荘厳な白銀の鎧に身を包み、右手には白銀の大楯を持っていた。


ゴウだ。



「どうした。今はみんな本拠地で、明日のための武器の整備や防具の手入れをしているぞ」



ゴウは僕が座っている四人掛けのテーブルの目の前の席に座ると、店員を呼び、僕と同じくサンドウィッチを頼む。

戦闘前日や前夜はあまり酒は飲まず、こうしてサンドウィッチなどの軽食で済ませて、おなかの調子を良くしておくことが望ましいと、そういえばゴウさんの特訓で教わった。



「そうですよね・・・スミマセン。なんか。一人になりたくて」


「・・・不安、なのか?」


「えっ」


「いや、今のユウキ君と同じような顔を、良く戦闘前にしていた人間が、昔にいたもんでな。ソイツも内心の不安が、顔に出やすいタイプの人間だった」


「そんな人・・、ゴウさんの知り合いでもいたんですね」


「ははは。そうだな。そいつは今レジスタンスで、隊をまとめる隊長をやっているよ」


「え・・・、それって誰なんですか?」


「それを聞くか。君は」


「あ、スミマセン。失礼でしたよね」


「ふふ。まあいい。その臆病者はな、私だよ」


(えっ・・・)


一瞬ゴウさんの話が信じれなかったが、ゴウさんの瞳を見ると、その瞳には一点の曇りもなく、それが本当のことだということを物語っていた。


「私は、このレジスタンスには2年前にきた。当時の私は君と似ていたよ。下手すれば君よりも臆病で、怖がりだった。前線にでてエネミーに対して剣をふるう度胸もなかった」


今の全線で勇猛果敢にタンクを務めて、レジスタンスの前衛のリーダーでもあり、騎士隊の隊長でもあるゴウさん。そんな人が、僕と同じだった?にわかには信じがたかった。


「私が剣も振るえずにいたあるとき、私は私の家族と99層迷宮の2層に狩りに行った。よく家族で、2層に狩りに行く習慣があったのだ。討伐クエストでの金稼ぎと、私の特訓も兼ねてな。私の父と母は剣使いの中でも指折りの猛者だった分、今思えば、私の両親は慢心していたのかもしれんな」


そういいながら険しい顔をゴウさんはした。今までそんなゴウさんの顔をみたことは一度たりともなかった。



「2層のボスエネミーに、両親は殺されてしまった」



「!」


ゴウさんの両親が、殺された?

僕の父もよく99層迷宮の2層ボスを狩って、お金の足しにしてくれている。2層のボスがそんなにも強いとは聞いたことがない。なんで、手練れであるゴウさんの両親が死ぬんだ。



「99層迷宮では、ごくまれにボスエネミーが変わることがある。乱数の問題で、レアモンスターが通常時にポップするボスエネミーの代わりに出現するのだ。私の両親は、それに出くわした、外れくじを引いてしまったわけだ」



外れくじ・・。確かに、99層迷宮区では、ボスエネミーが4000分の一とかの確立ではあるが、超絶強いレアエネミーに変わることはある。しかし99層迷宮区の最初の層付近のエネミー戦では、逃げることもできたはずだ。なぜ・・


「両親は慢心をしていた。私を守りながらでも、絶対に勝てるはずだと。まだ剣もまともに触れなかった私を背後に抱えても、勝てると舐めてかかっていた。しかし、私を守りながら、レアエネミーに勝つことはできなかった。レアエネミーの強さが想像以上だったのだ。結果、私を置いて、二人は死んでしまった」


「・・・・・・そのあと、ゴウさんはどうなったんですか」


「はは、おびえてしまって、その場で硬直してしまったよ。私を守る両親は二人ともレアエネミーにやられてしまって、残された獲物は私一人だった。もうダメだ。両親と死ぬしかない。本気でそう思った。その時だ、私がアイと出会ったのは」


アイさんとゴウさんとの、経緯か。なんだか、僕と似た境遇だ。


「アイは漆黒の閃光のように、レアエネミーに突進していった。アイは私を守りながら、レアエネミーをたった一人で倒した。その時にはもう、彼女についていくことを心に決めていたのかもしれんな」


ゴウさんは、あの時のことを思い出しながら、くすっと笑った。



「その日中には、レジスタンスに入団を決めた。両親のために強くなることはもう叶わないが、私を助けてくれた命の恩人のために、働こうと決めたのだ。そして、私は騎士職になった。人を守りながら、エネミーに勝つことは至難の業。そのことを誰よりも知っている私なら、騎士職ができるのでは、と」


僕の盾戦士は、3次職である騎士職が絶対に通る道だ。僕もアイさんのナイトになりたいと思って、この職を選んだ。でも、今のゴウさんと比べて、僕の実力差は歴然。火を見るよりも明らかだった。

 

「明日、足手まといになるかもしれないんですよ」


「足手まといか」


「はい。僕のこの盾じゃ、誰も守れないかもしれない。守りながら戦う事の難しさを、この特訓の1か月でゴウさんに教わりました。けど、僕にできるでしょうか。アイさんを守りながら、闘うことが」


「はは。できるさ、君なら。アイに救われ、アイのために盾を持つ戦士になったものは、皆いい騎士に成長していく。気持ちが乗っているからだ、盾に。誰かを守りたいという気持ちで、君はこの1か月間の特訓に耐えて、1か月で40レベル近くも成長した。1か月頑張った自分を信じるんだ。ユウキ君」


・・そういわれると、なぜか少し力が湧いてくる。


僕はこの1か月、ゴウさんメインでみっちり指導をしてもらい、今のこのレベルに達することができた。アイさんが作戦立案などの他の仕事で忙しい中、僕にほとんど付きっ切りで教えてくれた。


ゴウさんのためにも、明日、頑張らなきゃ。


絶対に13層を攻略しよう。そう心に誓ったのだった。


そして、夜は更け、日はのぼり、13層の攻略の当日の朝がやってきた。


☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀☀


13層攻略の朝は、肌寒い朝だった。総勢100名のレジスタンスメンバーは、帝都近くにある転移ゲートにいた。

99層迷宮は99層という地下に長い迷宮であるため、もし1層から13層に歩いて向かおうとすると、途方もない時間がかかってしまい、途中でボスを再度倒す必要もある。だから、もうすでにボス部屋までのルートをマッピングしてある13層まではこの転移ゲートで、移動するというわけだ。転移ゲートを使うことで、13層のスタート地点に瞬間移動することができる。というわけで、99層迷宮の入り口ではなく、ここ帝都の転移ゲートに朝一できているというわけだ。


昨日ゴウさんと話をしたおかげで、心なしか緊張も解けた。強敵を前にする不安という魔物が正直、心の中にまだ居住を構えているものの、大丈夫だ。大丈夫。と僕は自分に言い聞かせていた。


そうして、手に人の文字を3回書き、口で勢いよく吸うという、お決まりの動作を僕がやっていると、アイさんが声をかけに来てくれた。


「ユウキ君。どうだ、調子は」


「あ、アイさん。万全です。頑張ります僕」


「ハハ、そうか。あんまり気張るなよ」



そういって、アイさんは僕の背中をバンバンと叩く。これもアイさんなりの励まし方なんだろう。ただ、力が強い、強い。戦闘前にダメージを受けそうなくらいには強い。



「ぐはっ、頑張ります」



アイさんは僕の返事に、「よしっ」というと、リーダーらしく付け加えた。



「もし君にもしものことがあったら、その時は私が君を助ける。絶対に死なせない。だから、安心してくれ」


「ぼ、僕もアイさんを守ります!いつまでも守られっぱなしじゃ、いやです!」


「!」


アイさんが僕の発言に驚いた様子を見せた。無理もない、僕のレベルは50に対して、アイさんは実質この世界では一番強いレベル99なんだから。

でもアイさんから言われたのは、あきれた一言でも、心のこもっていないありがとうでも、どうせ私が助けるといった諦めでもなかった。



「そうか。ありがとう、ユウキ君。信じているよ、君がいつか私を救い出してくれると」



アイさんが普段見せない、悲しげで悔しげな顔から出たのは、アイさん自身の悲痛な叫びに、僕には聞こえた。



「はい、必ず。なにがあっても」



僕の返事は、もちろん決まっていた。今思えば、ずっと僕は自分に正しい道に進んでいた。ただ、救い出すという言葉の意味を、この時はわからないまま。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


アイさんの事前説明では、13層:ジェイソンがボスエネミーであるこの層は、死海と呼ばれ、生い茂った大樹が生える森の迷宮らしい。薄気味の悪い濃霧と、膨大な数の大樹が、人の方向感覚を失わせる。そして、厄介なのはこの大樹、ひとを喰らう大樹らしい。大樹に寄りかかって休憩している人、足が遅い人を、ご自慢の太い根っこで次々と地中へと引きずり込み、喰らっていく。集団行動はマストになって来るダンジョンだ。


レジスタンスがマッピングできてるのは、ごくわずかな範囲だけ。ボスのいる空間と、13層の入り口を結んだルートだけらしい。アイさんの透明化のスキルによって、全体を見た感じでは、1万キロはあろうかという広さらしく、今までの1層から12層の中では比べ物にならない広さらしい。前回ジェイソンに負け、多くのレジスタンスの仲間が、森中に離散。そのまま100人の隊員が行方知れずになってしまった。


アイさんが残った隊員100人を13層の入り口まで非難させてから、残りの行方不明になった100人の無事を確かめるために透明化のスキルで森全体を視認すると、すでに行方不明者は大樹に飲み込まれた後だったという。


結果的に、

生存者は103名。

しかし、死亡者・行方不明者は101名にも及んだ。


死亡者・行方不明の内訳は、騎士隊が24名、ローグ隊が22名、魔術師隊は一番損害を受け52名だった。


けがを負った身で樹海をさまよった挙句、足が遅い隊員は大樹に飲み込まれ、残りの足が速い隊員も負傷のため木に寄りかかるなどして、木に食われてしまったのだという。

その中でも、一番足が遅く、MPポーションが尽きると、厳しい戦いを強いられる魔術師が最も損害を受けた。



(もう、これ以上、アイさんの仲間を危険な目には合わせたくない。)


そうして100人の転移が終了した。


僕たち100人の隊員は、13層入り口に転移されると、アイさんが全体に注意勧告をする。


「みんな、この森は、濃霧と人食い大樹の生い茂る死海だ。作戦通り、100人全員が高速で動き、ボスのいる空間までたどりつく必要がある。リュウたちローグ班は、根っこを切り刻みながら進んでほしい。ゴウたちナイト班は、誰かが襲われそうになった所を盾で防ぎながら進行してくれ。サユリたち魔術師班は、人食い大樹の根っこの攻撃を防ぐ防壁を張りながら、また火炎弾で応戦しながら動いてほしい」


アイさんは先日の作戦会議の内容を、反復するようにみんなに伝える。


「集団行動がマストだ。みんなお互いの距離感を近めて、ボスのいる空間まで無傷でたどり着こう」


「「「「はいっ!」」」」


全体の気持ちいい返事の後、僕らはジェイソンがいる空間に向かった。

僕らはこの時、ボスが既存の空間からすでに移動しているとは思いもせずに。


●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

死海の奥底。先天的な病により奇形になった顔、黒いジャンパーを着た大男が大樹の根っこの上に座っていた。不気味な息遣いとうめき声をあげながら、13層の入り口付近の敵に気が付き、目を覚ましていた。そのジェイソンの脳天には、深く刻まれた刺し傷があり、その奇怪な顔をより一層際立たせている。



「ugagagaaaaaaaaaaaaaaa,あああぁぅあ類、wake up、何か月ぶりの客人だin ages. 」



ジェイソンの下の大樹の根っこでさえも、うめきながら返事をしているようだ。

ジェイソンのその言葉は、なにか言葉であって、言葉ではない。そんなまがまがしさを感じさせる言語だった。


「sorry to keep your f###### waiting, お出迎え,し、二ヒ!」



ジェイソンはその奇形な顔に、真っ白なホッケーマスクをかぶり、白いインナーシャツの上に黒いコートを羽織り、黒いズボンを履いて、戦闘態勢に入った。


●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「火炎弾!シールド!」


魔術師が迫りくる大樹の根っこに向かって、効果抜群の火炎弾を放ちながら、敵に降りかかる根っこに関しては、シールドで防ぐことを繰り返し、進行する。


「シールドアタック!」


魔術師が襲われた時には、盾をもつ騎士職の隊員がシールドで根っこの攻撃を防ぐ。


「スラッシュ!」


そして弱った根っこを、切断していくローグ隊。


完全に役割分担はできていて、誰一人としてかけることなく、森の中の開けた場所に着くことができた。開けた場所なら、大樹も周りになく、もし大樹が森の中から攻撃してきても、ある程度対処できそうであった。というわけで、アイさんの号令で、ここで一度休憩ということになった。


「ひとまず、ここで休憩しよう。みな、ポーションやMPポーションで、回復をしてくれ」



「ふぅ」


ようやく一度呼吸が置けた。入り口からずっと緊張の糸を張っていた。誰かが襲われたときにはシールドアタックで、根っこの攻撃を防いでいた分、周りに気を配っていたのだ。僕がポーションで自分のHPを回復していると、ゴウさんが話かけに来てくれた。


「どうだ。調子は?」


「ぼちぼちです。周りのことを気にしながら進むのに慣れていないので、少し大変ですが」


「そうか、まあ無理はするな。HPが足りなくなったら、隊の中央に行くんだ。根っこの攻撃に合わなくて済む」



隊の中央にいれば、その周囲の隊員が根っこに対して攻撃をしてくれる。その分、楽ができるというわけだ。だから、HPがなくなったり、MPがなくなった魔術師が、隊の中央に戻り、ポーションで回復。その後、もう一度前線に戻るようにして、隊の外側で根っこと戦うという形で、ここまで移動をしてきた。



「HPの減りには気をつけて進んでいけば、大丈夫です。だから心配ありません」


「頼もしいな。君の頑張りは、この一か月で特訓を担当した私が保証しよう。君なら絶対に・・」



ゴウさんがその言葉を言うよりも前に、チェーンソーの不気味な機械音が突然森中に響き渡った。



「!?」



(チェーンソー!?の音?)

アイさんの説明では、ボス部屋まではまだまだのはずだったのに、なぜチェーンソーの音が聞こえるんだ?数ある選択肢の中である可能性は、チェーンソーを持っている他のエネミーが近くにいること。もしくは、ボスエネミーであるジェイソン本人が近くにいること、この二つだ。

(ジェイソン以外っていうのは、希望的観測すぎるか・・)



「っ!全員、戦闘態勢に移れ!」



あまりの唐突な出来事に、アイさんは困惑しながらも全員の士気を下げることなく、全体に指示を出す。ボスのいる空間までは距離があるはずだが、あきらかにチェーンソーの音が聞こえてくる。アイさんたちレジスタンスの隊員100人を死に追いやった張本人のものなのか。この時点では判別はつかない。しかし、アイさんの作戦説明によれば、チェーンソーをもっているエネミーは一体しか確認されなかったという。それがボスエネミーであるジェイソンだ。


となると、このチェーンソーの音は、ジェイソン本人が近くにいるという可能性にほかならない。



「警戒を怠るな!どこから飛び出してくるか分からないぞ!」



アイサンの説明だと、ジェイソンは森を味方につけているために、根っこに攻撃されることはない。加えて、根っこの蠢きが、ジェイソンの大柄な足音をかき消す材料になっているのだという。


(どこだ!どこにいるんだ)


ジェイソンの体長はだいたい4m。武器は鉈とチェーンソー。しかし、一番やっかいなのはその体や、武器ではない。一番のやっかいなことは、不死の体であることだ。


ジェイソンは先のレジスタンスの攻略の際に、アイさんが脳天に向かって放った斬撃をもろに受けており、脳を一部損傷している。


前回攻略の際にはしっかりと言葉を話していたらしいが、アイさんに脳天を貫かれてから、凶暴性を増したらしい。推測だと、脳天を貫かれたことによる言語能力障害や、理性障害を引き起こしている可能性が高く、より一層凶暴化・錯乱化しているという。


(脳を貫かれても死なない体で、そしてなお強くなるって、バケモンだ)


レジスタンスの隊員全体で、四方八方、上を確認する。チェーンソーの音は段々大きくなっていくが、いまだジェイソンは姿を現さない。

と、レジスタンス全体で不安感があるとき、



「まーしった、dayo」



ジェイソンが真下からまるで巨大モグラのように出現し、その場にいた10人ほどの隊員を空中に吹き飛ばしながら、出現した。


運悪くジェイソンの真下にいた魔術師隊が10名吹っ飛ばされ、空中を舞う。そのすきにジェイソンは、両手にもつチェーンソーで、空中の10人を一閃しようとする。


「させるか!」


一瞬の判断で、リュウがローグ特有のものすごい速さで、ジェイソンのチェーンソーに向かって、自慢の大手裏剣で立ち向かった。

ガギガギガぎンッ!!!という爆音を鳴らして、ジェイソンのチェーンソーと、リュウの大手裏剣がぶつかり合う。しかし、チェーンソーの攻撃力の方が勝っているのか、徐々に大手裏剣を切断されていくのが分かる。


「げっ、コイツ!」


とっさに大手裏剣をチェーンソーとの鍔迫り合いをやめ、リュウはジェイソンから離れた。目的である、空中に浮遊している魔術師10人は助けられた。彼らはすでに落下のダメージは受けているが、HPが全損になるほどの致命傷ではなかったらしく、みな立ち上がって

ポーションを飲み、戦闘態勢に入りなおす。


同タイミングで、


「メキメキメキメキメキメキメキメキ」


そんなジェイソンが先ほど出てきた地面の穴から、大樹の根っこが数えきれない本数生えてきた。その根っこがレジスタンスの隊員を一人ずつ狙って、地面に引きずり込もうと、ものすごい勢いで隊員に突進してくる。


「シールドアタック!」



それをすかさずゴウが、自慢の盾で防ぎ、なんとか、ジェイソンと大樹の根っこの急襲作戦を回避することに成功した。

ついに、13層最初の戦いの火ぶたが切って落とされた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ガギン!ガギン!という音を立てながら、リュウと、ジェイソンが戦っている。しかし、リュウにはジェイソンのチェーンソーは分が悪いらしく、リュウの大手裏剣はみるみるうちに傷ついていった。



「ふぅーう。そのチェーンソー、いつ見てもぶっ壊れ性能だな」


「YEAHHH,am,お前知っているぞ。何か月か前に、俺からrun awayしたガキone of them.素敵な顔だち、殺す」


「うるせぇえ、黙って駆逐されろ、ジェイソン」


「それは、impossible。誰もこの森から出さない。’ll be death.ABSOLUTELY・・・・・・・・uう、gaggaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?!?!?!?」


「セイントボール」


リュウが話している間、後方にいたサユリがジェイソンに向かって聖魔法を放たれた。淡い光の光球はゆっくりとジェイソンに近づき、彼の肌に触れると、制属性の小爆発を生み、ジェイソンにダメージを与えた。


「そこおお、ブツブツ話してないで、ちゃんとお姉さんもいるんだよぉ」


サユリが皮肉っぽく、さも寂しそうな顔をして言う。

前回のレジスタンスとジェイソンとの戦いでは、ジェイソンの攻撃を前に、離散した。そして、大樹の枝に一番被害を受けたのは、魔術師隊、サユリさんの隊だった。サユリの隊は、他のどんな隊よりも大きな隊であったが、その損害により半分以下まで隊員の数を減らした。この戦いで、最も責任を果たしたいのは、彼女なのだろう。


「うsが、saint 聖属性、I hate it, 遠くから打ちやがっててめえ。でも君のこと、ジェイソン覚えてるよぉ、last time 大樹の根っこがたくさん食べた、job.君みたいな人is was so many lol.かわいそうに,かわいそうにpoor youニヒ」


「・・・・・はーい、テメェ。ぶっころしまーす。神聖気炎砲弾。」



サユリさんは先ほどの寂しそうな顔から、怒りに満ちた表情に一変する。長い詠唱寺間を伴う大魔法を唱えるために、サユリさんはジェイソンに向けて両手のひらを向けて、詠唱を開始する。


「二ひ、ニヒにヒヒヒヒヒヒいいいいい!」


しかし、その隙を逃さんとばかりに、ジェイソンがサユリさんの前方にいるリュウを大ジャンプで飛び越えて、チェーンソーで切りかかった。4mはあろう大男とは思えない身のこなしに、リュウは反応が遅れる。



「しまった!サユリ!」


リュウの頭上を飛び越え、ジェイソンがサユリの目の前に向かおうとしている。アイさんは、空中に放り投げられた魔術師たちの援護にあたっている。ゴウさんも、地中から伸びてきた大樹の根っこから他の隊員を守っている最中で、サユリさんのところまで行くのには間に合いそうではなかった。


リュウは、サユリのもとに、その自慢の神速を活かして、駆け寄ろうとする。

しかし、その瞬間に、地中から伸びてきた大樹に足を絡められ、身動きが取れなくなる。



「っ、くそっ!」



リュウが叫んだ時にはもうすでにジェイソンはサユリさんの目の前にたち、チェーンソーを右から左に向かって一閃した。全員が万事休すと思われた次の瞬間、

僕が盾を使って、ジェイソンの攻撃を受け止めた。


「!!!!」


運よくサユリさんの近くにいたおかげで、盾職で足が遅いといえども、サユリさんの近くにいたからこそ、サユリさんを守れた。しかし、ジェイソンのチェーンソーの力を前に、力負けしそうになる。



「サユリさん・・・!詠唱を続けて下さい!!!」


「ゆ、ユウキ君!」



僕がチェーンソーの攻撃を受け止めている間に、なんとか聖属性の大魔法を!そう思っていた時。



「チェーンソーは、僕チンの本当の武器じゃないんだ」



ジェイソンは両手もちから、左手のみでチェーンソーで切りかかるのに切り替えていた。その代わり、背中に背負う大鉈を右手で引き抜き、僕に向かって振りかぶった。


「ニヒ」


(死ぬ。)


とっさにそう思った。後ろのサユリさんの詠唱はまだ終わらない。しかも、武器の両手もち、2つの武器をいなせるほど、僕の盾スキルは上がっていない。しかし、サユリさんを死なせないためには、この大鉈を僕が受けきるしかない。しかし、受けきる道具は剣だけ。剣の腕をこの1か月では磨けなかった。自分の怠惰を今なら呪いたい。


(死ぬんだ、僕)


サユリさんを助けるためには、この剣で受けるしかない。しかし剣スキルがない僕にとってそれは、受けきれずに、僕が大鉈に切断されることを意味していた。


(ごめんね、アイさん・・・)


と心の中で、死期を悟っていたその時、

アイさんが、文字通り神速の速さで僕の目の前に立ちはだかった。



「死なせない」



その小さな声を聴いた後、僕の目の前には、

アイさんの噴水のような大量の血しぶきが綺麗に舞っていた。



「ア・・・・・イ・・・さ、ん?」



僕は声にならない声をあげていた。アイさんは、ジェイソンの大鉈に背中を向けて、僕を抱きかかえるようにして僕を庇っていた。アイさんの黒色の背中側の鎧は、もろに大鉈を受けた分、粉々に砕けていて、アイさんの背中さえも切り裂いた。

その背中から大鉈で引き裂かれたであろう、血と肉がほとばしって飛ぶ。筋肉の筋が宙を舞い、赤黒い血液が大鉈の軌道をなぞるように流れたのだ。



「あ、ああああああアイさん!!」



アイさんはその場で吐血し、僕を抱きかかえるようにしていた態勢から、僕に寄りかかる態勢に変わる。その苦しそうな息遣いから、先ほどのジェイソンの攻撃が重傷を負わせるものだということが分かった。


「アイさん、アイさん、アイさん・・、アイさん!」


僕はただアイさんを呼ぶことしかできなかった。アイさんを僕は抱きかかえると、僕の両手のひらにべったりと黒っぽい血が付く。内臓まで浸食しているのか、アイさんの背中はもはや筋肉が直にでていた。それでも、アイさんのHPは残り1割残っていて、まだ助かる余地があることを感じさせた。



「アイ!」



サユリさんが、詠唱を一時中断し、その場へ駆けつける。



「アイ!」



リュウも、自分の足に絡まっていた大樹の根っこを切り刻み終わり、僕とアイさんのほうに駆けつけ、



「アイ!」



ゴウも、根っこの攻撃を受けきり、こちらに近づいてくる。


今アイさんを治療すれば、助かるかもしれない。


しかし、ジェイソンがその隙に2つ目の太刀筋を大鉈で繰り出す。ジェイソンは、アイさんと僕もろとも、その大鉈で切り刻もうとしていた。リュウやサユリさん、ゴウの今の間合いではアイさんを助けることはできない。



「!」



アイさんを守らなければ。

まだアイさんに、息はある。あの大鉈を防ぐことができれば、隊長たちがここに来ればなんとかアイさんは助かるはず!



「オオオオオオオオオオオオオ!!シールド、アタッーク!!」



僕の雄たけびと同時に盾を前に突き出す。



「ユウキ君・・・・、やめろ!」



アイさんの声が聞こえた気がするが、今の僕の耳には何も入って来なかった。

大鉈と僕の盾が、ガギン!という音を立ててぶつかり合い、次の瞬間。


「ニヒ(笑)」


盾をジェイソンの大鉈が貫通し、僕の首を掻っ切った。


首を掻っ切られた瞬間は今でも覚えている。先ほどまで目の前で僕に寄りかかっていたアイさんの顔が、一瞬にして見えなくなった。首が吹き飛ばされたのだと気が付いたのは、僕の首が空中を浮遊しているときだった。


僕のHPゲージが6割・・、3割・・・、1割・・とものすごい速さで減っていく。ついには僕のHPはゼロになり、僕の頭も地面に落ちた。



「っっaaゆ・・、sき!やだ。dddやだ!・・・・・」



アイさんの悲痛な顔が僕の目に映った。今にも泣きだしそうな顔をしながら、僕の体を抱く。そして、血まみれになってしまった腕を僕の頭のほうに近づけてくる。しかし、その後ろには満面の笑みを仮面の奥にのぞかせたジェイソンが、アイさんに大鉈を再度振りかぶった。



「・・・・・・・・・!」



やめろ!ということも、アイさんを盾で再び守ることもできないまま、アイさんの首が大鉈で掻っ切られるその瞬間。

意識はなくなり、世界は真っ黒に染まった。


・・・・・・・・・。


(くそ、クソクソクソ!)

守れなかった。アイさんを守り切れなかった。それどころか、アイさんに庇われてしまった。アイさんは・・、死んだのかは、わからない。あのあと、隊長たちが間に合っていて、助かったかもしれない。でも、隊長たちが間に合わなくて、助からなかったかもしれない。)


(くそ、くそ、クソ、弱い弱い。僕は、なんて弱いんだ)


心の中で暗闇に向かって叫んだ。

結局、何も守れなかった。ただのお荷物だった。アイさんを助けるとかほざいておいて、ふたを開けてみれば、僕が助けられていた。アイさんを守る騎士になろうと思って、盾を握ったのに、その盾をいとも簡単に切断された。アイさんを守る人間になりたかったのに、最後にジェイソンに着られるアイさんをただ無意識の中で見ている事しかできなかった。


(くそ、くそ・・・、僕にもっと力があれば・・・、なにかできれば・・・アイさんを・・・・)


そんな後悔にさいなまれながら、絶命した。


------------------------------------------------------------------------------------


(僕は死んだんだろうか)


真っ暗な世界だ。でも、かろうじて思念はある。でも、自分の視界には何も表示されない。真っ暗な世界が広がる。一筋の光もにない。こんな世界でこれから、アイさんを助けられなかった苦しみをずっと感じながら、生きるのか。


(そうでないなら、死なせてくれ。たのむから)


そう心の中ですべてをあきらめかけていた時、僕のピコン!という音を立てて、ポップアップが表示された。


(?なんだこれ)

そこには、電子的なポップアップメニューの囲いの中に、一つの質問と、YES or NOの選択肢が表示されていた。


「一つ前のセーブ画面に戻りますか? YES or NO?」


なんだこれ。ひとつ前のセーブ画面に戻りますかって、こんなメニューがあるなんて僕は聞いたことがない。まずもって、セーブってなんだ?わかるようで分からない。なんのことを言っているんだ。


そうこうしているうちに、残り時間がポップアップ上部に表示される。


「残り時間、10秒?」


僕は何が何やら分からないまま、YESかNOの選択肢を押さなければならなかった。

残り時間は、9・・8・・・7・・・・6・・・・5とどんどん減っていった。YESかNOを押さねば、このカウントダウンは終わってしまう。なんとなく、ここでYESを押せば、何かが変わる予感がした。その予感がどこから来た知識なのか、僕にはわからなかった。

3・・・2・・・・・・・1と、0を刻むより前に、僕は僕の本能に従い、


「YES」


のボタンを押した。



お読みいただきありがとうございます!


何かを僕自身が感じ取れる作品にしたかったので、

こういう風な作品になりました。

これからも、宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ