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 夏休みもいよいよ終わりに近づいた八月の末。いくつかある夏休みの宿題をやっているところで、コンコンと部屋の戸が叩かれた。


「どうぞ」


と大きな声で言うと、案の定リサが部屋に入ってきた。


「夏休みの宿題やってる?」


「今やってるとこ」


 リサは遠慮なしに俺の机のところまで訪れて、横から宿題を( のぞ )き込んだ。


「結構進めてるね……」


「ゲームとか持ってないからな。家でやること本当にないから宿題だけやってた」


「友達とかと遊びに行かないの?」


「スマホ持ってないから連絡取ってない」


 それを聞いてリサは驚く顔を浮かべる。


「それ早く言いなよ。お父さんに言ったら買ってもらえたよ?」


「いや。勉強机とベッドまで取り(そろ)えてもらったのにスマホまで買ってもらうのはさすがに……」


 するとリサはふくれっ面をし、けれども同時に真剣なまなざしで俺の目を覗き込んだ。


「だめだよ。私たち家族なんだから。私が持ってるものをジュンくんが持ってないって言うのは絶対に良くない」


 久しぶりにジュンくんと呼ばれ、そして彼女がそう呼ぶほどに真剣なのだと感じ


「分かった」


と素直に応える。いや、きっとその迫力で( こた )えさせられたのかもしれない。けれども彼女は満足げにうなずき


「夜お父さんに頼んでみよっか」


とほほ笑んだ。


 その様子に俺はひとまず安堵( あんど )する。


「……それで、用件は?」


「そうだ。出来たら宿題手伝ってくれない……?」


 予想外の言葉に驚いてしまった。その様子を不思議に思ったリサが


「どうしたの?」


と尋ねてくる。


「いや、おまえのことだから」


「リサ」


 喋っている途中で話を遮られ、渋々


「リサのことだから」


と言い直す。


「もうすでに終わってるか、自力でどうにかできるもんだと……。俺の力必要ないよな?」


 けれどもリサは首を大きく横にふった。それから眼を()らしながら舌をぺろりと出した。


「夏期講習の方の課題ばっかりやってたから、存在自体すっかり忘れてた」


 その言葉にほんの少し嫌な予感を覚えた。


「どれくらいやったの……?」


「……ほとんどやってない」


 カレンダーを見る。確か今日は八月二十九日だ。二学期開始まで三日ほどしかない。


 俺は出された夏休みの宿題のリストを確認する。


 国語。読書感想文と古文の練習問題集。


 数学。練習問題集二冊。


 英語。文法問題集と長文問題集。


 結構な量ある。リサはこれを三日で片付けなきゃいけないのかと思った。


「まぁ、頑張れ」


「手伝ってください!」


 必死に頭を下げるものだから椅子から転げ落ちそうになった。


「手伝ってって何をだよ……」


「答え、写させて」


 勉強のできない夏休みの中学生かよと思わずにはいられなかった。俺がリサに


「宿題写させて」


と頼むのは情けない話だが容易に想像できる。片や凡人、片や優等生なのだ。凡人が優等生に助けを求めるという図は誰だって想像できよう。逆なのだ。頼み込んできたのは優等生の方なのだ。学内では模範生ともいえる子が、宿題やってないから助けてと頼み込んできたのだ。目も口も半開きにならざるを得なかった。


「意外と抜けてんのな……」


「う……。ちょっと今年の夏は色々あったから」


 色々とはなんなのか?溜息交じりに理由をとりあえず聞いてみると、リサは口元を袖で隠しながら恥ずかしそうに( つぶ )く。


「家族が増えるからちょっと楽しみにしてて……」


 そう言われてしまうとなんだか責める気力も失せてしまい、自然と


「分かったよ」


と答えていた。最初のうちは俺が来るとはわかっていなかったみたいだけれども、それでも誰かが来ることを楽しみにしてくれていたのだ。そんな彼女に手を差し伸べても罰は当たるまい。


 そういうわけで高校最初の夏休みは、まあそれほど悪いものではないと思う。

 本日、計五話を掲載いたします。


第六話:7時

第七話:10時

第八話:13時

第九話:16時

第十話:19時


 御関心がございましたら、ぜひとも継続して閲覧ください。


 次回は5/9に掲載いたします!


 次回以降から水土の7時に一話ずつ掲載いたします!

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