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 引っ越しが終わり、一見一段落したと思えるかもしれないが、実はそうではない。母親が再婚し苗字が変わったこと、リサと兄妹となったことを高校に伝える必要がある。高校には事前に連絡は済ませてあり、今日、諸々( もろもろ )の変更届の書類を受け取りに行く。家に持って帰って母たちに必要事項を記入してもらってから改めて提出になるが、その提出が夏休み中じゃないとだめなのかそれとも二学期に入ってからでもいいのか分からないので、そのことについても相談しようと考えている。


「別についてこなくてもよかったんじゃないか?」


 行きの電車の中であとをついてきたリサにそういうと


「普段毎日のようにいく学校も夏休みってだけで急に行かなくなるのって不思議だと思わない?夏休みの学校って中々行く機会がないから、この際見て回ろうかなって」


と返された。どうやら彼女は学校に遊びに行く感覚であったみたいだ。


 高校に辿( たど )り着き、そのまま教員室へと向かう。運動部が校庭で練習しているそうで大きな声が廊下の中にまで響いた。教員室に辿り着き、中を( のぞ )くと担任の天辰( あまだつ )先生の姿が目に入ったので彼の( もと )へと近寄った。


「天辰先生。必要な書類、受取りに来ました」


 俺の呼びかけに天辰先生が顔を上げ、俺とリサの姿を認めた。


「よく来たな。本当に兄妹( きょうだい )になったんだな……」


 本当に意外そうに(つぶや)く。それも当然だろう。一番接点がなさそうな俺たちなのだから。


「はい。ジュンくんが私の兄になりました」


 何やら丁寧な物言いでリサが天辰先生に言う。ここ数日俺の前で見せた姿を天辰先生の前では見せることなく、まさに優等生としてふるまっている。確かに、夏休み前までのリサしか知らない俺からすれば、“普段のリサ”とはこっちの方だ。けれども、ここ数日のリサを知っている俺からするとなんだか猫を( かぶ )っているように見えてしまう。


「一つ屋根となるとお互いに不便なところとかあるんじゃないのか?」


「そういう点もありますが、お互い片親で苦労をした仲でもありますので、お互いの負担を分かち合える仲だと思えば心理的な負担は意外と小さいものですよ?」


 いけしゃあしゃあと述べているが、俺の心理的負担については一切触れていない。


 先生と話しているだけなのになぜだか胃がキリキリと痛む。


「それならよかった。まあ、これから先色々と苦労するところもあるかもしれないが、その時は学内のカウンセラーに頼るといいぞ?」


「お気遣いありがとうございます、天辰先生。いざというときの参考にさせていただきますね」


 リサがぺこりと頭を下げてそれに( なら )って俺も頭を下げる。本来ならば、俺と天辰先生が( おも )に事務的な会話をするはずだったのだが、いつの間にかその主導権をリサに握られ、俺がしゃべる場面が基本的になくなっていた。まぁ、余計なことを話さなくてよくなったと考えれば、気は楽だといえなくはないけれども。


「じゃ、この書類を二学期の初日に出してくれ」


「分かりました」


と書類を受け取り、教員室から出た。


 書類を受け取っただけなのに物凄く疲れを感じる。


 その様子を察したのか、リサから


「お疲れ様」


と言われたので、誰のせいだと思ってるんだと思わず口に出しそうになった。ただこのタイミングで言うのはさすがに言いがかりだと気付いていたので、大人しく


「ああ」


とだけ呟いた。


「ねえ。折角だから校舎の中散歩しない?」


 そういえば、リサが学内を見て回りたいと言っていたのを思い出した。わざわざついてきたのだ。彼女の願いをかなえてあげよう。


 コクリと( うなず )くと


「まずは自分たちの教室を見てこよっか」


と言って先を歩いてしまった。


 夏休みの学校なので廊下では人を見かけることはなかった。部活動をしている生徒たちの声が校庭から響き渡り、俺たちの耳へと入ってくるくらいだ。人の声があって人の気配がない校舎だった。


「全く人が居ないわけじゃないんだね」


と校庭のある方角を向きながらリサが感想を述べた。


 俺たちの教室の中は当然だけれども人は誰もいない。( ひ )が差し込んでいるので電気はつけずにそのまま教室の中へと入る。一ヶ月近く人の出入りがなかったからだろうか?なんとなく無機質な空間のように感じた。


「誰もいないね」


「そりゃそうだろ」


と、何を当たり前なことを言うんだと( あき )れた顔を浮かべながら彼女の顔を見る。


「二人きりだね」


 純粋に笑みを浮かべて言うものだからどきりとしてしまった。


「あれ?どうしたの?ジュンお兄ちゃん?顔真っ赤だよ?」


 さっきの純粋な笑みはどこへ行ったのか、今度は人の悪い笑みを浮かべてきた。わざとやったのだと察した。


「……おまえ、あんまからかうな」


「からかうって何が?」


とすっとぼけたように言う。


「それと、私はおまえじゃなくってリサだよ?ちゃんとリサって言ってくれないと」


 今度はグイっと近寄ってそう言ってきた。思わずたじろぎ一歩後ろへと下がる。その様子をさも楽し気に感じているようだった。


 どうすればいいのか分からず、戸惑って目の焦点が合わなくなってくると、リサは俺から離れて一言


初心( うぶ )だね」とからかった。


「おまえなぁ……。天辰の前と態度変えすぎだろ……」


 苦情を言うとキョトンとした顔で俺の顔を見た。それから俺の言葉に応えた。


「天辰先生は年上の他人。礼儀正しくするのは当然でしょ?で、ジュンお兄ちゃんは血はつながってないけど家族。なれなれしい態度を向けて当然でしょ?」


 さも当然のように言うけれども、明らかになれなれしいの度を越えている気がする。


 そんな俺の思いをよそにリサは


「帰ろっか」


と言うのだった。

 本日、計五話を掲載いたします。


第六話:7時

第七話:10時

第八話:13時

第九話:16時

第十話:19時


 御関心がございましたら、ぜひとも継続して閲覧ください。


 次回は5/9に掲載いたします!


 次回以降から水土の7時に一話ずつ掲載いたします!

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