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その次に向かったのは、弓道場だった。なんでも弓道部が試射会とでも言えばいいのだろうか?弓を試しうちする機会を設けているらしい。
「なかなかない機会だよ」
とリサに諭されて、一緒に参加してみることを決めた。
一度くらいは弓をひいてみたいと思う人間は少なくないみたいで、そこそこの行列ができていた。まるで遊園地のアトラクションのようで弓道部員が『最後尾はこちら』との看板を持っていた。三十分ほど待つそうだ。時計を見るとすでに三時を回っているが、文化祭は五時まで開かれるので、今のところ急ぐようなことはない。
並んでいる途中リサは裏方の仕事で何をやったのかを楽しそうに話した。喧嘩の仲裁、備品の紛失、怪我人の保健室への案内、迷子の保護などなど。裏方も含めて文化祭で起こったこと全てを楽しんでいるようで、その笑顔はこれまでに見たリサの笑顔の中でも純粋で、それでいてこちらもホッとするような、緊張をほぐすような笑顔だった。
弓道場の中に入り、やっと目の前の組の試しうちになった。試しうちの様子を後ろから眺めてみると、的から五メートルくらいのところまで近づいて、そこで弓を握り、弦もあまり大きくひいていないのを確認した。
「なんでちゃんとひかないんだろ?」
と呟くと、それを耳に入れた弓道部員が答えてくれた。
「初心者だと弓を射るのに必要な筋力が整っていないので、あれ以上ひけないんですよ。無理にひこうとするとかえって怪我しますから、あそこで止めてもらってます」
その解説は聞いただけだとしっかりと理解できなかったけれども、いざ順番になって弓を持ってみるとあまり強く引っ張れないことに気づいた。
「むず……」
リサの方を見てみると、彼女も弦をひくのに一苦労で、小さくひくのもやっとの様子だった。けれども矢はちゃんと飛び、的にしっかりと当てていた。リサはさっきまで矢を握っていた右手をブイとさせて満面の笑みを俺に向けた。
俺も負けじと彼女のように当てようとするが、中々いいタイミングで矢を放すことができず、前に飛ばない。何度か試させてもらったけれども結局前に飛ばすのもやっとで的に当てるどころかそもそも届きすらしなかった。
仕方なしと諦めて引き上げると、先に引き上げたリサが小馬鹿にするそぶりを見せて「へたっぴ」とからかう。「うっせぇ」と応えるとアハハと上品に大笑いした。その姿になぜだか怒ろうとも思えず、気づけば「まったく」と呆れたように呟いていた。