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 土曜日になり、文化祭初日を迎えた。リサは俺よりも早く家を出てもういない。律儀( りちぎ )にも弁当は作ってくれていて、テーブルの上には俺の朝食とは別に俺の弁当が置かれていた。


 ノボルさんと母は平日の疲れを( い )やすべく、まだ寝ている。昨日、時間が合ったら( のぞ )きに行くといっていたが、恐らく午後になるだろう。


 少ない荷物を抱えて、弁当も忘れることもなく、家を出る。今日は高校はじめての文化祭だけれども、特に感慨深く思うこともなく、土曜登校くらいに感じていた。


 高校が近づくにつれて、なにやらはしゃぐ同じ制服を着た少年少女の姿が増え始める。なんとなく冷めていた俺と違って、かなり楽しみにしている生徒たちは意外と多いようだ。正門に辿( たど )り着けば、生徒会のメンバーや各クラスの委員長らが「実行委員会」と書かれた腕章( わんしょう )をつけて、アーチを運んでいるところだった。


「昨日のうちに運ばなかったんだ」


( つぶや )きながら横を通り過ぎると、運んでいるメンバーの一人にリサの姿を認めた。彼女も俺の姿が見えていたけれども、忙しいのか、軽く会釈( えしゃく )するだけだった。俺は邪魔するわけにはいかないと思い、そのまま教室へと向かう。


 教室ではすでに午前の当番のクラスメイト達が準備を済ませていた。午前のウェイトレス役を任された女子生徒たちはメイド服を身に( まと )い、ウェイター役を任された男子生徒たちは執事服を着て、在庫管理の面々は裏でお皿とお菓子を並べていた。


 教室の出入り口には廣松の他二人が机を置いて座っている。そこは事前会計を行う場所だった。まだ文化祭は始まっていないけれども、勘定( かんじょう )をとるので、金銭トラブルが起きないように常に目を光らせなければならないからすでにいるのだろう。


 荷物を裏方に置いたはいいが、今日のシフトは午後からなので、やることがない。何をして待とうかと思ったところでリョウヘイから声がかかった。


「おまえ、今日、午後からだよな?午前中一緒に回んねえ?」


 ちょうどよく時間を潰せると思い、迷わず首を縦に振った。


 初日開始の放送が鳴り、リョウヘイと一緒に学校内をめぐる。普段と違う装飾に囲まれており、文化祭ならではだと実感していたけれども、だからと言って何を見ればいいのか分からず、リョウヘイと顔を見合わせる。目的もなく教室を転々として、展示を見て回る。調べもの学習をしているところもあれば、自分で作ったのか買ってそろえたのかはよく分からないけれども、絵画や陶芸を飾っているクラスもあった。


 色々な展示があるのだと知ったけれども、心に( ひ )かれるものは特になく、


「外の屋台を見て回ろうぜ」


と言われてついて行く。外は体育会系の部活動の部員たちが出店を開いて料理を振舞っていた。リョウヘイは屋台から漏れる匂いに釣られ、ヤキソバやフランクフルトを買っていくが、生憎( あいにく )朝食を済ませている俺はお腹を空かせておらず、遠慮した。


「んー。うまい」と呟くのを聞いて、文化祭というイベントが彼にその食材をおいしく感じさせているのだろうなとつまらないことを考えてふらふらと今度は体育館の方へと向かう。


 体育館は椅子が並べられており、人がまばらに座っている。壇上にはまだ人が居ないのだけれども、( しばら )くすると、演劇部が演劇を行うらしい。


「見ていくか?」


とリョウヘイに聞かれ


「暇つぶしにはちょうどいいだろ」


と答えるとそのまま鑑賞することが決まった。


 演劇部の出し物の後は軽音部の演奏へと移った。軽音部のバンドは一組ではなく複数の組が出ており、それを順々に聞いているうちにちょうどお昼を迎えた。


 そして俺は教室へと戻り、リョウヘイは彼が所属しているサッカー部の方へと向かい、散策は終わった。


 教室に戻って、在庫管理の当番を交代したとき、心の中でふと思ったのが、


「俺、文化祭の楽しみ方、知らねえんだなぁ」


だった。

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