36
クラス内での打ち合わせとは言えない打ち合わせの帰り、夕日も見えなくなった時間帯に、リサはほんの少しだけ頬を膨らませながら俺の隣に立っていた。
「なんであそこでばらすかなぁ……」
言葉遣いから不機嫌であることは明確で、隣に立つ俺としてはあまり心臓にいいものではない。
「ばらすつもりはなかったんだけど……。恥ずかしいものなの?メイド服って」
リサは直接返答せず「んー!」と大きく唸る。そこからなんとなく答えたくないほどに恥ずかしいものなのだとよく分かった。
「それなら、なんでメイド喫茶を希望してるかのように匂わせたんだよ……。あと、なんで俺の前で着たの?」
呆れたように呟くが、リサはそっぽを向くだけで答えてくれない。俺はどうふるまえばいいのか分からず、小さく溜息を吐くしかなかった。するとその溜息を聞き逃さなかったとでもいうような感じでキッと俺を睨みつける。
「もぉ!言わなきゃ分かんない!?」
そう怒ったように言われても、分からないものは分からないというのが内心浮かんだ言葉だった。元々リサのふるまいについていけなかったり理解できなかったりするところが多かった。そこに追加して今の何とも言えないようなリサの不機嫌っぷり。そんな彼女に的確な対応が存在するのなら、ぜひともそれを教えてほしいものだと感じていた。
俺が反応を示せていないのを見てリサはプイと再びそっぽを向いてしまう。何も声をかけることができず、それでいてどうしてかその様子がおかしく感じてしまい、思わず苦笑してしまった。
すると今度は俺の笑いに反応し、
「どうして笑うの!」
と声を上げる。
「いや。今までに見たことのない顔だからつい」
苦笑は止まらない。不機嫌と言っても随分前に見た彼女の不機嫌さとは異なる種類の不機嫌さだった。どちらかというと、照れ隠しの不機嫌さと言えばいいのだろうか?そう、俺は彼女を知ってから半年、そして彼女と共に暮らすようになってから二ヶ月ちょい、初めて必死に照れを隠すリサの姿を見た。
一言でいえば、彼女のその姿がただただ新鮮だった。
そんななか、リサが鞄を抱え口元を隠し、顔と耳を赤くしてチラリと横眼遣いで俺を見て、たった一言小さな声で「いじわる」と呟くのを聞いて、思わずドキリとしてしまう。いつものからかいかと思って身構えていたが、けれどもリサはいつものようにいたずらっ子の笑みを浮かべることなくプイと再び顔を逸らしてしまった。
そのふるまいに俺は戸惑いを覚え、自然と歩調が緩み、彼女の後姿を見つめる。
なぜだか鼓動が収まらなかった。