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体育の時の捻挫はすっかり引いた。
普通に両足でまっすぐ歩けるようになったので、登下校にかかる時間も以前と同じになった。午前中授業を受けて、自分が作った弁当とかリサが作った弁当とかを昼休みにリョウヘイと校庭で食べて、午後の授業も受ける。
リサの家を起点に登下校すること以外はそれほど変わり映えしない当たり前の日々になってきた。強いて言うならば、文化祭の準備のため、時折リサが朝早く高校に赴いたり、放課後まで高校に残ったりするくらいだ。
そんな折、リサからぶっきら棒に声がかかった。
「帰り、寄り道しない?」
下校中の突然の提案に思わずぽかんと彼女の顔を見る。提案された内容よりも、なぜ不機嫌そうに言うのか、そっちの方が気になった。リサを不機嫌にさせてからいよいよ一週間が経とうとするが、彼女はまだ機嫌を直してくれず、最低限の会話はするものの、ここしばらくは部屋にも訪れなかった。
それが急に「寄り道」と言われても、一体何のためにどこに行こうというのか皆目見当もつかず、断る理由はないものの付き合う理由もないためにどう答えればいいのかも分からず、後ずさって口籠ってしまう。
その様子を訝しげな表情で俺を見て
「なに?」
と尋ねられるけれども反射的に
「怖いんだけど」
と応えてしまった。
リサは暫く俺の顔を覗き込み、それから小さく溜息を吐く。
「なに怖がってるの……」
「いや、機嫌悪そうだし……」
リサは一瞥してそれから再び、今度は大きく溜息を吐いた。
「そう思ってるならそれでいいよ。とりあえずついてきて」
こうも不機嫌そうな声で一方的に言われてしまうとおずおずと頷くことしかできず、渋々ながら彼女の後ろをついて行った。
向かった先は家とは反対方向にある繁華街で、この街にはたしかリサが通っている塾があったはずだ。リサに案内されたのは町中にあるクレープ屋で女子高生や恐らく女子大生くらいの年齢の人たちが行列を作っていた。男の姿はいなくはないが、傍から見てカップルの連れだと分かる。それもあってか男の自分が並んでいることが場違いである気しかせず、居心地が悪かった。
並んだクレープ屋は店頭のみの販売と言うわけではなく、奥の方にテーブル席をいくつも持っていた。けれども、行列内の人口密度のように店内も密度が高く、席が空くのを待つ気にはなれなかった。リサも同様に考えたのか、「持ち帰りで」と言ってストロベリークレープにアイスクリームをトッピングしたものを頼む。俺は注文の様子を黙って眺めていたが、肘をつかれそれから「そっちも頼んで」と強く言われる。
慌ててメニューを見るが、クレープなど食べたことがないので、味の想像もできず、何を頼めばいいのかも分からず、恐慌状態になりかけ、それから「同じのを」と何とか言葉を紡ぎだした。
それから店員が二人分の合計金額を請求し、どうやって分担して払おうかと頭を捻らせると再びリサから小突かれる。今度は何だと思い彼女の顔を見ると。
最初はまっすぐ見つめてたと思うと、今度はニヤリと悪だくみを考えているかのような表情を浮かべ、それから満面の笑みを俺に向けてこう言い放った。
「出してくれるよね?ジュンお兄ちゃん!」
彼女の豹変ぶりに俺は唖然として顔を引きつらせながら乾いた笑いを浮かべるしかなかった。