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リサとのぎくしゃくとした関係はほんの少し続きそうだった。
昨日の残り物を温めて昼食用の弁当にするつもりだったのだけれども、今日はリサが改めて調理をして弁当を作ってしまった。作ってしまっては仕方がないから素直に受け取って鞄に詰め込むしかない。彼女がわざわざ必要もないのに弁当を作ったのは、俺に対して何かしらの抗議を示しているように感じて、あまり彼女に対して強く言って止めることができなかった。
その日は文化祭関係の仕事がないそうで一緒に登校した。けれども会話はなかった。彼女が傍にいるので自然と彼女のペースで歩いていたが、リサもリサでどうやら捻挫のせいで遅くなっている俺の歩くスピードに合わせていたらしく、結果的に肩を並べて歩いていた。それでも傍から見ても、リサの機嫌が何やら良くなさそうなのが目に映り、きっと俺たちは不仲そうに見えるだろう。
それほどまでに彼女はこだわっていることがあって、俺がそのこだわりに合わせられるようになるまでは、ぎくしゃくした関係が続くのかもしれないと予想できた。だからこそどうすればいいか分からず、教室に到着してからアキミツとリョウヘイを呼んで相談した。
「あー。そこらへんになるとさすがに家庭の事情だろ?俺じゃ答えられねえわ」
アキミツはさっそく回答できないと返してきた。リョウヘイもそのようで首を横に振る。
「正直どっちの立場も理解できるといえば理解できるしできないといえばできないんだよな。多分委員長は分け隔てなく兄と妹の関係を築きたいって言ってるんだろうけど、でもジュンとしちゃあ母親が嫁いだホームステイ先って印象が強いんだろ?委員長の要望に合わせるためにはまずはホームステイの感覚を取っ払う必要があるんだろうけど、それって多分一筋縄にはいかないだろうし、かといって委員長の意見をごり押しするのもやっぱ強引にしか感じられないし。もう少しお互いの距離感を測る時間が必要なんじゃないかなって感じる。というか時間かけてお互いを慣らしていくしかないんじゃないか?」
リョウヘイの言葉は全てを共感することはできなくても、なんとなくその通りかもしれないと感じさせられた。
「どのくらい時間が必要だと思う?」
「一年はかかるって考えてもいいんじゃね?そう一朝一夕で解決するような関係でもないだろ?」
「マジか」
と嘆息する。
これから一年間、お互いの距離を測りながら過ごしていくしかないのか。
そう考えると気が重く感じられた。
「そういやさ」と俺の考え事を遮るようにアキミツが口を開いた。
「昨日、職員室前で先生たちが話しているの聞いたんだけどよ。委員長B判定だってな」
何の話だと思って眉間に皺を寄せているとリョウヘイが「東大模試か?」と尋ね、アキミツが首肯する。
「マジか……。居るんだな、一年生でも東大模試で成績上位者になるやつって」
「さすがに成績上位者名簿には載せられなかったらしいけど、先公たちは大はしゃぎだぜ?このままのモチベーションを続けさせれば、東大入れられるだろうって。てかもう受かったも当然みたいな空気だったし」
「いやぁ……。住む世界違うなって感じてたけど、やっぱ違うな」
三人してリサの姿を見る。リサは自分の席でクラスメイトの女子生徒たちと談笑をしていた。登校中に俺が隣に立っていた時と違って、不機嫌な様子は見せず、微笑んでいた。
「確かにあんな化け物が突然同じ家で暮らすなんてなったらどう接すりゃいいのか分かんねえよな……。むしろかなりラフな関係になってる方じゃないのか?委員長、一体ジュンに何を求めてんだろうな……?」
リョウヘイの疑問に俺は「分からない」と言うのがやっとだった。




