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お盆休みの初日。小学校一年生の時に亡くなった父の墓参りに出かけた帰り道、スーパーで買い物しているときに、突然母から思いもよらない質問を浴びせられた。
「あなたの同級生に西陣リサちゃんっていない?」
まさか母の口から西陣の名前が出てくるとは予想できず、しどろもどろになった。
「居るけど……」
と戸惑いつつも答え、それから質問の意図はなんだと聞き返す。
「職場の同僚の娘さんらしいのよ。あなた、リサちゃんと交流あったりする?」
今日の料理に使おうと思った賞味期限ぎりぎりで割引シールの貼られた豚肉を買い物かごの中に入れながら、クラス内での彼女の様子を思い出す。クラスメイトであるが交流らしい交流などない。彼女はクラス委員長を務めているので、提出物とかクラス内の連絡事項などで時折話すことはあるけれども、それも月に一度あるかないかだ。班分けの時に同じグループに入ったこともないし、ホームルーム以外の授業でペアを組んだことなんかもない。正直、成績が優秀であること以外に彼女が一体どんな人物なのか一切知らなかった。強いて言うならば、友達はいるようだけれども傍から見ると近づきがたい雰囲気を醸し出すなと感じるくらいだろうか?
「基本的にないよ」
と答えながら、切り身魚の色を比べていると母からさらに予想斜め上の質問を投げかけられた。
「そう……。じゃあ、リサちゃんに興味とか持ってたりするの?」
要領を得ない質問に思わず振り返り
「興味って?」
と聞き返すと、
「ほら。貴方も思春期真っ盛りなんだから、女性として関心があったりとかするのかなぁって」
と返された。あまりにも突拍子のない質問だったので口を半開きにし、手に持っていた切り身魚をぽとりと落としてしまう。
「ちょっと!なにしてるの!」
切り身魚を落としたことを母は非難するけれども、俺としてはそんな質問を投げてきた母を非難したい。
「質問の意図分からないんだけど」
「そう?聞いた通りのままよ?お付き合いをしてみたいとかそう言った感情はないのかなって」
「ない」
自然と即答した。当然だ。高嶺の花とかそれを考える以前に、そもそも住む世界が違うのだ。恋愛対象どころか憧れの対象として見ること自体ナンセンスだった。
「くだらないこと言ってないで、さっさと買い物済まそう」
振られた話題のせいで芽生えた不機嫌さを隠すためにも、話を無理やり切り上げさせて、俺は籠を持ってレジへと向かう。母は何やら考え込むように俺の後ろをついてきたけれども、母のその素振を俺は気にすることはなかった。
後になって振り返ってみると、あの時点で色々と妙な点があったのだ。なぜそのようなことを質問したのかとしっかりと聞かなかったことがあの日の俺の過ちなんだとつくづく実感する。
本日、計五話を掲載いたします。
第一話:7時
第二話:10時
第三話:13時
第四話:16時
第五話:19時
御関心がございましたら、ぜひとも継続して閲覧ください。
次回は5/6に掲載いたします!
本作は水土の7時に掲載いたします。