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十月に入り、制服が夏服から冬服へと変わった。男子生徒は半そでのワイシャツが長袖のワイシャツに代わり、その上から男子生徒用のブレザーを羽織り、女子生徒は半そでのブラウスが長袖のブラウスに代わって、その上から女子生徒用のブレザーを羽織る。まだ暑いねとブレザーをはためかせるものも居れば、寒がりの生徒は若干縮こまっているのも見受けられる。
俺はまだ暑いと感じている方の人間で、ブレザーを脱いで脇で抱えながら通学路を歩いていた。
「尼崎!」
校門まであと五分ほどのところで、後ろから俺の旧姓を呼ぶ声が聞こえた。振り返ればアキミツとリョウヘイが後ろにいて、俺の方へと走って寄ってきた。互いにおはようと挨拶を交わし、並んで登校する。
「今日は委員長居ないのか?」
「ああ。文化祭近いから先に登校した」
今、隣にリサはいない。文化祭まであと一月。彼女はクラス委員長として文化祭の裏方の仕事をこなす必要がある。
今日は朝から生徒会に呼ばれており、先日クラスで決めた出し物が何であるかを報告するらしい。生徒会にはこれまでの文化祭での出し物の情報が蓄積されているそうだ。例えば、教室の内装や備品に何が必要になったのかとか催し物にかかるおおよその予算とか。開催希望の出し物が過去に催されたものであった場合は、その時のノウハウを各クラスに提供するとのこと。もしメイド執事喫茶が過去にも開催されたならば、後日生徒会からそのときの資料をもらえ、それを踏まえて準備を進めることができる。
今日は朝に呼び出されているが、日によっては放課後に居残りをさせられるそうだ。家事や塾などで時間を割かれる中で、さらに文化祭の裏方の仕事が入るのを見ると、両立できるのかと疑問に思う。
「そういや、二学期の中間試験って文化祭前にやるっけ?後だっけ?」
リョウヘイの問いにアキミツが「前」と答える。
「マジか。文化祭の準備と試験対策同時にやんのか……。これなら食レポの方が楽だったな……」
「文句はテッペイに言え」
と三人で苦笑いを浮かべる。
「おい!尼崎!」
と突然前方から低くて野太い声が聞こえた。生活指導の五十嵐先生だ。
「登校中はブレザーをちゃんと羽織れ!」
ブレザーを羽織っていないことに対する指導だった。俺は
「はーい」
と言いながらブレザーを身に纏い、アキミツたちと校門をくぐった。
教室に辿り着くとやはりというべきか、珍しいことにリサは突っ伏して寝ていた。いつもよりも一時間早く家を出て、それに合わせて弁当当番の日よりも三十分ほど早く起きている。眠たくなるのも当然だろう。今は起こさないでそっとしてあげようと思い、そのまま自席へと向かった。




