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 九月に入って一週目の日曜日、俺はノボルさんと一緒に携帯ショップへと出かけた。今まで持っていなかったスマートフォンを買うためだ。しきりにノボルさんとリサから持つように言われ、俺が折れる形で自分のものを持つことが決まった。偶然なのかどうなのかは知らないが母のスマートフォンは西陣家のものと機種が同じだったそうで、買い替えの必要がなく、俺だけが買うことになった。


 ちなみに母に限っていえば名義の苗字が変わっているので、名義変更の届出が必要なのだけれども、俺の知らぬ間にすでに済ませていたらしい。そのときに俺も連れて行った方が二度手間にならなかったんじゃないかとおもったけれども、済ませてしまったあとなら何を言ったところでもう遅い。


 携帯ショップに辿( たど )り着き、順番待ちをしながらスマートフォンの見本を見て回る。初めての買い物なので正直機種ごとで何が違うのか分からず、顔をしかめてしまう。


「好きなのを買っていいよ?最新のものなんてどう?」


 ノボルさんは俺のためにいいものをと提案してくれるのだけれども、そもそも俺はものを知らないし使い方も分からず、店頭に並べられている見本の違いがよく分からなかった。仮に最新機種を買ったとしても使いこなせないだろう。正直手にしたところで誰かと連絡するなんて気も持っていなかったし。


「ええっと……、り、リサさんのと同じので……」


 無難( ぶなん )な選択肢はこれだと思って、慣れないながらもリサの名前をポツリと呟く。


「いいのかい?リサのは去年の機種だよ?」


「同じ機種の方が色々と聞けますから……」


 そういうと合点( がってん )がいったように


「分かった」


と言ってくれた。


 それから自分たちの順番になり、リサの機種を希望し一時間近くスマートフォンの操作とか注意事項とか色々と聞かされてやっと商品を渡された。意外と時間がかかるものなんだと感じ、疲れがどっと( あふ )れ出る。


「ありがとうございます」


「気にしなくていいよ。親子なんだから」


 そう言われてそうだったと思い出す。まだ慣れていないため、どうしても他人行儀になってしまうが、ノボルさんは母の再婚相手であるのだから当然俺の父親になる。ノボルさん自身は理解のある方で、無理に「父さん」と呼ぶよう強要しないから心理的負担は小さい。それでもあまり他人行儀過ぎるのも彼に失礼かもしれない。( もっと )も心の距離を縮める方法は正直分からないので、この状態がしばらく続く予感はするのだけれども。


 家に帰りそのまま自室へと向かった。まだ陽が傾く前で夕飯どきまで時間がある。俺は説明書と見比べながらスマートフォンに慣れようとあれこれ操作しようとするが、画面に映っているアイコンの意味も分からずしどろもどろになっていた。


 そんな中、扉がコンコンと叩く音が聞こえる。リサかなと思い


「どうぞ」


というと、案の定彼女が入ってきた。


「スマホ、手に入ったね。おめでとう」


 ぱちぱちと意味もなく手を叩いていた。


「使い心地はどう?」


「そもそも使ったことがないからよく分からん」


 困った表情を浮かべて彼女の顔を見ると


「電話とかメールとかも分かんない?」


と尋ねられた。


「全く分かんねえ……」


「ちょっと待ってて」


 リサは一度部屋から離れた。それから自分のスマートフォンを持って戻ってきた。


「まずアドレス登録しようか」


「あどれす?」


「メールアドレスのことだよ?分かんない?」


 コクリと頷くと


「まるでおじいちゃんだね」


とくすくすと笑われる。


「使って慣れよっか」


 リサは時間をかけて俺に文字の打ち込み方、連絡先の登録の仕方、電話のかけ方、メールの書き方と送り方などを丁寧に説明してくれた。実際にリサの連絡先を登録し、電話やメールのやりとりの練習もさせてもらった。まだ慣れないところはあるが、連絡のやり取りだけであればリサなしでもできるかもしれない。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 そう言ってリサはそのまま部屋を退出した。


 それから夕飯を食べ、お風呂に入り、明日の学校の準備をする。


 ピロリン、と何やら音が聞こえ、そういえばスマートフォンのメールの受信音だったことを思い出して、それを手に取った。リサからだ。わざわざメールで一体なんお様だろうと思い、開いてみると……。


『大好き』


 唐突過ぎてスマートフォンを落としそうになった。気恥ずかしさよりも何かもやもやとした感覚が湧いて、彼女になんて文句を言おうかと頭の中がぐちゃぐちゃになる。そもそもわざわざメールで送ることなのだろうか?


 とりあえず彼女の部屋に行こうと思って机から離れようとしたところで再びピロリンと音が鳴った。


 またリサからだった。


 今度はなんだと思ってメールを開いてみると。


『兄妹なんだからあまり気を張らないでね』


 その言葉を見たとき、なぜだかリサに文句を言う気力がなくなってしまった。


 ほんの少しだけ頭を冷やしてベッドに腰を掛ける。


 それから慣れない手つきで心の中に思い浮かんだ言葉を打ち込んだ。


『大丈夫。ありがとう』と。

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