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魔王様の右腕 ーwithディアボロスー  作者: 餅の上
アルタの村
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7.悪い噂①

 ヴォルホークが両膝を突く様子を少しの間見下ろして、達巳はヴォルホークにまつわる悪い噂について尋ねてみた。


「えーっと、襲われた村の女子供は攫って行くとか、殺した相手の血は最後の一滴まで啜るとか、金品や食料を差し出せば助けてやると言いながら最後には命を奪うとか……」


「なんだそれ、身に覚えないわ!なんだよ血を啜るとか悪趣味か!」


「違うんですか!?」


「逆にどうして信じた?啜る?血、啜る?」


「物好きな人もいるんだなって……」


 シエルは自信なさげにヴォルホークの言葉に答える。と、そこへ体に力を取り戻した芽実がゆらりと現れた。


「あのさ、話の腰折るけどあの人大丈夫?もう今にも死にそうだけど」


 指差した先には肌が青ざめて倒れたミレアが横たわっていた。


「あちゃ、忘れてた!」


 ヴォルホークが両手で口元を覆う。

 ミレアの容態を見たシエルが焦って駆け寄り、熱や脈を診て急いで移動を提案した。


「すごく顔色悪いじゃないですか!早く村まで運びましょう、お医者さんに診てもらわないと!」


「村が近くにあるの?」


 達巳が背負いながらシエルに尋ねる。

 ヴォルホークも近くに村があると全く知らなかったようで「へー」呆けて言う。



「はい!アルタ村と言います、ちょっと歩けばありますよ。私は冬を越すまでそこでお世話になっていました」


「よりにもよって冬ど真ん中の、雪が降るってぐらい寒い日に城へ乗り込んできたもんなお前ら」


「降るぐらいって……本当に雪降って積もったじゃないですか、・・・っとお!」


 シエルはヴォルホークが隔世へ行っていた事を知らない。そのため降雪を知らない口ぶりのヴォルホークの言動を不思議に思いつつ、アラクレイノシシに縄を巻きつけた。


「何してるんだ?」


 達巳が質問すると、縄を引きながらシエルが答えた。


「村に持って帰って食べます!今日は猪鍋ですね~♪」


「えっ……」


 白目を剥いた大猪をちらりと見て、達巳はシエルの言葉を疑った。こんな臭みもあって硬そうな肉を食べるのか聞こうと思ったが、晩御飯を楽しみにする少女の笑顔を見ると、口出しするのを思い留めた。

シエルは「案内しますね」と言うとアラクレイノシシの巨体を牽いて先導し始めた。


「あの線の細い体のどこにコレを牽引するだけの力があるんだろ」


 芽実がぽつりと呟くと、達巳とその肩に乗るヴォルホークも無言で頷き同意した。

 村に向かう道すがら、ヴォルホークは先頭のシエルに話しかけた。


「ところでシエルが何故この辺りに居るんだ?

 城に乗り込んできた全員、魔法で外に出しておいたはずだぞ。……いや、禿げジジイは勝手に出て行っていたな」


「リーカーさんですか?」


「多分そいつだ。あの魔術師は城が崩れそうになった途端一人で逃げ出していたが、お前を含めた残り三人は全員、儂の転送魔法で場外出しておいたはずなのに仲間に拾ってもらえなかったのか?」


「あの日、私は城の崩壊の中で勇者様に先に脱出してと言ったんです。

 魔王さんが私を外へ転送してくれたみたいですけど、多分それを知らないまま私が城に押し潰されたと思って帰っちゃったのかも」


「え、旅仲間なんだからシエルを捜すとかするものじゃ。勇者なのに薄情だな」


 達巳が思ったことを口に出すとシエルが苦い表情で歯切れ悪く笑う。

 仲間を悪く言われて快く思わないのは当たり前で、達巳は内心「しまった!」と後悔した。そこに達巳の肩に乗ったヴォルホークが口を出して補足する。


「冬だし、あの日は雪も降っていたからな。

 城を構えていた儂ですら知らなかったこの村に気付かなかったんだろう。シエルを捜すために留まっていたら、むしろ雪で身動きが取れなくて凍え死ぬところだったろうな」


「はい、だから私も春になるまで村から動けなくて。

 ところで私、魔王さんにお聞きしたいことがあるんです。」


「聞きたいこと?」


 真剣な声になったシエルに一同耳を傾ける。シエルは一度唇を噛んで、重苦しく口を開いた。


「魔王さんが討伐されてから国から魔人が虐げられているって噂について知っていらっしゃいますか?」


 シエルの口から出た言葉に魔人のヴォルホークだけでなく、達巳と芽実も時が止まったかのように凍り付いた。


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