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魔王様の右腕 ーwithディアボロスー  作者: 餅の上
アルタの村
18/30

16.出立

 まだ夜の涼しさの残る早朝、一行は村を出立しようとしていた。

 していたのだが。


「すぴー……すぴー……」


「「起きねえええぇぇえぇええええええ!!」」


 シエルが頬をつねっても叩いても、爆睡したまま起きる気配を見せない。達巳と芽実はあの手この手で起こそうと試みたものの何一つ効果がなかった。


「耳元でフライパン叩き合わせても起きないのヤバくない?普通飛びあがって起きるでしょ」


「頭に水ぶっかけても起きないし、なんだこの子……」


「諦めなさいよ、寝る食うに関してはホント、どうしようもなからソレ」


 エクセトラが芽実の握ってきたおむすびを頬張って言う。

 盗賊の被害を受けたアルタの村では婦人会と狩猟会が共同で食事を提供して回っており、芽実も昨日の夕食から手伝いを行っていたのだった。このおむすびはその余りである。


「口におむすびねじ込めば起きたりしねえか?」


「起きるより窒息死しちゃうんで……!」


 ヴォルホークの提案を達巳が制止する。水を掛ける所業をしておいて何を言っているのだとエクセトラは内心呟いた。


「あ、夢魔!夢魔のミレアさんならどうにかできるんじゃないですか!?」


「出来ますよ♪」


「出来るんかいっ。だったら笑いながら見てないでよ」


 達巳の質問に、笑顔でミレアが答える。一晩寝たおかげで歩ける程度まで回復していた。「起こせるのにずっと微笑みながら眺めてたのか、起こせよ」と芽実は内心憤った。。

 ミレアがシエルの頬を優しくひと撫でして、首元に顔を近づける。ミレアの唇がシエルの首筋にフッと重なると、眠り姫が永い眠りから覚めるように金髪の少女がゆっくりと瞼を開く。

 上体を起こしたシエルは全身を伸ばすと、犬が尻尾を振り回すように顔を振った。ほどいた長い髪が追う様に揺れる。


「んーーー!よく寝た!」


 起床したシエルはすぐに身支度を始めた。手早く顔を洗い、髪を整えた。朝からご飯を二杯ぺろりと平らげると、旅装束に着替えた。

 

「お待たせしました!では元気いっぱい、行きましょう!!」


「……こっちは朝から疲れたんだけど、誰かさんのせいで」


「え?クーちゃんまた何か迷惑かけたの?」


「なんでアタシなのよ!アンタよアンタ!」


 力いっぱい指差してエクセトラが叫ぶ。何があっても起きなかったシエルはなぜ自分が叱られているのか分からず首を傾げた。


「やはりメトロフですか」


「ああ。メトロフは魔人の多い町だし排他主義もそこまで影響ないだろうからな」


 シエルたちが騒いでいる一方で、カルムが達巳たちを見送るついでに今後の方針を尋ねていた。昨夜ヴォルホークが魔王と知ってからは、カルムも小さな魔人では無く、魔王として敬っている様子だ。

 なお、エクセトラは結局、態度を変えることは無かった。


「よし、じゃあ行くか!出発!」


 達巳の肩に乗ってヴォルホークが出発の音頭を取る。

 エクセトラとカルムは一行を見送って、村に向き変える。自分たちも冬を越すためにアルタの村に世話になっていたので、これ以上長く村に留まる予定も無い。荒れた村の事後処理が一段落したら自分たちも出発しようと考えていた。

 昼過ぎまで広場や家屋の廃材撤去を手伝って、一息ついた二人は昨晩過ごした病室へ戻った。

 借りていた小屋が台無しなので、今はここが仮部屋だ。


「あら?……これは」


机の上に置いてある懐中時計が目に留まって、手に取る。

 

「なんかこれ、見たことあるわね……」


 雲の無いまっさらな青空を思わせる笑顔を見せる少女の笑顔が脳裏に浮かぶ。懐中時計の蓋を開けると、蓋の裏側に今より少し幼く、髪の短いシエルが家族と一緒に写った写真が貼り付けてあった。

 写真なんてなかなか用意できない物を貼ってあることに、この懐中時計がいかに大切なものか窺える。

「お父さんが持たせてくれたの!」「この装飾、お父さんのデザインなんだ!」「しかもデザインには由来があって、これはコルセール様が――」


「……はぁ」


 シエルの笑顔が浮かんでは消える。ふと珍しいデザインをした懐中時計だったために気になって聞いてみたら早口で話し始めたシエルの顔が頭から離れない。


「仕方ないわねえ……ッ」


エクセトラは頭を掻いて、カルムを呼んだ。エクセトラが持つ懐中時計を見たカルムは、それだけでおおよそを察する。


「大事なものなら出発前に確認しておきなさいってのよ」


口を尖らせるエクセトラを見て、カルムは微笑む。そう言いながら彼女の足は村の出入り口へ向かっていった。

 村を出ていくことを村民に伝え、エクセトラはカルムに跨る。


「日が沈む前にメトロフに着けるかどうかだな」


 時刻は丁度正午を過ぎたあたり。今から追いかけても、今日中に追いつけるか分からない。


「だからって明日になったら、なお追いつけないもの」


「了解、しっかり掴まれ」


 エクセトラが手に力を籠め、姿勢を低く屈める。

 彼女を乗せ、氷狼は風を切って走り出した。


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